第37話:うれしはずかしご挨拶とデジャヴ
週末、アヤノさんのお招きで如月家に訪問することになった。
初めて彼女の家に行くという、「うれしはずかしイベント」のはずなのだけど、どうにも晴れ晴れした気持ちでは行けない理由があった。
それはリカのことだ。
クラス内でのトラブルも収束しつつあるのだけど、リカの異常行動が止まらない。
一日中スマホにメッセージが届いている。
「おはよ」に始まり「おやすみ」に終わる。お前はライオンさんか。
それだけならまだ許容範囲内なのだけど、「迎えに行くね」とか「ご飯作りに行くね」とか、果ては「会いたい」とか「寂しい」とか、俺の心を揺さぶるようなメッセージも少なくない。数えてみたら一日に百通くらい来てる。
マンガとかドラマとかではストーカーの行動としてよく見かける内容だけど、実際にメッセージが届き続けると、その数に比例して恐怖心が積み上がって行く。
家にいるとき、通学中、授業中、放課後、食事どき……。これだけ送るってことは、一日中スマホの前に張り付いているんじゃないかと思う。
そんなストーカー化しつつあるリカという不安要素がありつつも、俺はできるだけ気にしないように緊張しつつも元気よく如月家に向かった。
「どひゃーーー!」
そこは結構な豪邸だった。少し西洋を思わせる上品なデザインで門構えも鉄の柵で見上げるような高さがあった。
いつか風水の本か何かで「門だけ大きな家は繁栄しない」という記述を見た気がするけど、この家は建物も門に負けないだけの立派なものだった。
服装よし、手土産よし(※角酒はやめた)、髪型よし、歯磨きよし、俺はチャイムを押す前に身だしなみ等を確認した。
(ピンポーン)
『はーい、いらっしゃーい』
待っていたのだろう。インターホンからはアヤノさんの声が聞こえてきた。
(ガチャ)「いらっしゃ……、制服!?なんで!?」
「えっと、正装かなって……」
そう、俺は制服で来た。
「と、とにかく中にどうぞ」
「ありがとう」
どんな家族だ!? どんな父親だ!?第一印象で失敗するわけにはいかない!
「あ、これどうぞ」
「えー、ありがとう。気を使わなくて良かったのにぃ」
俺は手土産をアヤノさんに手渡した。
「今、みんなリビングにいてね……」
さあ、勝負だ!
「うっ……」
リビングにいたのは、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、妹ちゃん……と思う。
人数に圧倒されてしまった。
「「「いらっしゃーい!」」」
なんか邪気が全く無い笑顔に拍子抜けした。
「ささ、ヨータくん。私の向かいに座ってお約束のアレを言ってくれ」
お父さんにテーブル向かいに座らされた。お母さんとお姉さんたちはテーブルの周囲で何かを期待しながら立って見守っている。
アヤノさんは俺の隣の席に座った。
なんだろう……「お約束」って……。
「ささ、『娘さんをください』って言ってくれ」
その清々しい笑顔が怖い。
「いや、お父様。それはまだ早いのでは……!?」
「おお!お父様と呼んでくれるのか!」
「あ、いえ。そういう意味ではなくて……」
リアルラブコメがそこにあった。
しかし、言い換えると絵に描いたような幸せ家族がいた。
眼鏡で七三分けのお父さん。笑顔が爽やかだ。クセはあるけど毒はない。見るからに良い人だ。
お母さんは控えめで、お父さんを立ててる感じ。家の中がきちんと清掃されていることから家事上手なのだろう。良い人だ。
お姉さんは肩までの髪でちょっとかっこいい感じ。この人がいつかのときにアヤノさんの前髪を切り、お嬢様コーデを伝授した人だろう。すごく良い人だ。グッジョブの称号を送りたい。
妹ちゃんは中学生くらいか。少しメガネをかけないアヤノさんに似てるしあどけなくてかわいい。あんな子にお兄さん、お兄さんと慕われる未来を想像したら悪い気はしない。
「もうっ!お父さん!沢渡くんを困らせないで!」
「いやー、すまんすまん。いつかは『娘さんをください!』をリアルで見たくて……。当然、『貴様のようなやつにはやれん』って答えるんだ」
笑顔で全否定。サイコパスかな?
「もちろん、本気じゃないさ。娘がどんな相手を連れてくるのか、僕たち夫婦にとっても通信簿みたいなもんだからねぇ」
ご夫婦で目を見合って笑っている。どうやら、冗談だったらしい……。
「それにしても、高校の制服とはねぇ」
「あ、俺たちにとっての正装かと思って……。結婚式とか葬式にもこれでしょうし……」
「きみは面白い子だねぇ。アヤノ、お前は面白い子をゲットしたね! でかしたぞ!」
「じゃあ、お祝いのお酒出しましょう!お父さん!」
ご夫婦ノリノリだ。良い夫婦だな。
「ヨータくん、きみも飲むか!?」
「あ、いえ。俺はまだ未成年なので……」
色々ベタな夫婦だった。
あんな幸せ家族を見ても何かあるのではないかと穿った見方をしてしまう。最近色々あったから一種のトラウマになっているのではないだろうか。
「じゃあ、私たち部屋に行くから!」
そう言って俺はアヤノさんに背中を押されて2階の彼女の部屋に案内された。
「なんかね、お父さんが後で庭でバーベキューするんだって張り切ってた」
アヤノさんは階段を上がりながら振り返って嬉しそうに言った。
「そ、そうなんだ……。お父さん『ほりにし』好きだもんね」
「あはは、そうだね。あれ?沢渡くん、よく知ってるね」
「あれ?本当だ……」
ちなみに「ほりにし」とはアウトドア用の万能スパイスだ。何にかけても美味しく食べられる。
おじさんはアウトドアが趣味で、連休ともなれば一人でどこにでも……。なぜ、俺はこんなことを知ってる!?
「じゃやーーーん!ようこそ、わがお部屋へ!」
アヤノさんが部屋を見せてくれた。
一人用の部屋にしては広い。本棚、勉強机、ローテーブル……。普通の部屋なんだけど、家具の配置などに違和感を覚えた。
あれ?なんだこれ。この気持ち……そう、これは「デジャヴ」か。




