↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

第22話 裏切りの印は出ない――仲間が隠していた手紙

 オットーが、皿を残して立った。


 ニコは、その背中を見た。


 夕食の途中で出ていく男ではない。


 初めて飯が出た日は、鍋を洗う順番まで待っていた。盾の紐を直す仕事も、いつも最後までしている。


「どこ行くんだよ」


 ニコが声をかけると、オットーは扉へ手を置いたまま振り返った。


「ちょっと、用が」


「粉屋? 俺、帰りに――」


「一人で行く」


 顔が、固かった。


 オットーが外へ出る。


 ニコは自分の皿を卓へ置いた。


 ベルタが振り向く。


「あんたも残すのかい」


「帰ったら食う。片づけないで」


 戸を開ける前に、手首を見た。


 紋は静かだ。


 何も悪いことがない、ということではない。


 ニコは一度、裏庭へ回った。


     *


「尾行なら、距離を取ってください」


 テッサは話を聞くと、巡回の団員へ交代を頼んだ。


「また、二人かよ」


「嫌なら、ここで待てます」


 ニコは待たなかった。


 オットーは市場を抜け、街門の内側にある空き店へ入った。


 窓から、灯りが漏れている。


 ニコは向かいの物干しの陰へ寄った。テッサが、もう少し下がるよう肩を押す。


 店の戸が細く開いた。


 知らない男が、紙を差し出している。


「奥さんの字は、分かるだろ」


 オットーの手が震えた。


「二人に、何をした」


「借りた金の話をしてるだけだ。お前がこっちで稼いでるから、取りに来た」


「給金はある。払う」


 袋を差し出す。


 男は受け取らなかった。


「それで足りると思ってるのか。利子も、連れてきた手間もある」


「何が欲しいんだ」


 男が、別の紙を渡した。


「王子の見張りの表だ。今度の朝の分を、明日、ここへ持ってこい。誰が裏門にいて、いつ交代する」


 ニコは息を止めた。


 テッサの指が、腕へ触れる。


 飛び出すな、という合図だった。


「それは、できない」


 オットーが言った。


「できるさ。見張りが一人減るくらいで、街は潰れない」


 男は紙を押しつけた。


「断るなら、倉にいる二人の飯を止める。殿下に話すのも同じだ」


 戸が閉まる。


 オットーはしばらく動かず、やがて紙を胸へ入れた。


 足が、酒場と逆の方向へ向く。


 ニコは物干しの陰から出た。


「オットー」


 男が振り返る。


 手は、剣へ向かわなかった。


 紙を押さえたまま、一歩下がる。


「聞いたのか」


「全部じゃねえ。二人って、誰」


 オットーは答えなかった。


 テッサが、店から見えない路地を指した。


「こちらへ。まだ、あの者の要求は実行していませんね」


 男は彼女の顔を見た。


「俺は、表を渡してない」


「なら、そのことを先に伝えましょう」


「王子へ?」


 男が手首を握った。


「仲間を売るなって、あの法があるだろ。俺、こんな話を聞いて――」


 ニコは自分の紋を見せた。


「聞くだけで罰なら、俺らも止まってるだろ」


 言ってから、確信があるわけではないと思った。


 分からない。


 だから、聞きに行くしかない。


「俺も一緒に行く。間違ってたら、一緒に聞き直す」


 オットーは、ようやく息を吐いた。


「……妻と、息子だ」


 低い声だった。


「隣の村にいるはずだった。俺が給金を持って帰るまで。向こうで借りた金のせいで、二人を連れてきたんだ」


 ニコは、昼にグスタフが包んでいたパンを思い出した。


 家へ戻る者へ持たせた、あの包み。


 オットーにも、戻る場所があった。


「倉の場所は、分かる?」


 テッサが聞いた。


「西の、昔の皮屋。外に鍵がある」


「まず、そこを確かめます。殿下へ話す間、一人にしません」


 ニコは男の横へ回った。


 捕まえるためではない。


 今度は、逃げる道を一人で選ばせないためだった。

紋が静かでも、困っていないとは限らない。気づいて声をかける仲間がいることを、大事にしたいです。


次回予告:話してくれた言葉を受けて、王子たちが動きます。


続きが気になったらブックマークを、面白いと感じたらページ下部の評価で応援していただけるとうれしいです。執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。