第21話 道を開けば街が空く――女騎士は王子に異議を言う
「街に残る者が足りません」
翌朝、シルヴィアは昨夜と同じ言葉を繰り返した。
レオンの卓には、森の道と、街の見張りの表が並んでいる。
約束した、三日目の朝だ。
「今日、資材を出さなければ橋の作業が遅れる。早い便は、浅瀬を使って人が背負う」
「道を守る人も要ります。行く人を増やせば、裏門が二人だけになる」
「昼間の市場の見張りを減らせば――」
「市場で脅された人へ、私たちが巡回を約束しました」
シルヴィアはその名前を指した。
レオンの指が、紙の上で止まる。
彼女は正しい。
ただ、道へ誰も出さなければ、その市場で売る物がなくなる。
「両方を、同じ人数で守ることはできない」
「だから、どこを薄くするか、私にも決めさせてください」
シルヴィアは街の地図を引き寄せた。
「見張りを減らす家へ、先に知らせます。巡回が来る時刻と、危険を感じたら集まる場所を。残る部隊は、私が動かす」
テッサが、鐘のある広場に印をつけた。
「三つ続けて鳴ったら、私の班が向かいます。門の番は動かさず、巡回から回せる人数を残します」
「私の指示を待たずに?」
「火と暴力は、書類が届くまで待ちません」
シルヴィアの声は、静かだった。
レオンは街門を見た。
自分が近くにいない時、あの剣が守った者を、もう何人も知っている。
「任せる。民の救出と、危険な通路からの後退は、君が決めてくれ。変更した配置は、伝令で知らせてほしい」
テッサが新しい表を書き始めた。
森へ出す団員は四人。作業と運搬は、契約した街の職人や荷運びが加わる。
今日の先行便は軽い荷だけだ。浅瀬の水が増えれば、無理に渡らず戻す。
ボルガンが、工具袋を持ち上げた。
「橋は現地で確かめる。紙の上で太くしても、木は強くならん」
マルコは、市場から来た返事を出した。
「魔石の予定だけでは出せないが、残っている素材を担保にすれば、少額は出るそうです。市場側の商人が、分岐まで粉と薬を運ぶ。こちらで迎える条件です」
レオンは支出と返済の条件を確かめた。
街に残した牙と皮を担保にし、まだ狩っていない魔物の素材を当てにしない。
「今夜、少量でも入れば、支援を続ける日を延ばせる。荷車の便は、橋を確かめた結果で日を決めよう」
グスタフが槍を肩へ置いた。
「俺も出る」
「君は、街に残ってほしい」
レオンが言うと、大男は眉を寄せた。
シルヴィアが、広場の印を指した。
「ここで、私と一緒に動いてください。助けを呼ぶ人から、あなたの盾が見えるように」
グスタフは少し考え、槍を下ろした。
「……分かった。あのでかいのを止めた盾だって、見せとくか」
「掲げているだけでは、仕事になりません」
「分かってるよ」
*
夕方、小さな袋が酒場へ届いた。
粉と、メレナが頼んだ薬。
四人で背負える量は、荷車一台よりずっと少ない。
それでもベルタは、まず袋を開け、支援する家のために取り分けた。
「これで、明日の鍋が出せる」
ボルガンは泥のついた図を広げた。
「橋脚は残せる。床と、こっちの支えは換える。軽い荷車を空で渡す形なら、あと三日で始められる」
ニコが紐の結び目を指す。
「そこ、測り間違えなかった?」
「間違ってたら、今ごろ川へ放り込んでる」
「怖えな!」
「合ってた」
ニコは結び目をほどかず、大事そうにしまった。
見通しを出す約束は、果たせた。
レオンが報告へ時刻を記すと、シルヴィアが湯を置いた。
「今朝は、言い過ぎましたか」
「いや。私の計画に足りないものを示した」
「なら、これからも言います」
「聞く」
レオンがすぐ答えると、彼女は少しだけ目を細めた。
「返事も、前より早くなりましたね」
外から、テッサが戻ってきた。
街道に沿った丘で、武器を持つ男たちを見たという。
今までの用心棒とは違う。荷車には盾と槍が積まれていた。
「人数は、まだ確かめています。ですが、こちらの見張りを数えている者がいました」
レオンは、できたばかりの配置表を見た。
食料が届く前に、街を失うつもりはなかった。
異議を言えることも、信頼の形だと思います。シルヴィアとレオンが、同じ地図を見直す回でした。
次回予告:仲間の様子と、隠された一通の手紙が気にかかります。
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