第49話 森の枝と、頑固な鍛冶師
「この板は使えん」
ボルガンが、作業台を叩いた。
エルフの職人は腕を組む。
「人間の盾より、軽く曲がります」
「曲がるのはいい。だが、ここで釘を打てば割れる」
「釘を打たなければいいでしょう」
「では、腕を通す帯を何へ留める」
二人の声を聞き、リゼットが戸口から戻ろうとした。
ボルガンが呼ぶ。
「来たなら手伝え」
「来なければよかった」
レオンは、その横から作業台を見た。
森から運んだ弾力のある材。人間の荷車に使う金具。再利用した盾の縁。
材料は増えた。
使う者が増えた分、必要な形も違う。
射手は腕を上げた時、帯が弦へ触れるのを嫌う。盾役は、肩へ負担が寄るのを嫌う。
レオンはグスタフを呼んだ。
「使う時に、困ったことを言ってくれ」
大男は台の前へ立つ。
昨日、メレナの診察を受け、短い防御の訓練なら許可が出た。ただし、腿へ負担をかける走り込みはまだ制限がある。
新しい盾を腕へ通すと、帯が傷の残る肩へ当たった。
「ここだ。重さより、こっちが困る」
ボルガンは、印をつける。
エリシアも弓を引く動きを見せた。
「この金具に弦が触れるわ」
「分かった。外へずらす」
二人の職人は、互いの顔ではなく、同じ印を見るようになった。
*
午後、リゼットが樹脂を温めた。
火を入れすぎれば、森の材の弾力が失われる。
エルフの職人が止める温度を確かめ、薄く接着する。金具は木を貫かず、外周の留めへ固定した。
「魔法の盾に、なるんですか」
訓練中の新人が聞いた。
ボルガンは、できた物を渡す。
「落としてみろ」
新人は恐る恐る、床へ置いた。
「落とせと言った」
軽く手を離すと、鈍い音がして跳ねる。
縁は割れていない。
「腕が疲れにくく、割れにくい。それでまず十分だ」
レオンは、旧式の盾も並べた。
全員の分を今日作れる材料はない。
新しい盾は、傷のある者と弓の近くで支える者へ先に回す。
残りは、帯と縁を直す。
森の材の代金と、工房の賃金を払えば、今月の予備費は薄くなる。だから、敵から奪う予定の金を先に当てにはしなかった。
エリシアが完成した弓用の小盾を確かめ、頷く。
「次の取引にも、この形を頼みます」
エルフの職人が、ボルガンへ図を渡した。
ドワーフはそれを受け、黙って寸法を書き足した。
口論の続きは、図の余白へ移った。
試す役を頼まれた新人は、前の盾と新しい盾を交互に構えた。
軽さに喜び、すぐ走ろうとする。
ダリオが、踵を見た。
「足の向きは、前の盾の時と同じだ」
隣から槍で押されると、新人は半歩よろけた。
道具が良くなっても、隣の盾へ重さを渡す姿勢は覚えなければならない。
グスタフがゆっくり、同じ動きを見せた。
「新しいのは、ここが楽だ。だからって、足まで楽していいわけじゃねえ」
エルフの職人は二人を見て、図の帯の位置を少し動かした。
レオンは、試作品を渡す前に訓練の時間を入れた。
ボルガンが、リゼットへ火を弱めるよう頼む。
彼女は頷き、今日だけは地味な仕事だと言わなかった。
*
夕方、ニコが森から戻った。
泥のついた足跡を紙に写してある。
薬を運ぶ小道ではなく、村の裏を通って城へ向かう道。
「兵が増えてる。普通の荷役じゃねえ。鎧が、揃ってた」
テッサが、別の斥候の報告を重ねる。
村へ向く列と、森の橋へ向く列。
二方向だ。
レオンは新しい盾の数を数えた。
敵も、こちらの道が一本ではないと気づいた。
次は、全部を一か所で守る戦いにはならない。
材料が増えるだけでは、使いやすい盾にはならない。作る人と使う人、それぞれの困り事が集まりました。
次回予告:王子の合図が届かない場所で、仲間の判断が問われます。
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