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第48話 取る側の帳面も、民の前へ

「その袋は、騎士団へ渡す分です」


 村の女が言った。


 男は受取札を指で弾く。


「だから、私がまとめて預かる。監督の手数料は別だ」


 取り立て役は、以前から村を回っていた者だった。


 ゼルドの部下ではない。領主の徴収の看板が役に立たなくなると、今度は騎士団の名を使い始めた。


 レオンは、後ろからその札を見た。


 昨日決めた額より、多い。


「誰が、その手数料を決めた」


 男は振り向き、すぐ笑った。


「殿下のお手間を省くために。ここの者は帳面に弱いので」


 女の手が、袋の紐を強く握る。


 シルヴィアが男の背後へ回った。


 レオンは、魔法を呼ばない。


 この男に、騎士団の誓約はない。


「集めた袋を見せろ。受け取った人の控えも」


「これは、こちらの取り決めでして――」


「私たちが受け取ると言って集めた。なら、こちらでも確かめる」


 男の肘が、後ろへ動く。


 シルヴィアが手首を押さえ、上着の中から小さな帳面を取った。


 村に見せた分と、自分用の分。


 数字が違う。


 今度は笑みが消えた。


「この辺りでは、昔からそうしておりました」


「なら、前の分も聞き取りをする」


 ロイドが卓へ座った。


 男が、腰の袋を押さえた。


「返すのは、この村の分だけで済ませてもらえますか」


 隣の村から来ていた者が、前へ出る。


「昨日、うちでも同じことを言った」


 男は顔を背けた。


 シルヴィアは逃げ道を塞いだまま、証人を男から離した。


「近づかなくていい。ここで話してください」


 証人は、昨日もらった札を出した。


 騎士団の名を借りた印は、それらしく彫ってある。知っている団員が来たわけではないが、村人は払わなければ護衛を失うと思っていた。


 レオンは、その札も残した。


 自分たちの受取札の見本と、問い合わせる場所を各村へ送る。


 新しい看板を作れば、その看板を使って奪う者も出る。今度は法を一行増やすだけでは足りない。


 人を守る法を決めても、看板を盗む者まで自動で止まるわけではない。


     *


 持っていた袋を返すと、女はすぐ家へ運ぼうとした。


 レオンが、受取の控えを書かせてほしいと頼む。


 その肩が、びくりと動いた。


「また、払ったことにされるのですか」


「返したことを残す。君も同じ紙を持つ」


 レオンは二枚へ同じ数字を書く。


 一枚を渡し、書かれた量を一緒に確かめた。


 字が読めない家には、村の代表も立ち会う。


 返却が終わるまで、護衛を帰さなかった。


 夕方、マルコの帳面も同じ卓へ載った。


 騎士団が買った品。商人に払った手数料。薬草を売った値段。


「私の取り分も見せます。ただし、まだ成立していない契約の相手の名まで、ここで広めるのは困ります」


 村の代表が腕を組んだ。


「都合の悪い所を隠せるってことか」


「その分は、ロイド殿にも原本を見ていただきます。成立した後で、公開できる額を出しましょう」


 マルコは、レオンだけが読める別紙を作るのではなく、役人へ封ごと渡した。


 レオンも、自分たちの出費の控えを出す。


 村へ無料で渡した薬の欄は、支出だ。


 善いことをしたから、書かなくてよい金ではない。


 会計の終わり際、村人が尋ねた。


「王子様の飯も、俺たちの麦から出るのか」


「勤務の日の食事は出る。私用で菓子を買うなら、自分で払う」


 シルヴィアが、少しだけ横を向いた。


 まだ自分が払ってもらっていない無花果の話は、ここではしないらしい。


 ロイドが、給金の表へ印を置いた。


「返した量と、預かった量が合いました」


 袋の数は、取り立て役が来た時より少ない。


 正しく返したからだ。


 レオンは、埋まった数字より、袋を抱える女の顔を見た。


 彼女は控えの紙を、今度は隠さず手に持っていた。

袋が減ったのは、正しく返したから。帳面の数字の向こうにいる人の顔を、忘れずにいたい回です。


次回予告:森の素材を前に、職人たちの意見がぶつかります。


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