第46話 税を取るなら、先に使い道を見せろ
「略奪するな。上納も取るな。それで、どうやって俺たちは食うんです」
ゼルド・ケインは、卓の前で腕を組んだ。
昨日まで徴収隊の幹部だった男だ。
武器は街門で預けた。連れて来た五人も、まだ団員ではない。
レオンは、村の代表が持ってきた袋を指す。
「守る仕事の費用を、村と話している」
「取る名前を変えるわけですな。税と言えば、聞こえはいい」
グスタフが椅子を引きかけた。
レオンは掌で止め、帳面を開いた。
道を直す板。見張りの日数。薬の中継所。給金。
収穫の予想は、村人の持つ紙へ書かれている。
今年、畑を荒らされた家の欄には、徴収しないと記した。
「これだけを徴収の上限にする。作物で払うか、決めた日数の仕事を代わりにするかは選べる。払う時には受取札を出す。同じ仕事の費用を、もう一度請求しない」
「足りなくなったら?」
「できる仕事を減らすか、追加の仕事と費用を話す。兵が勝手に家へ入って取ることは認めない」
ゼルドの目が、免除の家の数へ止まった。
「払わない者まで守っていたら、損でしょう」
村の代表が、膝の上で拳を作る。
レオンは畑の図を広げた。
「来年も種を蒔く者がいるなら、道へ積む荷は増える。今、種麦まで取れば、護衛する荷もなくなる」
マルコが横から、薬草の買い取り契約を出した。
買う量と、売る値段。中継所の賃金は、その取引から出す。
税だけで薬草が生え、荷車が動くわけではない。
ゼルドは紙を読み、ゆっくり頷いた。
「なら、こちらにも仕事はありますか」
「君が徴収してきた金と、関わった被害は確かめる。加入すれば過去の行為まで赦される、とは言わない」
男の笑みが、一瞬薄くなった。
自分は命令された金を運んだだけだと言い、預かっている領主の札を渡す。
村の一人が、彼の顔を覚えていた。
怯えている。
レオンはゼルドを、その村の徴収担当にはしないと決めた。
ヨハンが、袋の向きを直した。
「森へ運ぶ薬草は、俺たちも手伝える。麦の収穫まで、何もない日があるから」
街へ来た時、まず薪でも運ぶと言った男だ。
今は、家に戻るための仕事を選んでいる。
「畑へ戻る日は残そう。全部の人を道へ出せば、村の食料が減る」
レオンが答えると、ヨハンは妻の名を紙へ記した。
ナナは、薬草の袋を縫う仕事を引き受ける。
息子のルークが暮らす場所も、家と街を往復する段取りに入った。
税として出す麦と、働いて得る報酬は別の欄になる。
ゼルドはその紙を見た。
「出した分を、また給金で返すんですか」
「同じ人物でも、払う義務と働いた対価は別だ」
レオンは二つの欄の間へ、線を引いた。
*
午後、六人へ雇用の条件を読み上げた。
一か月。街の倉と道の整備、護衛補助。最初は単独で武器庫や会計を扱わせない。
給金と功績の分配。退出の手続き。処分。
「民への加害は止められる。故意に守る相手を殺し、仲間へ致死の背信をする行為には、命を失う裁定がある」
ゼルドが顔を上げた。
「殿下が決める?」
「この法文で、誓った行為が裁かれる。私が腹を立てたから、重くすることはできない」
「領主の命令なら、免れるのですか」
「加入したまま民を害するなら、免れない。上の者の名を出しても同じだ」
男は笑ってみせた。
「滅多なことは、しませんよ」
ダリオが、まだ誓う必要はないと伝えた。
街を出てもよい。過去の被害への聞き取りは別だが、雇用を断ったことを罪にはしない。
ゼルドは、窓の外へ目をやった。
整った荷車。売る物のある市場。報酬を受け取る団員。
ここにいれば、領主の下で減った取り分より多く得られるかもしれない。
「受けます」
仲間の一人は、もう一晩考えたいと言った。
レオンはその名を、保留の欄へ置く。
誓ったゼルドの手首へ、鉄鎖紋が現れた。
男は、痛まない腕を一度振った。
シルヴィアはそれを見て、レオンへ小声で告げる。
「過去を知る人にも、相談する場所を残しておきましょう」
レオンは頷いた。
仲間へ迎えることと、任せきることは別だった。
退出の札を説明し終えると、ゼルドが自分の欄を見た。
「以前は、隊を率いていました。文字を読めない者へも、私が指図を」
「その経験は確かめたい。先に、受取の照合を手伝ってくれ」
「指揮ではなく?」
レオンは男の顔へ目を戻した。
「まず、この街で何を守るかを知ってほしい。君が引き受けた仕事ができれば、次も任せる」
ゼルドは頷いた。だが、もともと連れてきた者たちがダリオの説明を聞きに行くと、その背へ何か言いかけた。
呼び戻さず、机に残った札を整える。
受け取った金の並べ方は、丁寧だった。同じ月の札を重ね、重複のある箇所へ指を置く。
「この家は、数え違いではありません。三度とも、払っています」
村の男が顔を上げた。
ゼルドは、その反応を見て顎を引いた。
彼には、ここで役立つ経験がある。
レオンは照合の仕事へ男の名を加えた。今日の働きを、昨日までの肩書きの下へ埋めるつもりはなかった。
名前を税に変えるだけでは、奪わない仕組みにはならない。使う側も説明するところからの出発です。
次回予告:麦袋をめぐる疑いに、グスタフが向き合います。
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