第23話 罰を恐れず話せ――王子は裏切りより先に家族を守る
「表は、渡していない」
オットーは、最初にそう言った。
レオンは紙を受け取った。
妻が書いた短い文。子供の名前。
返事をすれば、二人を帰すと、別の筆跡で添えてある。
「要求を聞いたことと、仲間を売ることは違う。今、話したことを罰しない」
オットーが、握っていた手を少し開いた。
「助けられるか」
「場所と、そこにいる者を確かめる。シルヴィアが向かっている」
レオンは、彼へ水を渡した。
隣にいたニコが、先に椅子を引く。
オットーは座ったが、飲まなかった。
レオンも、急かさなかった。
扉が開いた。
テッサが、皮屋の図を卓へ置く。
「裏の窓から、女性と子供を確認。見張りは二人です。拘束された理由を説明できる書面は見せません。隊長が引渡しを要求しています」
「あいつらに、知らせたのか!」
オットーが立ちかける。
「表を渡す時刻までは、まだあります」
レオンは図の扉を指した。
「君がここにいることを、相手は知らない。要求を受けた者がいるから確かめに来たとは言っていない」
「でも、刃物を――」
レオンは言葉を待った。
その危険はある。
だが、表を渡せば安全になる保証もなかった。
「君の家族を、相手の約束だけに預けない。まず、今夜ここへ連れてくる」
外で、鐘が一度鳴った。
救出の合図ではない。夜の時刻を告げる、普通の音だった。
オットーはその音の間、顔を伏せていた。
*
先に戻ったのは、グスタフだった。
腕に、小さな男の子を抱いている。
子供は大男の肩の傷を見たが、その首へ回した腕を離さなかった。
後ろから、シルヴィアが女性を支えて入ってくる。
オットーが椅子を倒した。
妻の前で膝をつき、二人を抱いた。
レオンは、問いをその場で始めなかった。
ベルタが温かい器を運び、メレナが子供の手を確かめる。
シルヴィアは、卓の端へ鍵を置いた。
「表から見張りへ説明を求めている間に、テッサが裏の窓を開けました。二人を外へ移すまで、剣を抜かせないように」
「見張りは」
「二人とも拘束しました。まだ、外へ知らせてはいません。家族を追える位置には、置きませんでした」
グスタフが、伸ばしていた腕を回す。
「窓の下、腰が抜けるかと思ったぞ。次は、先に台を置け」
「無事に受け取ったでしょう」
テッサが答えた。
「腕を鍛えてるだけあるな」
ニコが言うと、大男は彼の頭を軽く押した。
レオンは、借財の紙と、連れ去った者の名を記録へ残した。
借金があるかどうかと、人を閉じ込めることは別だ。帳面を確かめる前に、妻子を借財の代金にさせる理由はない。
オットーが、顔を上げた。
「俺に、何をすればいい」
「今夜は、二人のそばにいてくれ」
「表のことは」
レオンはダリオを見た。
敵は、見張りを調べている。拘束した見張りの持つ指示には、十五日目の夜明けまでに仲間を集める時刻があった。
いつ侵入するかを、別の報告とも照らせる。
次に必要なのは、どこへ来させるかだった。
「相手へ、こちらが選んだ配置の情報を渡したい。実際に民を無防備にするものではない。任務の範囲を決め、君を危険な受渡し場所へ戻すことも避ける」
「俺が、嘘を言う?」
「敵を欺くための報告だ。仲間の秘密を、勝手に売ることとは違う。ただし、家族を助けた代わりに引き受けろとは言わない」
オットーは腕の中の子供を見た。
妻へ何かを囁き、レオンへ向き直る。
「書く。俺が書かないと、字で疑われる」
レオンは、具体的な文面をダリオと確認した。
西倉の交代で見張りが少なくなること。そこから荷を集めた区画へ入れるということ。
まだ民がいる間は、本当の見張りを減らさない。避難ができなければ、この配置を使わず別の防衛へ切り替える。
オットーは紙へ、ゆっくり字を書いた。
手首に、鎖は出ない。
ニコが、横で筆を拭く布を渡した。
「先に話してよかったな」
オットーは頷いた。
レオンは、相談できたことも記録へ残した。
この男を裏切り者と数えるより先に、守るべき家族の数を増やせていた。
罰するより先に、相談できたことを記録する。オットーの隣にいるニコの変化も、うれしい場面です。
次回予告:皆で帰るために、今度は退く練習を。
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