第42話 笑っていた監視役は、今度は記録を取りに来た
「ずいぶん、人が増えましたね」
ロイド・ヘルマーは、街門で足を止めた。
荷車を通す番を待つ人間。薬草の箱を持つエルフ。戸を修理するドワーフ。
かつてなら、無法の証拠として書いた光景だ。
今日は、荷を待つ列ができていた。
「道を塞がないでください」
テッサに言われ、ロイドは横へ避ける。
レオンが出てきた。
「王都からか」
「はい。先日の襲撃の記録も、途中で受け取りました」
行政の封を出す。
被害申告の受理。独立した聞き取りのための出張命令。
それは領主を捕らえてよいという命令でも、街をレオンの領地と認める勅許でもなかった。
だが、領主の代官だけが話を決める場ではなくなる。
「私が、あなたの主張を全部認めに来たと思われては困ります」
「確かめに来たのだろう」
レオンは、椅子ではなく焼けた倉へ案内した。
黒くなった柱。新しい板。前の所有者がつけた印。
修理代の控えは、現物の寸法と並べてある。
ロイドは、紙の記載へ指を置いた。
「襲撃した者への支払いの紙は?」
「保管している。拘束者の話と、被害者の話は分けて取った」
「あなたが書き換えられる場所ですね」
「原本を持つ商人にも聞いてくれ。私の部下だけで確かめないでほしい」
ロイドの指が止まった。
レオンは鍵を渡す。
「魔法の罰を、証拠の代わりにすることもない。ハーゲンは私たちの団員ではないから、紋に聞いても答えは出ない」
役人は鍵を受け取り、袋の封を確かめた。
拘束中のハーゲンは、別の部屋で話した。
「領主様の権限で警備を立て直そうとしただけです。街のならず者を信用して、代理人を縛るのですか」
ロイドは、襲撃へ加わった者への支払いの紙を出した。
「この額は、何の仕事に払いましたか」
「警備です」
「では、倉が焼けた時、あなたの警備は何を守りましたか」
ハーゲンが口を閉じる。
レオンは戸の外にいた。答えを誘う役として同席することは求めなかった。
聞き取りを終えたロイドは、独立した審理へ送る分と、さらに照合する分を分けた。ハーゲンの肩書きだけで釈放せず、レオンの要求だけで刑も決めない。
門の鍵が、また記録へ戻った。
*
午後、ロイドは御者の話を聞いた。
レオンは卓の外に座る。
話を補いたくなる箇所はあった。だが、自分が知っていることで、本人の見たものを置き換えてはいけない。
「その兵の名は、分かりますか」
「分かりません。鎧の留め具に、猪の印がありました」
ロイドは、名が不明と書いた。
書き足すでも、消すでもない。
続いて、村の女が来た。
家族の荷役を要求された紙を、胸から出す。
役人を見ると、手が止まった。
シルヴィアが隣へ座る。
「今日話さなくても、紙は預けられます。誰に渡すかも選べます」
「領主様へ、名前が行きますか」
ロイドは、すぐに大丈夫とは言わなかった。
「相手が反論する時、証言の内容を知らせる場合はあります。名前を伏せて受けられる話と、本人を確かめる必要がある話を、先に分けます」
女が紙を握り直す。
その顔を見て、レオンは思った。
聞いてくれる者を呼んだだけでは足りない。
話した後も生きて帰れる道が要る。
夕方、ロイドが戸口で声をかけた。
「以前、ならず者に何ができるかと申し上げました」
「覚えている」
「今度は、何をしたかを報告します」
レオンは顔を上げた。
役人は、少しばかり居心地が悪そうだった。
「あなたの報告も、その例外にはしませんが」
「そうしてくれ」
門の外で、荷を待つ列がまた動いた。
レオンは村の地図を開き、シルヴィアを呼んだ。
次に守るのは、紙に書かれた者の帰路だった。
味方になったから信じるのではなく、王子の報告も確かめる。ロイドの変化は、その距離にも表れています。
次回予告:証言する人が、その後も暮らせる道を考えます。
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