↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/37

第8話 取り分を減らす王子と、新しい盾を受け取る男

 ニコが、牙を抱えて裏門に立っていた。


 行く手にはダリオ。後ろにはグスタフ。


 逃げ道がなくなった若者は、牙を抱え直した。


「盗んだんじゃないからな。最初から俺が運んだんだ」


「運んだのは三人だ」


 ダリオが言った。


「最後は俺が持った」


「あいつ、持って走ろうとして転んだんだぞ」


 グスタフの指摘に、ニコは唇を尖らせる。


 レオンは、牙を荷の上へ戻させた。


「昨日渡した札に、運搬の分も書いてある」


「札で飯屋に入っても、出てけって言われるだろ」


「売れるまでの褒賞だと伝えた」


「分かってるよ。でも、ほんとに売れるのか?」


 レオンは問いを受け止めた。


 ニコだけの疑いではない。庭の男たちも、こちらを見ている。


 王子に物を預けて、いつか払うと言われる。


 この街では、そのまま戻ってこなかった金が多いのだろう。


「前に、荷運びをまとめて引き受けたことがある」


 ニコが言った。


「五日分、最後に払うって。最終日に行ったら、荷主はもう出発してた。店のやつに聞いても、俺が働いた証拠はどこだってさ」


 木札を、指で挟んで見せる。


「これなくしたら、同じだろ」


 レオンは帳面を開いて、ニコの名を示した。


「こちらにも残してある。ダリオも、君が盾を持ったのを見ていた」


「なくしても、消えない?」


「そのために二つ作った。私の分が間違っていたら、君の札で確かめる」


 ニコはしばらく、帳面の名前を指でなぞった。


「……先に言えよ、そういうの」


「先に聞いてくれ」


「聞いていいと思わねえんだよ」


 レオンは、その言葉を覚えておくことにした。


「南の市場へ運ぶ。買い手は商人が探す。売値と費用は、戻った時に全員へ見せる」


「費用?」


 グスタフが眉を寄せた。


「食事、修理、見張り、護送。売れた金を全部分ければ、次に戦えない」


「俺たちの取り分から引くのか」


「必要な分は引く。残りを褒賞にする。ただし、昨日渡した札の分は減らさない。最初に約束したものだからだ」


 グスタフが一歩近づいた。


「一番前で、俺があれを受けた。後ろで見てたやつと同じ取り分にするなよ」


「後ろにいた者が誰か、見たか」


 ダリオが尋ねた。


 大男は答えない。


「前のお前が押された時、二人が背を支えた。槍持ちはお前の盾の外から突いた。負傷した傭兵を運んだ者もいる」


「……同じにしろってのか」


「違う役割の値を、ゼロにするなと言っている」


 グスタフは自分の肩を見た。


 そこに残る擦り傷の下で、昨日は誰かの手が押していた。


 レオンは帳面を開いた。


 盾持ち、支え、槍、魔法、救出、見張り、運搬。


 名前の横に役割を並べ、同じ人が二つ担った箇所も記してある。


「抜けがあれば言ってほしい」


「俺、避難の知らせにも走った」


 ニコが言った。


「誰に」


「東の家三軒と、粉屋」


「確認してから足す」


 その返事に、ニコは頷いた。


 誰かが「盾を洗った分は」と聞く。


「今日の通常の仕事だ。給金に含む」


「じゃあ、二倍洗ったら?」


「勝手に二倍洗う前に、頼んだ仕事を終えろ」


 ダリオに言われ、笑いが起きた。


 レオンは、新しい法文を示した。


 一、組織の戦利品を、許可なく私物化することを禁ず。


 褒賞として渡された金と、まだ売却前の共有素材は別。修理費も記録し、誰でも確かめられるようにする。


「今までの行為に、この法で遡って罰は与えない。これからの分配を、この条件で進めたい」


 男たちの顔を見た。


 疑問は受け付け、条件の変更で雇用を続けたくない者には、平時の退出と精算を認める。


 ニコは牙へ一度目をやって、それから札を叩いた。


「それなら、ちゃんと売ってくれよ」


「売るために運ぶ」


 全員の受諾を確かめ、法文を加えた。


     *


 午後、修繕屋から盾が戻った。


 街で手に入る板と釘を使い、壊れた柄を取り替えたものだ。新品にはほど遠いが、握るとぐらつかない。


 レオンはグスタフへ渡した。


「次の護送に使う。外へ出す盾から直した」


 大男は、内側の木を指でなぞった。


「俺の取り分で、これを直したわけか」


「素材売却前の応急費用だ。後で帳面に入れる」


「細けえな」


「細かくしないと、君が疑う」


 グスタフが口を開きかけ、閉じた。


「……ああ。疑うな」


 それから盾を床へ置き、体重をかける。


 取っ手は軋まなかった。


「これなら、もう一度受けられる」


 ニコが横から覗いた。


「俺の盾は?」


「先にお前の膝を直せ」


 大男が言うと、若者はしかめ面をした。


 その時、二階で物音がした。


 負傷した団員が階段へ出ている。腕に巻いた布が赤く滲んでいた。


「俺の名前、帳面から消すなよ」


 男は言った。


「明日は、働けるから」


 シルヴィアがすぐ駆け上がった。


 レオンは握っていた筆を置いた。

王子の取り分と新しい盾。帳面の数字が、仲間の次の一撃を支えるものになってきました。


次回予告:今度は、休むことを覚えてもらう番です。


続きが気になったらブックマークを、面白いと感じたらページ下部の評価で応援していただけるとうれしいです。執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。