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█の見た平和  作者: 白河田沼


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第09話 一人目の裏切り者

「第一回情報子生成実験これにて完了です。」

瓶底眼鏡のブリッジをくいっと上げて、

「神」のようにフリージアが笑めば、

「「え」」という信じられないような声が研究員達の口から漏れた。

してローズ教授としてSNSに挙げた情報子生成実験の動画は百万回再生を突破し、

その理論を正式に公表したローズ所長は当然時の人となった、実験を行ったWPRIは営業利益を四割程回復させる。


「情報の種計画」に記された特記事項通りに







◻︎

WPRIには裏切り者が三人いる。

例の実験から数週間経った今、

メディアの取材が一段落したフリージアは自室でシャワーを浴びながらもそう確信していた。

情報の泡擬似生成実験はデータを持ちながら意外と手こずっている。

情報の種計画に必須な情報の泡を、

フリージアの体だけでは無く霊子コンピューターの内部に作るつもりであった。

時の人となったフリージアではあるが、資金は潤沢とは言えない。

自身の体を売る事も考えたが、

メディアに露出している以上不祥事を増やす程の愚挙を犯す気は無かった。

けれどそれに関係なくWPRI全体の利益が滞っている。

正確には伸び悩んでいた。










「その理由の一つとしての裏切り者ですか。

困りました、三人には絞れているのですが今(・)回(・)の(・)裏(・)切(・)り(・)が(・)誰(・)か(・)、決定する証拠がありません。

おそらく相手は私の体では籠絡出来ない。

それだけの精神力を持った人物の筈です。

であればこそ、こちらは罠を仕掛けて待つしか無い。

彼女の信念上、

必ず食いつかなければ行けない「罠」を」

「困りましたね、誰かに相談する気力すら起きません。」と魔女のように笑みながら静かにフリージアは言った。

そうして冷水の中で思考を纏める。

今回の裏切り者は恐らくWPRIの要、

霊子コンピューターをハッキングして来る。

彼女の性格ややり方からしてその可能性が最も高いのだ。

実際、彼女は最古参、

WPRI研究員として霊子コンピューターとはフリージアを遥かに凌ぐ年月を共にしてきただろう。

そんな人間が取る手段は霊子コンピューターのハッキングしか思いつかなかったのだ。













「しかし、どうやって霊子コンピューターをハッキングするかは分かりません。

まぁ明日になれば分かるかも知れませんが、

・・「罠」を仕掛けるとすればそこですか。」

そんな風に聖人のように笑みながら冷徹に吐き捨てるフリージアである。

WPRIには三人の裏切り者が居た。

最初に動くであろう彼女と同様にフリージアに因縁を持つ彼らはしかし、

今回は様子見に徹するだろう事は読めていた。

"人類の未来の為に"「平和」に関する研究を進めるWPRI研究員、

その一員である彼らにも計画という物があるのだろう。

そう考えながらもこう独り言ちる、フリージアである。












「裏切り者三人の内、

私の命に届くのは誰でしょうか。

ねえ、ルシファー」

裏で糸を引くであろう、

大罪術式次期後継者の名前を「神」のように笑みながら、傲慢の一族次期後継者の顔を思い浮かべて、

けれど「戒めの鎖」を見ながら口にした。

そうして、フリージアはシャワーから出る冷水を温水に変えた。













◻︎

その日は正しく最悪な日だった。

霊子コンピューターが内部からハッキングされたのだ。

その元が、サーバー室、

引いてはサーバー室に置いてある一台のパソコンからである事も分かっている物の、

けれど同時に問題があった。

病欠のカーネーション首席補佐官を除いて、

殆どの研究員が実験室に揃っているのだ。










「これでは幽霊がハッキングして来たと判断するしかありませんね。

どうしましょうか、皆さん。

世界最高峰のセキュリティを誇るWPRIのサーバールームが、ただの一台のパソコンにハッキングされてしまいました。

このままではWPRIの秘匿していた全ての情報が世界に流出する危険性があります。

私の不始末に終わらず、

ここにいる全員が住処と居場所を失うでしょう。」





「・・・であれば、どうするというのだ姉上。そのサーバールームに研究員を向かわせるか」






「いいえ、所長である私が向かいます。

皆はサーバールームからの霊子コンピューターへのハッキングを足止めしておいて下さい。

必ずその間に私が何とかします」

頼もしくも映るそんな言葉と共に瓶底眼鏡のブリッジをくいっと上げた後、

フリージアは研究室の扉の前に立った。

けれど扉が金属が噛み合うような音をさせながら形を変えた後、

数度回転するように錠前自体が駆動すれば、

しゅーと空気を吐き出すような音と共に開いた。

そうして、走り出すフリージアである。





















