第13話 最強の盾列は、荷車と一緒に動けるか
出発の朝、グスタフは荷車を見ていた。
「これが、俺たちの取り分か」
牙、畳んだ皮、布で包んだ魔石。
初めて倒した巨体が、たった一台に載っている。
「全部ではない。街で加工する分は残した」
レオンが答えた。
積み荷の控えは、酒場に一枚、御者のマルコに一枚。持分を記した木札は、まだ団員の手にある。
護衛の団員八人に、レオンとシルヴィア。
テッサとリゼットは街に残る。巡回と救護を止めるわけにはいかなかった。
「夕方に市場へ。明日の朝に買物を済ませて、日暮れまでに戻る予定です」
マルコが手綱を確かめる。
「遅れたら、先に伝令を」
テッサはレオンへそう言い、最後にシルヴィアへ向いた。
「隊長。夜の見張りは」
「二番目に私が――」
「最初の夜は、私とダリオが先に引き受ける」
レオンが紙を渡した。
シルヴィアは紙を見て、顔を上げる。
「殿下が見張りに?」
「敵が来たら、私だけで止めない。起こす。君は昨夜も市場を巡回した」
「ですが」
「前で戦う者が、眠れていない方が危険だ」
シルヴィアは紙を折った。
反論を続けるかと思ったが、外套の留め具を確かめるだけだった。
「二番目からは、交代してください。殿下も歩くんですから」
「分かった」
レオンが荷車へ向くと、背後でテッサの声がした。
「隊長、紙は私が預かりますか」
「自分で持ちます」
何を預かるほどの紙なのかと、レオンは少し考えた。
その間に、出発の合図がかかった。
*
街門が見えなくなってからも、道は平らだった。
街道の検問では、マルコが定められた通行料を払い、荷の控えに受領の印をもらった。今のところ、南へ運ぶこと自体は禁止されていない。
荷車の両脇に盾持ち。前にダリオ、後ろにシルヴィア。レオンは車輪の近くを歩く。
ニコは先へ出るが、道が曲がるたびに一人を中間へ置き、合図を返した。
昨日の試し歩きでは、盾の縁が何度も車輪へ当たった。
止まって並ぶだけならできる。
歩けば道幅が変わる。荷が揺れる。片側だけが遅れる。
グスタフが足を緩めると、手首の光も細くなった。
「車輪に合わせろ。隣の顔も見ろ」
ダリオが言う。
「見てるよ」
「睨むな」
隣の団員が吹き出し、グスタフは前を向いた。
曲がり松の手前で、ニコが戻った。
「道に木が倒れてる。昨日はなかった」
レオンは手を上げた。
荷車が、曲がる前に止まる。
遠くからは倒木が見えない。土手の陰から射るには、荷車をもう少し引き寄せる必要がある。
「待っている間に、囲まれる」
シルヴィアが斜面を見た。
「私が見える所まで前へ出ます。荷車は、合図があるまで動かさないでください」
剣を抜かずに、ダリオと二人で松へ近づく。
藪が揺れた。
ダリオの盾が鳴る。
矢が一本、その面へ刺さっていた。
「右、盾を上げろ!」
荷車の脇の二枚が持ち上がる。
レオンはその間を結ぼうとした。
一本目の光は、途切れた。
片方が前へ出すぎていた。
矢が幌を裂く。
「戻れ、半歩!」
グスタフが隣の盾を腕で押し戻した。
木と木が重なり、次の矢を受ける。
手首の紋が、ようやく同じ強さで光った。
レオンの胸が重くなる。
門の前なら動かさずに済んだ線を、車輪の左右に作り直している。
「止まったままでは狙われる。ニコ、倒木の端は」
「左は細い。切れば荷車が通る!」
「マルコ。左へ寄せる。盾の外へ出さないでくれ」
馬が矢の音に足を踏む。
マルコは手綱を短く持ち、声をかけ続けた。
シルヴィアが斜面の手前へ駆ける。
藪から飛び出した男の剣を払い、肩で押し返す。奥の弓手を追わず、道へ戻った。
「伐る者を守ります。斧を!」
グスタフが倒木へ走ろうとした。
「盾は置くな」
ダリオが止める。
斧を持った別の団員が、盾の背後から前へ出た。
刃が枝へ食い込む。
一撃。二撃。
枝が落ちるたび、ニコが脇へ引きずった。
斜面の下から、火のついた布を持つ男が駆け出す。
グスタフはその顔を見た。
目が合った相手が、怯んだ。
追えば、殴れる。
大男の足が前へ出た。
「荷から離れるな!」
ダリオの声が飛ぶ。
グスタフは歯を食いしばり、盾を車輪の脇へ戻した。
飛んできた火布が、盾の縁へ当たる。
ニコが砂を蹴りかけ、踏み消した。
煙は出たが、幌へは届いていない。
「開いた!」
斧を持つ団員が叫ぶ。
荷車が枝を踏み、前へ進んだ。
盾持ちも一歩ずつ動く。
光は乱れ、細くなり、それでも次の矢を受ける瞬間にはつながった。
シルヴィアが最後尾へ戻り、追ってくる男の刃を弾く。
道を抜けると、敵の足が止まった。
そのうち一人が、荷車を睨んで何かを捨てる。
短い笛が鳴り、男たちは藪へ入った。
グスタフが斧の柄を握った。
「今なら、追いつける」
マルコの手綱は、まだ震えている。
荷車の幌には穴が二つ。盾にも矢が残っていた。
ダリオが、大男の前に立った。
「追いついた先に、何人いる」
グスタフは藪を見た。
奥は、見えなかった。
守るものが一台の荷車でも、揃って動くのは簡単ではない。訓練とは違う道の難しさを感じる回です。
次回予告:追いかけるか、荷を届けるか。団の目的が問われます。
続きが気になったらブックマークを、面白いと感じたらページ下部の評価で応援していただけるとうれしいです。執筆の励みになります。




