第26話 二人の指揮官――王子の返事を待たず、女騎士は走る
夜明け前、二台の軽い荷車が東の門を出た。
まだ荷台は空だ。
森を抜けた分岐で、南の市場から来る穀物を受け取る。橋の手前で一度下ろし、人が背負って向こうへ運ぶ。
商人と職人、荷運びの者たち。護衛の団員は四人。
ボルガンが最後に、車輪の軸を叩いた。
「橋の上で止めるなよ。止まるなら、手前の印までだ」
「分かっていますとも」
マルコが手綱を取る。
「戻ってからの取り分を、話せる方がいいですからね」
レオンは、出ていく一人ずつの顔を見た。
自分の力で覆える場所から、離れていく者たちだ。
「道が危険なら、戻していい。荷より先に、人を」
マルコは振り返った。
「荷も、人も、持って戻るつもりで行きます」
荷車の音が、森へ消えた。
西の丘で、別の音が鳴る。
笛だった。
敵の斥候が、街へ近づいていた。
*
西倉の戸を閉めるはずの時刻を過ぎても、管理人が来ない。
テッサが、残していた見張りの報告を受けた。
「運び出していた棚が倒れました。管理人と、手伝っていた男が奥へ。腰を痛めて、歩けません」
シルヴィアは、広場へ向かう家族たちを見た。
子供を連れた女と、寝台を運ぶ二人が、まだ狭い通りにいる。
予定の道を進めば、西倉の角で混み合う。
「こちらの路地へ回します。テッサ、粉屋の裏口を開けて。寝台を先に」
「殿下へ、確認は」
「任されています。変更を知らせて」
テッサが伝令へ紙を渡した。
シルヴィアは寝台の横へ立ち、段差を越える手を増やす。
「揺れます。先に言ってから持ち上げてください」
寝ていた老女が、小さく頷いた。
市場から来た荷運びの男も、足を止めて寝台へ手を添える。
後ろの母親が、子供を抱き直した。
全員が通りを抜けるまで、剣を抜く場所には立たなかった。
西から、門を叩く音が響く。
残る二人を、倉から出さなければならない。
「避難した人は広場へ。倉の二人は、私が確かめます」
シルヴィアは見張りと二人で倉へ向かった。
外の戸は開いていた。奥の通路を、倒れた棚と荷が塞いでいる。
木を動かすと、その向こうで男が呻いた。
「押さないでくれ。こっちの脚に当たる」
シルヴィアは手を止めた。
敵へ剣を振る時より、力を抑えなければならなかった。
「分かりました。隙間を広げます。メレナと、支えに使う板を呼んで」
見張りを外へ出し、彼女は倒れた棚を少しずつ支えた。
*
レオンのもとへ、変更の報告が届いた。
避難の道は粉屋の裏へ。予定した区画の大半は移動済み。西倉に二人、救出を続ける。
レオンは空の通りへ、最初の隊列を出した。
「西倉の出口へ、敵を回すな。民の退路を残す」
ダリオが配置を一つずらす。
「こっちの角を、先に受ける。次へ退く時は、倉の戸から離して引く」
グスタフが盾を持ち上げた。
オットーは、後ろから支える組にいる。
家族は酒場へ移った。昨夜は二人のそばで眠り、今朝、持ち場へ戻った。
「足、震えてるぞ」
グスタフが言う。
「怖い」
「俺もだ」
大男は、自分の盾を軽く叩いた。
「こいつは、直してある」
オットーが握りを見る。
新しい釘と、ボルガンの教えた留め方。
頷くと、前の男の背へ手を置いた。
西門の見張りが、定めた退路へ下がる。
門の外には、革鎧の男たちが並んでいた。
統一された紋の盾を持つ者もいる。槍の長さが揃い、前列は勝手に走らない。
用心棒三人を倒した時と、同じ相手ではなかった。
後ろの馬上に、ハーゲンがいた。
「殿下へ、最後の勧告です」
声が、門を越えて届く。
「警備を戻していただく。これ以上の抵抗は、街の不利益になります」
レオンは盾の列を見た。
その向こうに、民の寝台を運んだ道がある。
「この街の者へ、武器を向けるな」
返事は、槍を構える音だった。
門が押される。
ニコが、最初の合図を伝えた。
騎士団の盾が、細い通りを塞いだ。
返事を待つ余裕のない現場で、何を任せるか。王子一人では守れない街の広さが見えてきました。
次回予告:迫る軍を前に、揃って退く訓練が試されます。
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