第14話:擦れ違う距離感と拒絶
ある日の朝、玄関のドアを閉めて門扉へ向かうと、その陰からひょっこりとリカが姿を現した。 「たまたま同じタイミングになった」という顔をしているが、俺のセンサーは、彼女がここでずっと隠れて待っていたのだと伝えていた。
「おはよ、ヨータ」
少し神妙な面持ちで恐る恐る挨拶をするリカ。
「あぁ、おはよ」
俺は正直、どんな顔をして接していいのか分からない。
まあ、「勝手にうちに来るな」と言ったのは一応守っているようだし、俺も挨拶すら無視するほど鬼畜にはなりきれない。
「がっこいこ♪」
そう言って、リカはいつものにっこにこした笑顔になって、俺の横に並んで歩き出した。 家が隣同士で学校も同じなのだから、朝に一緒になったからといって「一緒に歩くな」と追い払うのも変だ……と俺は諦めて足を動かす。
「あのね、私、考えたの」
「ん?」
「木村くんの件、ごめんね」
お? ついに自分の身勝手さに気づいてくれたのだろうか。リカはかわいいだけじゃなくて、頭も悪くない。ようやく理解してくれたのだと思ったのだけど、そう思ったのも束の間――
「ヤキモチ妬いてほしかったっていうか、久々に告白とかされて舞い上がっちゃったっていうか……」
「もう、いいよ。気にしてない」
感情のこもらない声で返す俺を制するように、リカはくるりと俺の前に回り込んだ。そして大げさに両手を合わせ、片目をウインクしながら少し笑みを含んだ顔を作った。
「ごめんなさい! 私が悪かったの! ごめんなさい!」
「だから、もう良いって……」
ため息まじりに告げると、リカは俺の腕に自分の腕をぎゅっと絡めてきた。
「ごめんってー。だからさ、私たち付き合おう♪ 前は大学からだったけど、ヨータが言うみたいに前は前だし、今は今」
「……」
耳を疑った。このタイミングで……!?
「ほら、キスとかそういうこともしたいと思うんだ」
甘えるような声で言われた言葉。 一回目の人生の俺なら、舞い上がって受け入れていたのかもしれない。だが、今の俺の胸に去来するのは、ただただ冷ややかな違和感だけだった。
そもそも俺たちは八十年弱一緒にいたんだ。子どもだって二人いた。肉欲としてのそういった行為は俺にとって魅力にはならない。
「……やめてくれ」
俺が短く拒絶すると、リカは拍子抜けしたように目を丸くした。
「え……」
「やっぱり、近づかないでくれ。前とは違うんだ。リカとの距離感には俺もまだはかりかねてるっていうか……戸惑ってる。だから、しばらくはそっとしておいてくれ」
「え……何言って……。私とヨータだよ……? 幼馴染だよ? 将来結婚するんだよ?」
一回目の人生の記憶を盾にして、まるで確定した未来であるかのように言い切るリカ。その過信に対して、俺ははっきりと拒絶の言葉を突きつけた。
「だから、結婚とかしない。俺、先に行くな」
絡められた腕を振り払うと、俺はそのまま足早に走り出した。
「あ、ちょっと! ヨータ!?」
背後からリカの焦ったような声が聞こえたが、俺は一度も振り返ることなく、学校への道をただまっすぐに駆け抜けていった。




