第19話 税を作っても飯は湧かない――だから仕事を作る
レオンが最初に向かったのは、役所ではなく、板の積まれた倉だった。
グスタフとダリオが待っている。
その間から、聞き覚えのある声がした。
「この二枚は使える。こっちは、橋に置くな」
ボルガンが、板の端へ金槌を当てていた。
「来ていたのか」
レオンが言うと、ドワーフは金槌を肩へ載せた。
「昨日の朝にな。道具の荷は、検問で戻された。俺だけ入ってきた」
持ち込めたのは、腰の工具袋と手帳だけだという。
レオンは押収した品の控えを渡した。
ボルガンが頷く。
「俺の注文分まで抜かれてた。黙って帰る気にはならん」
「橋を直す材を探している」
「だったら、なおさら自分の目で見たい。長さだけ持って帰っても、橋脚が腐ってりゃ渡せんぞ」
ニコへ、測るための紐と短い棒を渡す。
橋幅。支える木の太さ。水面までの高さ。
見る箇所を説明すると、ニコは紐を巻き直した。
「こんなに聞くなら、一緒に来てよ」
「狼に追われて、工具袋まで抱えて走れるか」
「……走るのは俺らか」
「そうだ。だから、戻れる所まででいい」
リゼットが、割れた板を持ってきた。
「湿ってるだけなら、乾かせます。火力は細く使えば」
「腐った木は、乾かしても腐った木だ」
「まだ何もしてませんけど」
「する前に言った」
彼女は板を睨んだ。
ボルガンは、別の一本を示す。
「そっちの表を乾かしてみろ。削ってから、油を染み込ませる」
小さな火が杖先に灯る。
表面から、薄く湯気が上がった。
「いい。焦がすな」
「分かっています」
「なら、そのまま続けろ」
リゼットは板を返さず、自分の作業台を確保し始めた。
グスタフが小声で聞く。
「あいつ、怒ってるのか」
「半分は」
ダリオが言った。
残り半分は、レオンにも分かる気がした。
木を乾かす火にも、出番はある。
*
倉の主人が、使える板の値を告げた。
レオンはその額を帳面へ記した。
「食料が少ない時に、板を買うのか」
主人が聞いた。
「板がなければ、次の食料を運べない。必要な枚数が分かるまでは、取り置きを頼みたい」
「金の約束がなきゃ、置いとけないよ」
マルコが、店の主人を三人連れてきた。
粉屋、豆を売る店、荷車の修理屋。
「次の輸送へ、前金を出す話をしてきました」
粉屋が小袋を卓へ置く。
「施しじゃない。粉が入らなきゃ、うちも店を閉める。板を買う金の一部は出す。代わりに、荷の場所を取っておいてくれ」
レオンは、運べる量がまだ未確定だと説明した。
いつまでに見通しを示すか。失敗した場合は支出を見せ、使わなかった前金を返すこと。
必要な板代、道を守る者の食事、買い付ける荷の代金を、別の欄へ書いた。
「うちは金が出せない」
荷車の修理屋が言った。
「でも車輪を直せる。橋へ板を持っていく車も、手が空いてる」
「修理と運搬を、契約の対価へ入れる」
レオンは紙を引き寄せた。
「誰が、何をするか。曖昧にせず決めよう」
倉の主人が、小袋を見てから板へ向いた。
「じゃ、あの二枚は、明日まで取っておく」
グスタフが背へ斧を回す。
「足りねえ分は、切ればいい」
「切ったばかりの木で、全部を作るつもりか」
ボルガンが止めた。
「古い橋の使える所を残す。新しい材が要る所を確かめる。木の重さは、お前の肩だけじゃ測れん」
「分かったよ。先に見ろってんだろ」
大男は、ようやく斧から手を離した。
レオンが次の契約書を出すと、粉屋が首を傾げた。
「これから、街の全員から取るのかい。税みたいに」
「今は、輸送と修理の契約だ。街全体の費用を分担する仕組みは、別に必要になる」
「王子様なら、命じれば集まると思ってたよ」
「税を決めても、倉の袋は増えない。荷を買う金、運ぶ道、働く者が要る」
レオンは、昨日の荷運びの親子の名を見た。
「荷を待って仕事が止まった者へ、ここでできる仕事を頼みたい。修繕材を運ぶ者、縄を綯う者、作業する者へ食事を用意する者」
「食い物なら、うちの豆を少し出せる」
豆屋が言った。
「代金は、次の運搬の仕事と合わせて相談したい」
ただ奪えば、隠される袋だった。
話をして、その一部が卓の上へ出てくる。
レオンは条件を確認し、用途を店先にも掲示すると約束した。
マルコは、南の市場へ送る手紙を封じる。
「工房の一つに、次の魔石売却分からの前金を頼みます。断られるかもしれませんが、橋が使える見込みと一緒に話せれば」
「確かめたことだけを伝えてくれ。まだ開いていない道を、開いたとは書かない」
「ええ。そこを嘘にすると、次がありません」
調査の支度ができた。
ニコとテッサ、護衛二人。出発は翌朝、森が明るくなってから。
ベルタが包みを四つ用意し、そこへ豆屋の分を足す。
「持っていきな。戻るまでの飯だ」
ニコは包みの重さを、手の中で確かめた。
「帰りも、何か持ってくる」
「まず自分だよ」
ベルタが言った。
ニコは笑って、包みを袋へ入れた。
道を作るにも、測る人と材を見極める人がいる。戦う以外の腕前も、団を支える力ですね。
次回予告:森の抜け道で、足元から確かめる調査へ。
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