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第28話 王子は弱い――だから、その盾は命令より先に動いた

 レオンは腰の短剣を抜いた。


 四人のうち、先頭の男が笑った。


 長剣が振られる。


 受ける位置を合わせたつもりだった。


 衝撃で手首が曲がり、短剣が壁へ当たる。


 指から離れた刃が、石畳に落ちた。


 魔力を込めても、何も変わらなかった。


「剣も持てないのか」


 男が、次の一歩を出す。


 レオンは身体を横へずらした。


 刃が外套を裂き、壁を擦る。


 逃げる通路は、後ろの二人が塞ぎにかかっている。


 盾列へ戻れば、この四人も後方へ連れていくことになる。


 警告の声を出そうとした時、木と鉄のぶつかる音がした。


 大きな盾が、目の前に入っていた。


 グスタフだった。


 レオンが命じるより先に、隣の者へ盾列を渡し、飛び込んでいる。


「お前、よく王宮で口がきけたな」


 大男は振り返らずに言った。


「こんな弱えのに」


 レオンは答えようとして、息を詰まらせた。


 長剣が盾を滑る。


 敵は、オークのように一箇所だけを押さない。上を叩いて盾を上げさせ、下へ刃を変える。


 グスタフの腿から、血が出た。


 大男は膝を落とし、盾の下を石へつける。


 だが、右から別の剣が来た。


 一枚では、囲まれる。


「右を合わせる!」


 ダリオの声が届いた。


 小さな丸盾が、大盾の横へ入る。


 第三の剣を、後ろの槍が弾いた。


 ダリオは前線の次の組へ合図を返し、それからレオンを見た。


「こっちへ、目を戻せるか」


 レオンは壁から手を離した。


 離れた列は、いったん接続を解く。そこでは、訓練した受けと交代を続けてもらう。


 全てを同時に握ろうとして、倒れるわけにはいかなかった。


「短くなら」


 彼は答えた。


 グスタフの足。ダリオの盾。後ろの槍。


 レオンは、三つの動きを見た。


 グスタフが押せば、ダリオが剣を外へ払う。槍は、その瞬間まで待つ。


 光が、細く繋がった。


 敵の剣が、もう一度、二枚の盾へ当たる。


 今度は片方だけが下がらない。


 ダリオが半歩ずれ、隣の圧力を受け直した。


「今だ、押せ!」


 グスタフの肩が盾へ入る。


 剣士の身体が、後ろの仲間へぶつかった。


 その脇から、別の剣が突き出される。


「隙を――」


「リゼット。留め具の下だ」


 レオンが示した。


 杖を持つ女が、路地の角へ走ってきていた。


 胸の鎧と、肩の金具の間。


 大きな火なら、グスタフの髪まで焼く。


 彼女は杖を両手で握り、細い火を一点へ飛ばした。


 槍先が、同じ隙間へ入る。


 剣士が肩を押さえ、剣を落とした。


 奥の一人が、なおレオンへ向かう。


 ダリオが盾を斜めに出し、男の膝を槍の柄で払った。倒れた腕から刃を遠ざけ、別の団員が押さえる。


 残る二人は、仲間を引きずって戸へ下がった。


 グスタフが息を吐く。


「追うな、だろ」


「そうだ」


 レオンは答えた。


 紋の光が切れると、脚へ重さが戻った。


 敵の落とした剣を、ダリオが足で遠ざける。


 グスタフは盾を壁へ立て、レオンへ向いた。


「言っとくが、あんたを守れって罰で縛られたからじゃねえぞ」


「分かっている」


 レオンが言うと、大男の顔が少し意外そうになった。


「もう、私が何か言う前に動いていた」


 彼は続けた。


「助かった。ありがとう」


 グスタフは血のついた腿を見て、舌打ちした。


「そういうの、真っ直ぐ言うな。調子狂う」


「では、どう言えば」


「今のでいい!」


 リゼットが、杖を抱えて笑った。


 すぐに、その笑いが止まった。


 戸の奥から、煙が流れてきた。


 戻った敵の一人が、灯りを倒していた。


 西倉へ続く床の藁へ、火が移る。


 ニコが路地の向こうから叫んだ。


「倉から煙! まだ、二人が出てねえ!」


 レオンはグスタフを見た。


 男は、火の向こうへ下がる敵を睨んでいる。


 その背を追えば、逃がさずに済むかもしれない。


 だが、戸の向こうに、民がいた。

レオンが弱いことを、仲間が知っている。その弱さを預けられる関係も、団の力なのだと思います。


次回予告:敵を追う前に、火の向こうの人を守るために。


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