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第44話 王子の休暇は、干し無花果一袋

「殿下、今日は何を視察するのですか」


 門番に聞かれ、レオンは答えを探した。


 シルヴィアが横から言う。


「街を歩くだけです」


「では、巡回で?」


「休みです」


 門番は二度頷いた。


 理解したのか、理解するのを諦めたのかは分からなかった。


 今日は市場の小さな祭りの日だった。


 森の便が戻り、修理した荷車も再び使えるようになった。商人が少しずつ物を持ち寄って、通りへ長い布を張った。


 祝いの費用を街から取り立てることはしない。


 出店する者が、出す品と場所を決める。巡回の分は、いつもの雇用の範囲だ。


 レオンも説明を聞いていた。


 だから、今朝まで帳面を持って行くつもりだった。


 シルヴィアが外套の内側を見て、首を振る。


「それは部屋へ」


 彼女は薄い上着に、歩きやすい長靴を合わせている。


 襟元の紐は、鎧の下で結ぶ時より緩い。首筋に落ちる金の髪が、風で少し動いた。


 レオンは目を戻し、帳面を置いた。


 剣は彼女の腰にある。


 休むことと、何も備えないことは違うらしい。


     *


 ニコは縄の輪を投げる店で、三度続けて外した。


「俺、走って投げた方が得意だから」


「止まっている時も、投げる訓練を増やします」


 テッサが景品の小袋を取る。


 彼女は一度目で入れた。


 その少し先で、エリシアが菓子の店にいた。


 長老に頼まれた分だという。


 グスタフは荷車の修理の礼にもらった木の匙を、腰の袋へ入れている。


「その匙で、何を食べるの」


「お前が買いすぎた菓子」


「買いすぎてはいないわ」


 エリシアの包みには、まだ一つも空きがない。


 レオンが声をかける前に、シルヴィアが袖を引いた。


「あちらへ。今日は報告を受けない日でしょう」


 引く力は、剣を使う手とは思えないほど軽かった。


 果物の店へ寄る。


 レオンは干し無花果を一つ摘み、隣の人が咳をしたので戻した。


「代金を払ってからだよ、兄さん」


「すまない」


 王宮では、卓の果物に先払いの習慣はない。


 シルヴィアが笑い、二人分を買った。


「それは私が払う」


「今度、買ってください」


 包みから、小さな一片を渡される。


 甘さが、舌の奥へ残った。


 レオンは次の買い物の約束だけを覚え、支出の欄を思い浮かべるのをやめた。


 通りで、旅の踊り手が布を回した。


 赤い裾が揺れ、留め金の外れた肩へ、光が一瞬載る。


 見物していた男たちが拍手をした。


 レオンも足を止める。


 シルヴィアが隣から、軽く彼の肘を押した。


「お好きなの?」


「見事に足を運ぶと思った」


「足だけ?」


 彼は、答えに詰まった。


 シルヴィアは笑い、踊り手へ小銭を渡した。


「今の言い方では、踊った人への褒め言葉になっていませんね」


 レオンは、自分も代金箱へ硬貨を入れる。


 踊り手は礼をして、次の曲へ移った。


 シルヴィアは彼の隣へ戻り、今度は引っ張らず、腕が触れるほど近くを歩く。


 レオンの目は、もう舞台へ戻らなかった。


     *


 通りの端に、ボルガンの台があった。


 修理した鍋の隣に、石の欠片が置かれている。


「それは売り物か」


「いや。鍛冶場の荷に混ざっていた。村の古い壁から外したそうだ」


 レオンは足を止めた。


 輪の内側に、絡んだ線。


 以前、壊れた固定具の下で見た線と似ている。


 鉄鎖紋にも、どこか重なる。


 シルヴィアが気づく。


「殿下」


「明日、話を聞きに来る」


 レオンは石へ手を伸ばさず、歩き出した。


 彼女は少し驚いてから、隣へ戻る。


「ちゃんと休めるんですね」


「今、急ぐ物ではないと思った」


「そう。では、もう少し遠回りしましょう」


 祭りの音は、路地に入ると小さくなった。


 二人の歩幅が、自然に揃う。


 レオンは隣を見た。


 彼女は無花果の残りを、もう一片取っている。


 地図のない道でも、迷っている気はしなかった。

帳面を持たない休日は、王子にはなかなか難しいようです。二人の揃う歩幅を、ひと息ついて楽しんでいただけたら。


次回予告:古い石壁に残る、誓約の手掛かりを訪ねます。


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