「・・・・」

走る、走る、走る

沈黙の内に廊下を曲がり階段を駆け上がってゆく。

三階にあるサーバールームを目指してただ足を動かす。

して、三階の文字が見え廊下へと続く階段の踊り場にあった扉を勢いよく開く。

そうして、廊下を走れば重厚な扉に当たった。













「・・・・・・・」

「戒めの鎖」の管理者権限を用いて、

扉の横にある液晶端末に「戒めの鎖」で触れた。

白い光を液晶端末が吐き出せば

けれど扉が金属が噛み合うような音をさせながら形を変えた後、

三度回転するように錠前自体が駆動すれば、

しゅーと空気を吐き出すような音と共に開いた。

そうして、その先に居る人物を一目見れば、

けれど人のように笑んでフリージアはこう言った。














「何してるんですか、カーネーション・イエロー首席補佐官」

そう、サーバールームに似合わそうなコンピューターから手を離して、

図書館の書庫のようにサーバーが並ぶ部屋で、

首席補佐官はフリージアを見つめる。

見つめてこう言った。











「漸く来ましたか、淫猥なる黒の魔女(はは)よ」

そう嫉妬に満ちた瞳をした、黒髪黒目の少女

カーネーション・イエロー・ペルガモはそう言った。

まるで穢らわしい者を見るかの様な目で










◻︎

カーネーション・イエロー・ペルガモ首席補佐官、

彼女の過去は謎に包まれていた。

何でもとある実験体の失敗作だとか、

都市を滅ぼせる程の魔力を大罪術式を受け継ぐ大罪の術者でも無いのに持つだとか、

七大貴族の一つ、

強欲の一族の一人であるだとか、

それくらいの事ぐらいしか、フリージアの調べでは分からなかった。

首席補佐官がサーバールームに居る事は理解していた。

けれど、フリージアはカーネーションのその言葉に驚き目を見開く。














「漸く来ましたか、淫猥なる黒の魔女(はは)よ」

瓶底眼鏡越しに首席補佐官を見つめながら、その言葉に驚いたフリージアである。

単純に驚いたのだ、

自身の正体を見破られた事が、

自分が母親と言われた事が、

フリージアにとって母親とは凡そ傲慢の一族当主アドナイの事を指す。

諸事情により本人は認められていない物のけれど、現実の親子関係としてはそれが真実だった。

腹に宿した子は、

けれど成長を止めさせ、多重結界で常に守っている。

であればこそ、目の前の嫉妬に満ちた瞳をした、少女。

その正体はすぐに推測出来た。

瞬時、開いた目を閉じ、開けばフリージアはこう言う。













「貴(・)方(・)、私(・)の(・)ク(・)ロ(・)ー(・)ン(・)で(・)す(・)か(・)。

遺伝上は親子というより姉妹に近しいでしょうがそれでも貴方が私をそう呼んだのは、

貴方が強欲の術者マモン・ペルガモの率いる「九つの宝玉」の一人にしてボス。

ダイヤモンドの配下の一人だからですか。

強欲の一族の一人でありながら私を黒の魔女と呼び、

かつ、母と呼んだのはそういう意味なんですね。」




「・・・何でもお見通しなんですね。黒の魔女(はは)は」






「・・・そう、呼ぶことを許した覚えはありませんが、

嫉妬の一族には及びませんが強欲の一族とて黒の魔女、

謂わば私に執着していたと傲慢の一族当主アドナイ・エフェソスは言っていました。

それは黒の魔女である私の身元が明らかになった今も変わらないという事でしょうか。

私を手に入れられなくなったら今度はクローンを作り出すなんて、全く度し難い話です。」

「・・・・ふぅん、黒の魔女(はは)はそう思うんですね。不思議です」という首席補佐官の言葉を瓶底眼鏡のブリッジをくいっと上げつつ無視しつつ、振り返る。

強欲の一族は前回大戦時最も領土と富を獲得した国家、強欲の街を統治する一族である。

七大貴族当主であり強欲の術者である彼女が統治するその街は、

金で出来た国家であり、

何処にでも現れるこの国家は移動可能な巨大戦艦で出来ているとも言われていた。

強欲の術者マモン・ペルガモを「議会」第一席とした立憲君主制に近い政治体制を持つこの国家は、

どうしてか黒の魔女であるフリージアに執着していた。







「黒の魔女が降臨する時、

▇は現れ、世界は光の泡に呑まれる。」というその伝説をある種の予言として信仰していたのだ。

最大の宗教国家であり、

最も腐敗の進んだ嫉妬の街を▇の教会から守り、統治する七大貴族の一つ、

嫉妬の一族、

その当主でもある大罪の術者の一人、

嫉妬の術者レヴィアタン・テアテラという、

黒の魔女であるフリージアを孕ませた男にも匹敵し得る執着を持つのもこれが理由である。

しかし、それを理解して尚、

瓶底眼鏡越しにカーネーション首席補佐官を見て思う。

「こ(・)の(・)子(・)に(・)は(・)何(・)か(・)別(・)の(・)理(・)由(・)が(・)あ(・)る(・)な(・)」と判断したのである。

だからこそと、続きの言葉を待っていれば瞬間首席補佐官が動いた。















「・・・っ」

そんな風に息を呑むフリージアである。

首席補佐官が使ったのは単純な身体強化魔術、

