第17話 勝った街から、パンが小さくなっていく
二日たっても、荷車は来なかった。
マルコが、店の戸へ紙を貼る。
次の入荷日を書いていた場所が、空欄になる。
「明日って聞いたよ」
客の女が言った。
「私も、そのつもりで注文しました。返事が来ないんです」
代わりに届いたのは、卸からの取引停止の通知だった。
街道の検問では、穀物を積んだ荷車が街へ行く許可を得られず、引き返したという。
レオンは、店先の穀物袋を見た。
空ではない。
だが、前に並べてあった袋が、奥へ下げられている。
「買い占めを避けるために、一人分を減らしました」
マルコが言った。
「値も上がります。この先、いつ買えるか分からないので」
女は財布を開けた。
銅貨を数え、もう一度数える。
「昨日と同じ量が、欲しいだけなんだけど」
誰も、すぐには答えられなかった。
向かいの焼き台で、主人が生地を分けていた。
一つずつ、前より小さい。
レオンは店の主人に残量を聞き、いつもどれだけ使うかを確かめた。
「あんたたちが来て、脅す連中は減ったよ」
主人は言った。
「それは助かってる。でも、焼く粉までなくなったら、店は開けられない」
レオンは頷いた。
剣と盾では、粉を作れない。
*
酒場の裏庭に、袋を並べた。
護送で買った大麦と豆。店が持っていた根菜。近郊の畑から入る量も、マルコへ確認する。
メレナは布と薬草を卓へ置いた。
「布は洗って使い回せます。こちらの薬は、量を減らせません」
団員の腕の傷は塞がりつつある。
オークに飛ばされた傭兵は、ようやく自分で水を飲めるようになったが、まだ寝台を離れられない。
レオンは薬を残したまま、食料の数を足した。
「今の団員と救護中の者を、ここで食べさせるなら八日。仕事が止まり、食事を買えなくなった家にも分けるなら、六日ほどになる」
「街の全員には?」
ベルタが聞く。
「行き渡らない。家と店にも在庫はあるが、同じだけ持ってはいない。まず、もう買えない家を確かめる」
ベルタは頷き、紙の端を引いた。
「市場の奥に、荷運びの仕事で暮らしてる親子がいる。荷が来ないから、仕事もない。あそこは六日も待てないよ」
シルヴィアが紙へ名前を書いた。
「今日、訪ねます」
「この鍋から持っていって」
ベルタが豆を一すくい、別の器へ移した。
レオンはそれを、食料の残量から引いた。
必要な支出だ。
そう分かっていても、残りが減る数字を見ると喉が渇いた。
グスタフが庭へ戻ってきた。
肩に、釘の入った小箱を載せている。
「倉庫の修繕、来週は無しだとよ。荷が入らねえから、金が払えねえって」
小箱を置いた。
「材料は余ってたから、約束の分としてくれた」
「受取を記そう」
レオンが帳面を開くと、グスタフは横へ座った。
庭の隅にいた団員が、低く言う。
「閉じた倉には、まだあるんだろ。食い物」
別の者が顔を上げた。
「組合の倉だ。あいつらが横に流した分もあるんじゃねえか」
「取り返せばいい。ずっと俺たちが運んでた物だ」
その声を聞いたニコが、自分の皿を抱えた。
何か言いかけて、ベルタの鍋へ目を移す。
今度は何も言わなかった。皿を抱える指だけが、緩まない。
レオンが立ちかける。
グスタフが、先に口を開いた。
「おい、王子」
いつもの声より、低かった。
「あんた、奪わなくても食えるようにするって言ったよな」
レオンは、筆を置いた。
「言った」
「なら、俺たちはどうすりゃいい」
大男の視線は、倉の方へ向いていなかった。
皿を抱えたニコと、包帯を巻いた仲間を見ていた。
パンの大きさで分かる危機。グスタフの問いが、自分の腹だけに向いていないところにも注目していただけたら。
次回予告:奪わずに食べるという約束を、王子自身が問われます。
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