第36話:人生をかけた謝罪と人生をかけた敬意
「みんな、色々騒がせて本当に申し訳ない!」
俺は朝のホームルーム前、ある程度のクラスメイトが登校してきているのを確認して教卓に上がりみんなに向けて謝罪した。
当然、教室内はざわざわした。
「リカ」
俺の声にリカが静々と教卓に上がり、俺の横に控えた。
リカは何も話さない。俺の指示だ。
「色々と思いが暴走して《《俺たちふたりざ》》迷惑かけた。ごめん。でも、昨日、話し合ってもう落ち着いたから。二度とこんな迷惑はかけないから許してほしい。受験前の大変なときにみんなを騒がせて申し訳ない」
俺の全力の謝罪だった。多分、十七歳の高校生だったらこんな深刻な謝罪はしないだろう。前世の七十七歳の知識も経験も全部ぶっこんでの謝罪だった。
リカに謝らせるのではなく、被害者としてみんなに報告兼謝罪を俺がすることで「既に問題は解決している」と「俺たちの問題にみんなを巻き込んだ」と みんなの怒りを当事者ではなくしたのだ。
怒りたいのは俺の方、でも俺はリカを許したのだから、みんなはもう何も言うなという、ちょっとズルい謝り方だ。
ズルはこれだけじゃない。
「市東さん!」
「え? あ、は、はい!?」
ギャル市東さんを名指しした。あっけに取られて思わず返事をしてくれた。ここは無視されると思ってたから僥倖だ。
「委員長、あと山田」
「……」
委員長駒込さんは、言葉は発しないけどこちらに視線を向けてくれた。山田も一瞬彼女である駒込さんを見てから俺の方に視線を向けた。
「特にリカのために怒ってくれてありがとう」
俺が頭を下げると、横にいたリカもそれに気づいて少し遅れて頭を下げた。
「いや、あーしは別に……」
歯切れが悪いけど、ギャル市東さんのこれは「許す」ってことだろう。
「私も教室内で問題がなければ……」
委員長駒込さんもいいってことだ。横の山田は無言でうんうんと頷いている。
「リカ」
ここでは終われない。ちゃんと最後にリカにも謝罪を口にさせないと、今後教室内でリカがハブられる。
一回ちゃんと謝罪して、受け入れられていれば、すぐではなくても徐々に元に戻っていくもんだ。高校生なのだから、今はここまででいい。
これが社会に出てからだったら、完全に絶縁だった。なんらかの訴訟問題に発展した可能性だってある。
「ごめんなさい」
何に対してかとか、ここではもうどうでもいい。細かく言えば言うほどみんなの怒りがぶり返してくる。
今は「謝罪の意志がある」ってことだけ伝わればいいんだ。
「「「……」」」
みんな思うところがあるみたいで反応は芳しくない。幼稚園じゃないからこんなもんだ。それでいい。
あとは時間が解決してくれる。
それよりも、この場の締め方のほうが難しいのだ。
「本当にすまん!俺がモテすぎるから!」
パンと両手を合わせ、茶目っ気たっぷりで言った。
「言ってろ」とか「ふふっ」とか反応は色々だったけど、止まっていた教室内の空気は動き出した。
「おはよー、どした?みんな。席につけー」
狙ったかのようにワンテンポ遅れて担任が教室に入ってきた。後で思ったけど、担任は陰で話を聞いてて良いタイミングで入ってきたんじゃないだろうか。
✳
俺は昼休みにアヤノさんと図書室で合流した。
リカの勝手な振る舞いと今朝からの異常行動について、事前にアヤノさんに伝えておくことにした。
朝起こしに来たり、弁当を作ってきたり、その行動の根底が分からないという話をした。
「ごめん、付き合い始めたばかりなのに、こんなトラブルを抱えてて……」
「ううん、仲のいい異性の幼馴染さんがいるって知ってからは覚悟してたし……」
そうなんだよな。幼馴染って性別は関係ないんだよな。しかも、家も隣だし家族ぐるみの付き合いの幼馴染だし……。
(パン)
「ちょっと暗い話題ばっかりだし、ここで話を少し変えましょう」
リカのためとはいえ、みんなの前で誤ったり、異常行動のリカのこともあって、気が重い俺の気持ちをアヤノさんの柏手が全て払ってくれた。
「沢渡くん、成績も悪くなかったよね?」
なんだろう、藪からスティックに。
「そうだね、一応合格判定は城東大で『B』が出てる」
「すごいよね。沢渡くん文系クラスですよね。よく三年生で理系に方向転換してそこまで来るなんて……」
そうなんだ。一度やるって決めたら数学も物理もするする頭に入ったんだ。そんな都合のいい話があるのかって思ったけど、むしろ簡単って思うほどにサクサク勉強が捗ってる。
「それで、付き合い始めた話を両親にしたら、今度うちに連れておいでって話になりまして……」
少し照れくさそうに話すアヤノさん。その桜色に染まった頬も、笑顔もかわいい。
「まぁ、いいけど……。菓子折りと角酒とか持って行ったほうがいいかな?」
「角酒って何? お菓子とかいいよ。沢渡くんって気使いですよね」
しまった。また前世の経験が……。しかも暴走気味で……。俺は十七歳、俺は十七歳。
こんなときは最初が肝心だ。彼女の家に挨拶に行くのだから、将来的に長い付き合いになる方々かもしれない。
第一印象は悪いより良いほうが絶対にいい。
そしたら、仮折とついでに角酒が出てきてしまった。ちなみに、角酒は結婚の挨拶とか結納とかに持っていくお酒のことだ。
アヤノさんも俺の成績を確認して将来性も確認した上で家に招くって打算的でとても良い。
惚れた腫れただけで考えないのが将来的にも安心して付き合えそうだと変に現実的な俺だった。
そして、気づけばいつの間にか週末にアヤノさんのご両親に対面することになってしまっていた。




