↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/54

第33話 森の射手は、人間の王子を信じない

 矢は、ニコの膝より低い所へ刺さっていた。


 射手が外したのではない。


 次は当てられると知らせる位置だった。


 ニコが、片足をゆっくり戻す。


 林道は右へ曲がり、荷車が止まれば、その後ろの民も足を止める。


 レオンは人数を数えた。木の上に何人いるかは分からない。


 この道で何かを奪って帰るつもりなら、彼らにも同じように見えるだろう。


 まず、剣ではなく、乗っている者を見せなければならない。


 老人の肩から毛布が落ちかけた。


 レオンはそれを直す前に、射手へ手の向きを示した。


 弓の先は動かない。


 こちらの一挙手まで警戒させたのは、今日初めて会ったこの女の性格だけではないと思った。


 シルヴィアが剣へ手を置く。


 レオンは片手を上げた。


「村から移る者を運んでいる。売るための荷ではない」


「人間の徴収隊も、保護すると言うわ」


 女が木の陰から出た。


 淡い髪と、長い耳。弓を構えたまま、視線だけで荷車を確かめる。


 森の奥にも、弦を引く音があった。


「誰の命令?」


「私はレオン・ヴァルゼリア。街を守る組織を作った。移りたい者は、その意思で乗っている」


 レオンは老人へ、話せるかを尋ねた。


 老人は女を見て、頷く。


「孫が街にいる。会いに行くんだ。乗せてくれた」


 弓の先が、わずかに下がった。


 女はなお、レオンを見る。


「エリシア・フォル。人間の争いで、この道を自由に使えると思わないで」


「君たちの場所だと知らなかった。出るための道を教えてほしい」


「教えたら、次は兵を連れてくる?」


 レオンは首を振った。


「今日の帰路だけだ。次に使うなら、条件を聞く」


 エリシアは、荷車の水袋へ目を移した。


 その視線に、シルヴィアが気づく。


「こちらに怪我人がいるなら、分けられます。追手は、村の方へ戻りました」


 女は答えなかった。


 後ろの木から、若い射手が出てくる。


「あの隊とは、鎧が違います」


 エリシアは、短く彼を下がらせた。


 荷車の外を一周し、槍を下げた団員の手を見る。


 黒い鉄鎖紋へ視線が止まった。


「何の印?」


「組織の法を守る誓約だ。民から奪わないことなどを決めている」


「民に、エルフは入るの」


「入る」


 レオンは即座に答えた。


 エリシアは、まだ弓をしまわなかった。


 木の上で、何かが擦れる音がした。


 人間の足場に見える根も、彼らには射る角度を作る場所だ。レオンは地図の空白だけを見て、この林道を選んでいた。


「何もない場所だと思っていた?」


 エリシアが聞く。


「地図には、森としか書かれていなかった」


「ここには、薬草を乾かす場所も、冬に木の実を置く場所もある」


 彼女の弓が、少し左を指した。


 草に隠れた小さな杭が並んでいる。


 車輪を向けていたら、そこを踏んでいた。


 レオンは荷車を止めるよう伝え、別の場所へ引いた。


 老人が身体を揺らし、荷台の縁へ手をかける。シルヴィアが先に支えた。


 何を守るかは、自分の目に見えているものだけでは決められない。


「通った跡を直す必要があるなら、出る前に聞きたい」


 エリシアは杭を確かめ、それから道の右側を示した。


「そこなら、何も潰さない」


     *


 彼女の案内は、森の出口までという条件だった。


 弓を持つ二人が後ろへつく。こちらは武器を抜かず、荷車を止める時も先に知らせる。


 途中、小さな休み場へ入った。


 倒木に腰を下ろすエルフがいた。足へ布が巻かれ、横に潰れた薬草の籠がある。


「徴収に来た男たちが、薬草まで税だと言ったの」


 エリシアが説明した。


「森の境を、勝手に領主の土地へ引き直して。払わなければ、道へ出る時に捕まえると」


 シルヴィアは水を出す前に、使うかを聞いた。


 負傷した者が頷く。


 レオンは街の薬師の名を伝え、本人が望むなら診てもらえると話した。


 エリシアは包帯を確かめた。


「代わりに、何を?」


「応急の水を渡す代わりに、加入は求めない」


 レオンは答えた。


 彼女の指が、少し止まった。


 その時、荷車の方で小声がした。


「耳の長い連中まで、俺たちの金で食わせるのか」


 村の袋へ手を出しかけた団員だった。


 レオンが振り返る。


 男は、籠の中の銀細工を見ていた。


「あれ、礼にもらえばいいんじゃねえの」


 エリシアが立つ。


 下げていた弓が、再び持ち上がった。


「今の言葉は、あなたの組織の意見?」


 レオンは男と女の間へ入った。


「違う。だから、私が止める」

こちらに事情があるように、相手にも警戒する理由がある。エリシアとの出会いは、そこから始まります。


次回予告:仲間の振る舞いに、王子はどんな線を引くのか。


続きが気になったらブックマークを、面白いと感じたらページ下部の評価で応援していただけるとうれしいです。執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。