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第27話 奪いに来た軍、揃って退くゴロツキに崩される

 敵の槍が、盾の上から伸びた。


 グスタフは柄を斧で払った。


 隣の男が一歩下がり、後ろが背を押す。光が繋がると、盾へ来た衝撃が二人の肩へ分かれた。


 それでも、腕が痺れた。


 オークの一撃と違い、次の槍がすぐ来る。


「下がれ」


 ダリオの声。


 最初の角まで、五歩。


 退く時にも、盾を下げない。


 グスタフの踵が石へ当たった。横の盾が少し先へ出る。


 手首の光が細くなった。


「揃えろ!」


 大男が叫ぶ。


 敵の槍先が、その隙間へ入った。


 後ろから支えていたオットーが、盾の縁を押し戻す。


 槍は逸れたが、男の腕に赤い筋が走った。


「オットー!」


「まだ押せる!」


「次の組へ渡せ。止まって見せるな」


 ダリオが指を二本立てる。


 ニコがオットーの肩を取り、列の内側へ引いた。


 代わりの者が背へ手を置く。


 血の出た腕を、ニコが布で縛る。彼も、巻く練習はしていた。


「きつい?」


「それでいい」


 オットーは歯を食いしばった。


 レオンは、男が後ろへ移ったのを確かめた。


 負傷者を逃がすために、列は退く。


 あの日、王宮で受け入れられなかった命令を、ここでは皆が実行していた。


 敵の前列が、騎士団の後退を見て勢いづく。


「押せ! 逃げてるぞ!」


 槍が伸び、盾が前へ出る。


 先頭は、まだ揃っていた。


 その背後で、別の男たちが住居の戸を叩き始める。


 鎧も盾も、前列とは違う。


「金がない分は、中の物を取っていいって話だろ!」


 割った窓へ手を入れる。


 別の男が、そこへ続いた。


 空にした家でも、壁の金具と家具は残っている。抜き取るために二人が立ち止まれば、後ろも詰まった。


 先頭の指揮役が怒鳴る。


「今は追え! 後にしろ!」


 だが、後からでは取り分を失うと思った者たちは動かなかった。


 レオンは、列の切れ目を見た。


 ハーゲンが、ただ誘いへ乗ったわけではないことも、見て取れた。


 精鋭を前へ置き、広場へ回る組も分けている。


 ただ、数を揃えるために雇った者の報酬を、街から奪う物で埋めようとしていた。


 先に取った者が得をする。


 その約束が、隊列をほどいている。


「荷車の間へ」


 レオンが命じた。


 ダリオが後退の合図を出す。


 六枚の盾が、角を曲がった。


 追った敵の列は、積んだ荷車と壁の間へ入った。


 二人分の幅しかない。


 後ろの槍が、前の肩へ当たる。


 前列が止まった。


「左、今だ!」


 側路に置いた二枚の盾が、横へ出る。


 その後ろから、槍が短く伸びた。


 正面と横。


 狭い場所で、敵の盾は二つの向きを覆えなかった。


 男が膝を折る。後ろの者が、その上へ足を乗せかけた。


 リゼットの杖が上がる。


 大きな火は出さない。肩と盾の間に露出した革紐へ、小さな火を絞る。


 槍が紐を裂く瞬間、火が重なった。


 盾の握りが外れ、男は慌てて手を引く。


「火は一つずつ。家へ飛ばすな!」


 レオンが声をかける。


「分かってる!」


 リゼットは次の一点を待った。


 屋根へ火を撒けば、民の家を燃やす。


 小さく狙えることが、今は彼女の強みだった。


 騎士団が押す。


 横の盾が道を狭め、後ろから来た敵を先頭へ入れない。


 敵の指揮役が、笛を吹いた。


 家の中へ入った者には届かず、窓から出てきた者は仲間の背へぶつかる。


 騎士団の合図は、ニコが角の向こうへ返していた。


 敵が増えれば、押すのを止めて受ける。少なくなれば、同じ足で前へ出る。


 グスタフは、隣の男の息を聞いた。


「苦しいか」


「まだ」


「無理なら言え。俺も言う」


 大男の肩にも、血が滲んでいる。


 勝っているからといって、傷が消えたわけではなかった。


 笛の音が変わる。


 敵の前列が、とうとう後ろへ足を出した。


 下がる背を、後ろの味方が塞いだ。


 騎士団は、追って列を崩さない。


 降りた武器を拾う者と、まだ抵抗する者を押さえる者を分けた。


 路地の向こうで、男が叫ぶ。


「こんなゴロツキに、なんで――」


 グスタフは盾を下ろさなかった。


 昨日までゴロツキだったことは、知っている。


 今は、隣を置いていかないことも知っていた。


 レオンの視界が暗くなった。


 二つの列を繋ぎ続け、合図を読み直すたびに胸が重くなる。


 壁へ手をついた。


 その時、後ろの戸が軋んだ。


 西倉から通じる細い廊下。


 そこへは主隊を誘っていない。


 剣を抜いた四人が、戸を押し開けた。


 統一された鎧。泥のついていない刃。


 先頭の男が、壁へ寄りかかったレオンを見た。


「こいつを落とせば、止まる」


 声が低かった。


 戦っている盾列より、弱い指揮官を選んだ目だった。

一歩下がるにも、隣の足を待たなくてはならない。盾の隙間の怖さと、支える手を書いた戦いでした。


次回予告:列をつなぐ王子自身にも、危機が迫ります。


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