第56話 その盾の後ろなら、矢を引ける
降り注ぐ矢を見て、エリシアが枝を離れた。
着地する場所へ、敵の槍兵が走る。
彼女は足を折り曲げ、次の枝へ手を伸ばした。
指が届かない。
その下へ、グスタフの盾が入った。
槍が外側へ滑る。
「そっちへ跳ぶなら、先に言え!」
「今、言うつもりだったわ!」
エリシアは大男の後ろへ降り、弓を上げ直した。
レオンは、二人の位置へ繋ぐ光を短く保った。
番所を失った領主の私兵は、城へ下がりながら、道へ罠を残していた。今も橋の手前に弩兵が二人。前に槍役を出し、射手の枝を狙う。
こちらが追えば、横から矢を受ける。
だが追わずに放置すれば、村から荷車を出す時、その橋が使えない。
「グスタフは、その位置。ダリオ、左を止める」
レオンの声で、盾が二つに分かれる。
全部を閉じてエリシアを隠すのではない。
彼女が射る隙間を残し、弩の向きだけを盾で遮る。
グスタフが一歩、土を踏んだ。
腿の傷が引きつる。
もう深く開いてはいない。だが、忘れて大股で出ることはできなかった。
「左へ、もう半歩寄って」
エリシアが肩を叩く。
彼は目線を敵から離さず、足を移した。
弦の音が、耳の横で鳴る。
矢は盾の上を通り、橋の向こうの弩を押さえた。次の矢が、槍兵の足元へ刺さる。
その間にテッサが川沿いを回り、横の斜面へ布の合図を出した。
敵の槍兵が、エリシアへ向かって投げた。
彼女は射る姿勢のまま、左へ動こうとする。
グスタフの盾が上へ起きた。
槍の穂先が鉄の縁を叩き、二人の横へ落ちる。
「今は、俺の後ろにいろ」
彼女は頷き、矢を引いた。
最初に一緒に戦った時なら、前の人間が邪魔だと思っただろう。
今は、そこに盾が来ると分かるから、矢を下げずに済む。
敵の視線が盾へ集まった間に、弩の弦を扱う兵へ狙いを移した。
矢が走る。
弩の先が地面へ下がった。
グスタフは次の槍を受け、体重をダリオの側へ渡した。彼の肩に全部を載せることなく、列の後ろまで力が流れる。
レオンの接続も、二人だけでなく、その支えへ伸びた。
シルヴィアの班が、敵の退路を見える位置に現れる。
「武器を置けば、渡れます!」
彼女は橋を全部塞がなかった。
逃げ道がないと思えば、敵は命がなくなるまで戦う。渡るために槍を捨てる道を残した。
弩兵が、最初に武器を置く。
橋の手前の兵は、後ろを見た。
頼る矢が止まり、正面の盾は崩れない。
槍が地面へ倒れた。
*
レオンは、捕らえた兵の数を聞いた。
八人。負傷者三人。
手を縛る前に、肩の傷へ布を当てる。
ゼルドの裁定を見た者もいる。降伏したら同じように死ぬのかと尋ねた。
「君たちには、あの誓約はない。武器を置いた者を、斬れとは命じていない」
兵は自分の腕を見てから、頷いた。
シルヴィアは負傷者を荷台へ載せ、武器と別の車へ分ける。見張りもつける。助けることと、危険が消えたと考えることは別だった。
橋の杭を確かめたニコが戻る。
「縄、切られかけてた。あと一台通ったら、落ちたかもしれねえ」
レオンは修理に必要な時間を聞き、今夜の便を止めた。
勝った直後に、橋で荷を失えば意味がない。
エリシアは、グスタフの肩へ触れていた。
「血は、出ていない?」
「矢で穴が増えてねえか、先に見ろ」
盾の表には、二本刺さっている。
彼女が一本を抜き、折れた軸を見た。
「盾代は、私の報酬から引かないで」
「俺のからも引くな。仕事で受けたんだぞ」
二人が同時にレオンを見る。
「装備の修理費にする」
彼が答えると、グスタフは満足そうに水を飲んだ。
エリシアは新しい枝へ上がりかけ、今度は下の大男へ声をかけた。
「上へ行く。降りる時は、その辺りへ」
「分かった」
レオンは二人から目を移し、城へ続く道を見た。
民の往来に必要な橋は守った。
次は、奪う命令を出し続ける者の場所まで進む。
分かっているつもりでも、声にして伝える。二人のやり取りが、そのまま戦う力になってきました。
次回予告:城へ向かう団は、民の通る道をどう守るのでしょうか。
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