第40話:デジャヴの正体
デジャヴをご存知だろうか。日本語では既視感と字が当てられる。
初めて来た場所なのに、過去に来たことがあると感じたりする錯覚だ。脳の情報処理のバグなどと表現する人もいる。
しかし、そのメカニズムは明確にはなっていない。
「どうしたの?沢渡くん」
アヤノさんの部屋に入った瞬間だった。強烈なデジャヴを感じていた。動きが止まってしまった俺のことを心配してくれてアヤノさんが尋ねた。
「いや……、なんでもない……」
俺がアヤノさんの部屋にお邪魔したのは今回が初めてじゃない。俺たちの交際は受験生ながら、それぞれの両親にも公明正大に付き合ってきたからだ。
思い起こせば、初めてアヤノさんの部屋に入ったときにもデジャヴを感じたことを思い出した。
そして、これまでスルーしてきた「小さな引っかかり」を次々思い出した。
アヤノさんと初めて会ったあの図書室で、俺は自己紹介もしてないのに「ヨータくん」って呼んでいた。俺はリカのせいで悪い意味で目立っていたから、既に俺のことを知っているって考えたんだ。
でも、その後はずっと「沢渡くん」で通してきた。この違和感になぜ今まで気付なかったのか!?
そして、俺自身も彼女を呼ぶときは「如月さん」って呼ぶのに、心の中では常に「アヤノさん」と呼んでいた。多分、相当初めの方からだ。
「アヤノさん……」
「アヤノさん?」
思わず出た俺の言葉にもアヤノさんは笑顔で返してくれた。
「アヤノさんに機械の面白さを教えてくれた人って……」
「あ、そのこと……。多分、信じてもらえないって思って、言ってなかったんだけど……」
そうなのだ。いつかのデートで俺が有頂天になって舞い上がっていたときに、アヤノさんには好きな人がいることが分かった。
そして、それは俺のことではなかった。なぜなら、それはアヤノさんに機械の魅力を伝えた人だと彼女自身から告げられたのだから。
俺は言ってみれば真逆の存在だ。俺はアヤノさんに出会って、機械のことを教えてもらったんだ。
それは、俺とアヤノさんの立場が真逆……いや、ここで俺は気づいてしまった。
なぜ、初めて入ったアヤノさんの部屋のことを俺は知っていたのか。
真逆なのは「立場」じゃない。「順番」だったんだ!
俺がアヤノさんを引っ張り出して、巻き込んで楽しんでいたから、段々と感化されて《《アヤノ》》が機械好きになっていったんだ!
俺には一周目の記憶がある。つまり、前世は存在する。生まれ変わりなのか、タイムリープなのか、はたまたパラレルワールドなのかは知らない。
俺とリカは最期を迎えた後に、また高校生の姿で再開した。
つまり、《《アヤノ》》とはその前……『ゼロ周目』で出会っていたんだ!
俺たちは大学を卒業して、会社に就職した。お互い忙しくてあまり会えなくなってきたことから、結婚して一緒に住むことにしたんだ。
当初は賃貸を借りようとしたら、お義父さんとお義母さんが一緒に住みましょうって提案してくれて……。
「アヤノと俺はこの部屋にずっと住んでた!」
「……」
何も答えなかったけど、確実に瞳の奥の光が輝いたのを見逃さなかった。
「もしかして、リカさんから訊いたんですか?」
「いや……」
少し考えたが、俺は素直に訊くことにした。
「リカに訊いた。『サムシング』について……」
「あーーー、そこまでですかー。……と、いうことは、『生まれ変わり』についても訊いたんですね」
リカに聞いたことを話した。それこそ、全部話した。
「リカさん、『サムシング』まで話してしまいましたかー。もう、本気ですねー」
「そ、そうなの?」
何が起きてるか未だにさっぱり分かってない。
「『生まれ変わり』のときには『サムシング』がいただけるんです」
ここでも「サムシング」……。リカと同じことを言った。あれはリカの方便というか、「私は今生では嘘が上手なのよ」って意味とも取れると思ってた。
「『生まれ変わり』……。やっぱり、アヤノさんも……?」
「はい、私には前世の記憶があります〜」
話はとんでもなくややこしくなった瞬間だった。しかも、続きのセリフは更なるものだった。
「リカさんとヨータくんを取り合うのは今回が初めてじゃありません」
「え……?」
思わずアヤノさんの顔を見てしまった。
「私たちは『生まれ変わり』を繰り返してます」
「は……?」
いや、理解が追いつかない。それだけではなく、さらに俺を振り切るようなことも出てくる。
「だいたい10回に9回くらいは負けてしまうんです。リカさんはかなり強いです」
「えーーー!」
いやいやいやいや、俺は何回生まれ変わってるんだ!?
「三人で一緒に暮らすパターンとか、私のお姉ちゃんと仲良くなるパターンとか……。私と結ばれるパターンは希少で……」
それなんてエロゲ!?
「私の『サムシング』は『可能性』。可能性ってのはあくまで可能性であって、100パーセントではないの……」
「それでも、俺には……可能性をくれた。新しい自分の可能性を……」
アヤノさんは微笑んで頭を軽く少し振った。
「私はヨータくんからもらったものを返しただけ……」
ゼロ周目の俺は機械が好きで、アヤノさんにもそれが影響して、二週目の俺にはアヤノさんが俺にその楽しさを教えてくれたってこと……?
「なんだか俺は思い出して無いことばかりで、なんか申し訳ないなぁ……」
「本来はみんな今の人生の記憶しかないもんですよ」
そうだ。文系の俺が三年になって突如理系に進めたのは、もしかしたらゼロ周目の記憶が役に立ったのかも。そういえば、数学も物理も食わず嫌いでやってみたらするする知識が入ってきた。
「覚えた」のではなく、「思い出した」のだとしたら、それも不可能じゃない……「可能性」があったのかもしれない。
「もっと色々思い出すかもしれないし、思い出さないかもしれない……。でも、今、アヤノのことを好きなのは、俺にとって本当の気持ちだから、これからもよろしく」
俺はアヤノに手を出した。
「私の記憶では、ヨータくんはいつも良い彼氏で、良い旦那様でしたよ」
俺はそれを聞いて、過去の自分を超えてやると密かに決意したのだった。




