第57話 城を囲んでも、民の飯は止めない
「南の道は、なぜ開けた」
城の使者が、囲みの外で聞いた。
レオンは、荷車の列を見た。
粉屋の便。薬の便。城下から離れる家族の車。
「民が使う道だからだ」
「それでは、囲んだ意味がない」
「兵と武器の荷は、確かめて止めている」
使者の視線が、別の車へ動いた。
底から弩の矢が出てきた荷車だ。粉袋を上へ積み、その下に軍用の荷を隠していた。
粉は御者へ返し、矢だけを封じる。
御者が自分で隠したのか、積み込みで知らされなかったのかは、聞き取りを分けている。
「領主様は、民を飢えさせる敵だと布告なさった」
「なら、通った粉の量も報告してくれ」
レオンは控えを一枚、使者へ渡した。
城へ食料を入れず、飢えた者から降伏させる案は、早いように見えた。
だが、その城にいるのは領主だけではない。厨房で働く者も、病人もいる。民を守ると言ってきた自分が、誰から先に飢えるかを選んではならなかった。
封じるのは、私兵の武器と増援。
給金を運ぶ役人には、使途と受取先を確かめる。兵が給金を受け取ること自体を罪にはしないが、城の外で襲撃を続ける隊へ軍資金を渡す荷は留め置く。
すべてが一目で分かる仕事ではない。
マルコとロイドが、別々の帳面を並べている。
「こんな面倒な囲みは、初めてです」
商人が言った。
「途中で止めるより、最初に混ぜない方が安く済む」
レオンの答えに、マルコは頷いた。
「では、次の荷主にも、そう伝えましょう」
*
二日目の夜、城の北門から騎兵が出た。
荷を抜くためではなく、見張りを散らすためだ。
テッサの合図が、土手の上で揺れた。
グスタフの隊は、正面へ走らない。村へ続く道を盾で狭め、騎兵を川側へ戻す。
エリシアの射手は馬を狙わず、手綱を取る腕と、槍を構える肩を狙った。
狙いが外れることもある。
落馬した兵を踏みつけないよう、シルヴィアが敵の馬首を外へ逸らした。
相手は戻る道を見て、城へ退いた。
レオンはこの短い接触の間だけ、北側へ接続した。
南の荷車道には、魔法の支援がない。そこを守る者は、合図と検査の手順で働いている。
城を一つの巨大な鎖で囲う力は、自分にはない。
倒れた味方の一人が足首を押さえた。
盾を交代し、本人を運ぶ。
包囲を続ける日数が増えれば、その負担も増える。
夕方、マルコが残りの食料を持ってきた。
ここへ運べる便は、村の仕事にも使う。騎士団だけで全部を占めれば、交易が止まる。
「交代と食事を今の形で維持できるのは、あと四日ほどです」
レオンは、城の図へ日付を書いた。
長く囲めば必ず勝てる、とは考えない。
向こうの増援が来る前に、こちらの賃金と道が細くなる可能性もある。
「降伏の条件を、城の兵にも届ける。厨房から出る者に、伝言を頼めるか聞こう。引き受けなくても、帰す条件は変えない」
マルコは頷いた。
レオンは、城へ入れる粉袋を止める案を紙から消した。
相手の空腹を待たず、領主のために戦う理由を、兵自身に問い直してもらう。
四日のうちに、通す言葉が要る。
*
三日目、厨房の女が城から出てきた。
小さな娘を連れ、仕事の前金を返せないと泣いた。
「帰ったら、あちらで罰せられる」
ロイドが契約の紙を確かめる。
何を借りているか、給金から何を引かれたか。今ここで全額を返せるとは言わなかった。
ただし、その話を理由に子供を城へ戻すことは認めない。
女は、娘を抱き直す。
「城の金庫が、移されました。夜のうちに、奥の門から」
レオンは顔を上げた。
「どこへ」
「西の塔の下です。古い通路があるって、兵が言っていました」
テッサが城の図を開く。
外から見ただけでは、分からない場所だった。
レオンは女へ、すぐに案内を頼まなかった。
娘を落ち着かせ、知っている範囲だけを聞く。
守って出てきた者の話が、今度は領主の逃げ道を狭めた。
囲む相手は城でも、そこには暮らす人がいる。通した粉の量にも、この団の戦い方が表れています。
次回予告:大きな動きの前に、二人が夜の時間を過ごします。
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