シンプルなそれであった。

けれど、今の「戒めの鎖」を付けたフリージアには補足し切れない。

「訓戒の錠前」を付けているから魔素は殆ど操れまいと油断していたフリージアである。

何か、それを無視する手段があるのだと理解したフリージアである。

瞬間、瞬きをすれば目の前に、

嫉妬に満ちた瞳をした、首席補佐官の顔があった。






よく見れば私に似てるなと考えながらも彼女が放った手刀をそのまま片手で受け止めた。

サーバールームに土煙と衝撃波が上がる。

図書館の書庫のようにサーバーの並ぶ部屋に掛けていた瓶底眼鏡が転がる。

して、土煙が晴れればそこに立っていたのは黒の魔女、フリージアその人であった。

手刀をギチギチとなけなしの身体強化魔術を用いて片手で受け止めながら、

けれどフリージアはこう続ける。












「貴方は七大貴族である強欲の一族の実験体の失敗作でありながら、

都市を滅ぼせる程の魔力を大罪術者でも無いのに持ちながらずっと首席補佐官としてWPRIで働いて来た。

貴方の経歴見ましたよ。

もう、ここで働いて三年になるんですね。

殆どの研究員の先輩が性的に堕落し、

不祥事を起こしてここを辞めていく中、貴方はここに残り続けた。

その理由は至って単純なんでしょう。」




「・・・黙りなさい、黒の魔女」




「貴(・)方(・)が(・)こ(・)こ(・)の(・)人(・)達(・)を(・)妬(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)、そ(・)の(・)理(・)由(・)を(・)知(・)り(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)で(・)す(・)よ(・)ね(・)」




「黙れよ、淫売が!」

そんな語気の強い言葉と共に手刀に力が更に篭る。

「戒めの鎖」を付けたフリージアは殆ど魔素を操れない。

この時のフリージアの力は都市を滅ぼせる程の魔力を誇った黒の魔女としての力からすれば、

残り滓に等しい物だった。

だからこそ、都市を滅ぼせる程の魔力を大罪術式に関係なく、魔素融合炉を持つ事によって得ているカーネーション首席補佐官の一撃を受け止めたのは、

殆ど奇跡と言って差し支え無い状態だった。




預奪の魔術という魔力を奪う魔術を使い、

カーネーション首席補佐官の魔力を流して弱体化させていたからこそ成し得たその奇跡は


けれど、カーネーション首席補佐官にこう実感させた。

自分では黒の魔女(はは)には決して勝てないと、

悟ってしまったのである。

だからこそ、サーバールームの図書館の書庫のように並ぶサーバー達が稼働する音を背に、

思わずこんな言葉が漏れた。

これまで三年間、首席補佐官として過ごしながらも

WPRI所長であり、

黒の魔女であるフリージアに仕えながらも、

七大貴族当主の一人、強欲の術者の部下であり、

「九つの宝玉」のボスであるダイヤモンドの配下として仕えながらも、

ひた隠しにして来た本音が漏れた。















「お前さえ、居なければ」

そんな言葉にけれどフリージアが目を見開く。

その一瞬の隙の内に「訓戒の錠前」を無視した一撃を入れようと握られた手を振り払い、

再び手刀を放てば・・

瞬間、カーネーション首席補佐官の胴が横薙ぎに両断された。

上半身が転がり、

血液が散逸する中で

都市を滅ぼせる程の魔力すら持たないフリージアのその白医姿を、

魔素を操れないにも関わらず、

理不尽なまでの強さを持つ黒の魔女の姿を首席補佐官は見ていた。

一時的に預奪の魔術で「戒めの鎖」の魔素を操る力、

それを縛る為の魔力自体を奪って、

その効果を解除したのかと理解したカーネーション首席補佐官である。



して自分が死ぬ理由を冷静に解析していれば、

首席補佐官、

カーネーション・イエロー・ペルガモの体を抱き上げ、

けれどフリージアはこう言った。

「神」のように笑んでこう言った。


















「三年間御勤め御苦労様です。

カーネーション首席補佐官」

そんな言葉と共に抱えていた首席補佐官の上半身を抱きしめ、そうして自身の体から溢れ出た黒の気配(オーラ)で押し潰した。

自身を支えた首席補佐官の血液が白医を、

黒いタートルネックを、

ボトムスの一部をさえ塗らせば、

けれど、瓶底眼鏡を拾い上げくいっとブリッジを上げた後、フリージアはこう言った。

強欲の術者に従った強欲の一族の実験体に対してではなく。自身を助けてくれた首席補佐官に対してこう言った。






「地獄で会いましょうね、見知らぬ私の可愛い娘」

とただ言った。

そうして、一人目の裏切り者は始末された。

裏で糸を引くであろうルシファーと、

残る二人の裏切り者、

そして他の研究員と共に血塗れの自身の格好を気にもせずにサーバーを復旧する中、

けれど、またしてもフリージアは魔女のように笑む。



「情報の種計画」に記された特記事項通りに

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