第30話:歴史の強制力(?)と、俺の進むべき道
現在俺は、自宅の自室で頭を抱えてベッドの上に転がっていた。
この週末、アヤノさんとホームセンターデートを楽しんだ帰りのカフェで飛び出した「好きな人」というワードが、いまだに脳内でリフレインしている。
……一体、どういうことだ?
アヤノさんには、昔好きな人がいた。
しかも、「それは実は俺でした」みたいな安いラブコメ展開じゃない。アヤノさんに機械とかの良さとか面白さを教えた人ってのが存在する。
俺は逆にアヤノさんに色々教えてもらった方なので、真逆の存在となる。
人生二周目の俺としては、過去にアヤノさんに好きな人がいたとしても、そんなに大きなショックを受けたりはしない。受けたりはしないぞ。ただ、今の俺は十七歳だから、それなりにショックかもな。
たとえ肉体関係があったとしても……、いや、俺たちはまだ十七歳。過去だとしたら、そんな深い付き合いってのはないだろう。
それは分かった。分かったんだけど、肝心の会話のニュアンスがどうしても思い出せないんだ。
「好きな人が《《いる》》」
「好きな人が《《いた》》」
あれは現在形だったっけ……それとも過去形だったっけ!?
どっちだ!?
それによって、大きく違うんだよ!
マンガやアニメなら、こういうときこそ前の回をサクッと見直したいところだが、生憎と俺の人生には巻き戻しボタンなんてついていない。
最近、アヤノさんと仲良くなったような気がしていたんだけど、それはその男がいるのである程度男慣れしていて、俺くらいなら気軽に話せていただけか!?
いや、一緒に太宰府に行ったりしたし、あれもデートだったと思う。いや、でも機会を見て、天満宮にお参りしただけだ。そんな無骨なデートがこの世に存在するだろうか……。
「ああああーーーっ!」
俺は枕に顔をうずめ、ガシガシと自分の頭を掻きむしった。
「なんだよこれ。相手の一言で一喜一憂して、青春過ぎないかーーーーー!?」
俺はいくつなんだよ!? いや、十七歳だけどさ。一度は八十歳近くまで行ったんだよ!? でも、中身は中学生とか高校生のときとそんなに違いなかった気がするし!
身体は劣化していくんだよ。動き回るのにだるくなったり。階段上がるときだけ膝がいたくなったり……。
そんなことは、今はどうでもいい!
そもそも、俺のこのタイムリープは、一周目の記憶と比べて何もかもが違いすぎやしないか。
普通、こういうタイムリープものは「変更は最小限にして、過去に変えるべきではない項目にだけ対応する」というのがセオリーのはずだ。それなのに、俺ときたらどうだ。
タイムリープを認識した直後くらいにはリカに振られるわ、一周目では出会うこともなかったアヤノさんと出会ってしまうわで、完全にルートが別ゲーと化している。
こっちが変えようとしてないのに、向こうから変わりにきてやがる。
そして、ここに来てまた変化が……。これってもしや、世に言う「歴史の強制力」ってやつが働いているのだろうか? 一周目と同じ様になりつつあるのか!?
それとも、俺はおとなしく一周目通りにリカと付き合っているべきだったのだろうか……?
ふと、そんな弱気な考えが頭をよぎる。
もし仮に、アヤノさんとうまくいかなくなったり、あんな「好きな人」の影に挫けたりしたら、俺はまたリカの方に戻ってしまうのだろうか?
「いや、それはないな」
ベッドの上でがばりと上半身だけ起き上がっって口に出していた。
自分で口に出して、即座に首を横に振った。
正直に言って、リカはかわいいし、見方によっては素直だ。それに、一周目では最期まで連れ添った仲だ。
愛だけじゃなくて、積み上げてきた情の部分だって確かにある。そんな彼女から今も言い寄られるのは、男として悪い気がしないのも事実だ。
だけど、もうリカに対する恋愛としての気持ちが綺麗になくなっているのも、紛れもない本心だった。俺に女きょうだいはいないけれど、姉とか妹とかがいたら「好き」とは思っているだろうけど、「付き合いたい」とは思わないだろう。多分、そんな感じ。
じゃあ、俺の本当の気持ちはどこにある?
……分からない。だけど、だからこそモヤモヤする。一度ニュートラルに戻す必要があるのではないだろうか。
なりふり構わず求愛してくるリカ、嘘をつくにしても限度がある。完全に一線を超えている。
そして、アヤノさんにある「好きな人」の影。俺の好意はアヤノさんに受け入れてもらえるかどうかも分からないのだ。
やはりそうだ。ここは清算する必要があると痛感したのだった。




