↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/65

第47話 元ゴロツキ、麦の値段を交渉する

「誰が盗った」


 麦袋を置いた男の声に、グスタフが顔をしかめた。


 村の計量台に、袋が六つ並んでいる。


 出発した時と、到着した時で重さが違った。


 村人は護衛を疑い、護衛は村人を疑う。


 レオンが口を開く前に、グスタフが秤を持ち上げた。


「まず、これを平らに置け」


 台の脚が土へ沈んでいた。


 板を挟むと、秤の針が戻る。


 それでも、一袋だけ軽い。


 グスタフは袋を転がし、下を見た。


 縫い目の端から、麦粒が出る。


「荷車の底、見てこい」


 ニコが走り、板の隙間に詰まった麦を戻した。


 村の男が黙った。


 護衛の一人が、だから言っただろうと笑いかける。


 グスタフはその顔を見た。


「積む時に裂け目を見たか」


「いや」


「なら、次は見ろ。こぼした分で飯を炊けると思うか」


 村人の男にも向き直る。


「袋を替える物は、持ってきたか」


「そんな分まで、前は用意しなかった」


「前の奴は、こぼれた分も取ったのか」


 男は少し考え、頷いた。


 レオンは、袋の修理をする仕事を一つ加えた。


 ヨハンが、村の男から袋を預かった。


「この織り方だと、湿った日は糸が緩む。妻が別の布で縁を足している」


 グスタフが覗く。


「その布、こっちの袋にも使えるか」


「使える。ただ、今ある分では四つまでだ」


「四つからでいい。先に運ぶ奴へ」


 レオンは仕事の数量と、支払う額を聞いた。


 安く頼めば、その日の勘定は楽になる。だが、ナナが買う糸の分まで引けば、次の袋は縫えなくなる。


 ヨハンは糸代を言い、グスタフは縫う時間を聞いた。


「俺、十の袋を一晩でできると思ってた」


「そんな仕事なら、俺より先に妻が怒る」


 大男が、珍しく真剣に頷いた。


 麦の量を減らさず運ぶために、その周りの仕事にも値がついた。


 払う麦の量を、運ぶ時に何へ入れるかも決めておかなければならない。


 ゼルドは後ろで、別の村の受取札を並べている。


 数字を書く手は速かった。だが、グスタフが麦粒を拾う姿へ、薄い笑みを浮かべた。


 受取札の一枚を出し、村人へ呼びかける。


「こちらも確かめてください。前に渡した分が、差し引かれていない」


 男は札を受け、息を呑んだ。


「これがあれば、もう一袋は出さなくていいのか」


 レオンが量を照らすと、確かにそうだった。


「助かった」


 村人はゼルドへ頭を下げた。


 ゼルドの指が止まる。礼を受けた後も、なぜか同じ札をもう一度整えていた。


「今の確認は、仕事の記録へ入れる」


 レオンが伝えると、男は顔を上げた。


「それなら、徴収の差配も任せていただければ」


「今日は照合を頼んでいる。任せる範囲は、前に話した通りだ」


 ゼルドは村人の前では異議を言わなかった。


 ただ、礼を言っていた男がグスタフと袋の話を始めると、札を持つ手を卓の下へ引いた。


 ここで得られた小さな信頼を、そのまま役職へ換えられないことが、まだ腑に落ちないらしかった。


「そこまでやれば、村人は楽ですな」


「俺たちも楽だ」


 大男が答える。


「次に来た時、袋を隠されねえで済む」


 村の男は、拾った麦を布へ入れた。


 笑われたのではないと分かったのか、別の袋の縫い目も自分で確かめ始める。


     *


 昼、村の女がグスタフへ椀を持ってきた。


 麦の粥と、刻んだ野菜。


「護衛の分は、別に出る」


「これは、あんたの分。食べな」


 彼はレオンを見た。


 レオンは女へ、村の費用で全員に出す食事なのか、個人の礼なのかを聞いた。


「袋を縫ってくれたから、うちの昼を少し。ほかにも二つあります」


 グスタフは椀を受け取った。


「じゃあ、冷めねえうちに食う」


 奪って手に入れた飯は、量の多さを仲間へ見せていた。


 今日は椀を傾ける前に、女へ頷いた。


 レオンは彼の肩の動きを見る。


 傷の布はまだ薄く巻かれているが、腕を上げても顔を歪めなくなった。


 全力の戦闘を任せる前に、またメレナへ診てもらおう。


 食べ終えたところで、エリシアが矢の束を持ってきた。


「報酬の分配で聞きたいことがあるの」


「矢を折った金か」


「回収して使える矢と、なくした矢を同じ数で引かないで。矢を取りに出る仕事も、決めてほしい」


 グスタフは槍の刃を見た。


「こっちも刃こぼれする。俺の盾は、それ以上だ」


 二人が装備の図を卓へ並べる。


 レオンは、笑いながら見ていた村人にも場所を空けた。


 自分たちの麦が、何に変わるかを見てもらう。


 夕方、村から初めて、護衛を予約する札が届いた。


 次の薬草の便。重さも、日付も書いてある。


 グスタフはそれを見て、胸を張った。


「麦を守る仕事は、まだ増えるぞ」

拳より先に秤を確かめるグスタフ。麦を守る仕事にも、彼の経験が生きてきました。


次回予告:騎士団の名で集められた物を、帳面から確かめます。


続きが気になったらブックマークを、面白いと感じたらページ下部の評価で応援していただけるとうれしいです。執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。