第18話 法を守れば飢えるのか――王子も同じ鎖を見せた
「待てって言うのか」
グスタフが尋ねた。
「飯が減っても、黙って?」
レオンは帳面を閉じなかった。
隠せば、悪い数字だけが噂になる。
「ただ待てとは言わない。街にある物を確かめて、次の荷を入れる道を作る」
「道なら、今もある。閉めてんのはあいつらだ。ぶち破ればいいだろ」
「検問を一つ破っても、卸が荷を出さない。街へ戻す間、別の場所で止められる」
大男は口を結んだ。
庭の団員たちは、どちらの顔も見ている。
「じゃ、近くの倉は」
「盗まれた物は証拠を確かめて戻す。昨日の薬草もそうだ。だが、誰の物か確かめず全部取れば、店が置いた在庫まで奪うことになる」
「俺たちに、腹減らして調べろってか」
グスタフが卓へ拳を置いた。
「前は、腹が減ったら取った。好きだったとは言わねえ。でも、次に食えるかは分かった」
ニコが、皿を下ろした。
「あんたが、別の飯を出したんだろ」
グスタフは続けた。
「怪我した奴も寝てていい。働いた分は消さねえ。弱いやつが後ろにいても、そいつの取り分がある。……いいじゃねえか、それで」
声が、少し掠れた。
「また、奪いに行けって言わせるなよ」
レオンは彼を見た。
法を破りたい男の顔ではなかった。
なくしたくない物が、初めてできた男の顔だった。
「言わせたくない」
レオンは外套の袖を上げた。
自分の手首にも、鉄鎖紋がある。
「君たちへ命じて、私だけ奪うこともできない。民の物を取れば、この法は私も止める」
グスタフは紋を見た。
前に一度聞いたことでも、腹が減り始めた日に見る意味は違う。
「だから、我慢しろって話なら、同じだぞ」
「違う。私も同じ条件で、できる手を探す」
レオンは地図を開いた。
「旧道は、南の市場へつながっている。壊れた橋を直せるか。魔物を避けて運べるか。調べる必要がある」
「できなかったら」
「計画を変える。少量なら人が背負える場所を探す。街の在庫も、金や仕事と交換して集める。持っている者全員を敵にしては、次の物も来ない」
シルヴィアが地図へ手を置いた。
「殿下。いつまでに、見通しを出しますか」
レオンは食料の欄を見た。
今日と明日で調べ、戻る報告を待つ。
それ以上、皆へ希望だけを配っている余裕はない。
「三日目の朝までに。通せる量と日を示す。それまでは、今必要な食事と救護を減らさない。支援する家も毎日確かめる」
「その時、見込みがなければ?」
「残量を隠さず、別の搬入か避難も含めて話す。私の面目のために、街へ留めない」
グスタフは、地図の森を見た。
「俺を出せ。木を切るなら、斧がいる」
「まず調査だ。重い木を扱う人数は、その後で決める」
「何でもいい。やることを寄越せ」
大男は拳を卓から離した。
「何もしてねえ方が、腹減るんだよ」
近くの団員が小さく笑った。
レオンは、残りの修繕材を数える仕事を渡した。ニコには旧道の入口へ行く支度、ダリオには守備と作業を両立できる人数の確認。
皆が動くと、庭に少し空間が戻った。
シルヴィアだけが卓の横へ残った。
「紙にすると、できたように見えますね」
「まだ、何も届いていない」
「分かっているなら、現場でも見せてください。あと、今夜も眠ること」
「今、睡眠の話か」
「三日後まで働くなら、今夜が要ります」
レオンは言い返せなかった。
袖を戻そうとすると、シルヴィアの指が外套の端へ触れた。
「あの人たち、殿下の答えを聞きたくて残っています」
彼女は庭を見た。
グスタフが釘を数え、途中で分からなくなってニコを呼んでいる。
「法がなければ、今日、倉へ行った者もいたでしょう。でも法だけなら、質問せず、逃げ道を探したかもしれません」
レオンは、もう静かになった手首を見た。
紋は、食事を作らない。
ここへ戻る理由を作るのは、自分たちの仕事だった。
法を守れと言うだけでは、飯は出ない。レオンも同じ鎖の内側で、答えを探していきます。
次回予告:街の明日を支える仕事と、別の道を探します。
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