第58話 帰ったら、ただ二人で歩こう
古い通路は、城の水路へ続いていた。
テッサが外から出口を確かめ、ニコが新しい車輪の跡を見つけた。
金庫を出す荷車は、まだ途中だという。
レオンは、足りない見張りをどこから回すか考えていた。
シルヴィアが卓へ来る。
「その前に、食べて」
粥の器が、地図の空いた場所へ置かれた。
彼は匙を取る。少し冷めている。
ずいぶん前から置いてあったのかもしれない。
「今日は、接続を増やせません」
続いてメレナが言った。
レオンの指を取り、脈を確かめる。
「頭痛もあるでしょう」
「明朝のために、今は解いている」
「眠らなければ、解いた分も戻りません」
シルヴィアが、見張りの図を自分へ引き寄せた。
「夜の交代は私が確認する。西はテッサ、街はダリオの残した班。あなたが全部を見ていなくても、誰かが立っている」
レオンは頷き、器を空にした。
まだ眠くないと思っていたが、匙を置く手が重い。
メレナが去った後、シルヴィアは卓の灯りを一つ落とした。
仮の宿営所の窓から、城の壁が見える。
その向こうにも灯りがある。
*
「無花果の代金を、まだ返していなかった」
レオンが言うと、シルヴィアは目を瞬いた。
「今、思い出すの?」
「帳面を見ていたら、払っていないことを」
「あれは、帳面に書かなくていい」
彼女は窓の下へ座った。
鎧を外した肩に、細い布がかかっている。
夜の風が少し寒く、彼女は布を胸の前で合わせた。レオンは自分の外套を取って渡す。
「あなたは?」
「私は、先に休む」
シルヴィアが口元を緩めた。
受け取った外套から、彼の袖へ指が触れる。
「では、帰ってから買って」
「分かった」
「できれば、食事の当番を確認する前に」
レオンは、少しだけ笑った。
窓の外で、見張りの槍が動く。
二人が黙っていても、仕事は続いていた。
「あの日、街で歩いたでしょう」
彼女が言う。
「楽しかった」
「私も。あなたが石を調べずに戻ってくれたから、少し驚いたけれど」
「休むと言ったのは、私だった」
「途中で忘れると思ったの」
否定しにくい。
レオンは、ボルガンの台の前で足を止めた自分を思い出した。
興味を持てば、仕事はいくらでも増やせる。
隣を歩く時間は、増えた仕事の残りに置けば、いつまでも始まらない。
「帰ったら、また歩こう。巡回ではなく」
シルヴィアが、顔を向けた。
「二人で?」
「君がよければ」
彼女は答える前に、外套を肩へ寄せた。
頬に灯りが当たっている。わずかに赤く見えるのは、火のせいだけではない気がした。
「ええ。まずは、二人とも帰ること」
「帰る」
「一人で受けない。危ない時は知らせる」
前に交わした約束が、もう一度、声になった。
レオンは彼女の手へ、自分の指をそっと添えた。
握り込むのではなく、そこにいると伝える程度の力で。
シルヴィアは手を引かなかった。
短い間、城も地図も見ないで、二人は同じ灯りを見た。
*
戸口で、テッサが足を止めた。
報告の紙を抱え、咳を一つする。
「今、よろしいですか」
シルヴィアが手を離し、立ち上がった。
「ええ。出口の見張りは?」
「交代しました。殿下の休憩を延ばす方は、あとで相談します」
レオンは、その部分には答えなかった。
明朝、城へ降伏の最後の条件を届ける。
テッサが渡した紙には、交代する者の名が一人ずつ書かれていた。
レオンは読み、彼女へ返した。
「何か変わったら、起こしてくれ」
「変わらなければ、朝まで起こしません」
シルヴィアが頷く。
彼は、戸の外を見た。
夜の見張りが、次に眠る者と場所を交代している。誰かが寝床へ入ることが、残る者に仕事を押しつけることにならないよう、先に時間を決めてある。
その仕組みを作ったのに、自分だけが使わなければ、彼らも休みにくい。
「では、先に休む」
テッサが扉を開けた。
レオンが通り過ぎる時、彼女は声を少し落とす。
「シルヴィア様も、明朝まで交代済みです」
彼は頷き、隣の人を見た。
今夜は、彼女も一緒に仕事を終える。
それが終わったら、買うべき無花果の店は覚えている。
寝床へ向かう足は、さっきより少し軽かった。
帰ったら何をするか話せることも、明日へ向かう支えですね。今夜は二人にも、仕事を終えてもらいました。
次回予告:積み重ねた記録を携え、城門へ向かいます。
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