第11話:選択的ボッチと、目指すべき場所
月曜日の昼休み。トイレに行った俺は自分の席に戻った。
すると、机の上にドカッと置かれた見覚えのある巾着袋があり、思わず大きなため息をついた。
独特の派手な花柄の巾着、そして男子高校生向けにしては無駄にデカい二段重ねのお弁当箱。周りのやつらが見ても、誰が作ったのか一目瞭然だった。
俺はその弁当箱を手に取ると、一歩も口をつけることなく、教室の後ろで友達と話していたリカの席へと向かった。
「悪いな、これは食べられない」
机の上にポンと弁当を置くと、リカは露骨に不満そうな顔を作って噛みついてきた。
「なんでよ! ちゃんと作ったし!」
「こういうのは彼氏に作ってやれ」
「幼馴染なんだから良いじゃない!」
どこまでも自分の都合で押し通そうとするリカに、俺は呆れて返す言葉もなかった。ふと視線を横にやると、隣の席にいた木村と目が合った。木村はバツが悪そうに苦笑いを浮かべている。
俺は木村に対して、無言で「すまん」と軽く頭を下げた。すると木村も悟ったような表情で、無言でぺこりと頭を下げ返してきた。男同士の、言葉のないやり取り。
「もう! なんなのよ! 男同士で! 目と目で通じ合って!」
金魚のフンみたいにキーキー騒ぐリカの声を背中に受けながら、俺は一切振り返らずに自分の席へと戻った。
◇
放課後。卒アル委員の打ち合わせのため、図書室に向かうことにした。今日は少し早いのでアヤノさんのいる2組の教室へ寄ってみることにした。
ガラガラとドアを開けて教室の中を覗き込む。賑やかにグループで談笑するクラスメイトたちから離れた窓際の席で、アヤノさんはポツンと一人、文庫本に目を落としていた。クラスでは大人しい子で通っているらしいが、こうして見ると友達がいないように思えた。
俺は手を振って、声は出ない口パクで「如月さん」と声をかけた。俺に気づくとそそくさと廊下に出てきてくれた。彼女は少しうつむいていて、照れているようにも見えた。
「なに?」
「いや、ちょっと早く授業が終わったから、如月さんいるかなぁって覗いてみた」
「……ちょっと待ってて。荷物もって来る」
「ん」
俺たちは一緒に図書室に向かった。
道中、俺は思わず前々から気になっていたことを口にしていた。
「あの……ちょっと聞きにくいんだけど、如月さんってクラスでは友達いない系……?」
ストレートすぎる問いかけに、アヤノさんは眼鏡をクイッと指で押し上げると、開き直ったような顔で言った。
「文学少女は暗いものだと昔から決まっていて、陰キャボッチですが、なにか?」
「ぼっちって……俺がいるでしょ」
「沢渡くん?」
アヤノさんが少し首を傾げて不思議そうに返した。
「そ、少なくとも俺が友達だから!」
恥ずかしさを隠しながらそう告げると、アヤノさんは少し呆れたようにフンと鼻を鳴らした。
「私はハブられててぼっちじゃなくて、自ら好んでぼっちなんです!」
「そっか、選択的ぼっちだったか。それは悪い」
「ぷっ……選択的ぼっちって……」
緊張の糸が切れたように、アヤノさんが思わず吹き出した。
「あ、ウケた」
「もう、変な造語作らないでください。……でも、ありがとうございます。行きましょうか、お友達」
「おう、お友達」
少し照れくさそうに微笑むアヤノさんと並んで、俺たちはいつもの図書準備室へと向かった。
◇
準備室でアルバムの写真選定作業を進めながら、俺は昨日のお参りのことを思い出していた。
「そういえば、如月さんって志望校どこを目指してるの?」
俺が尋ねると、アヤノさんは作業する手を止めて、少しだけ誇らしげに答えてくれた。
「私は『城東大学』を目指してます。ちょっと高望みなんですけど……」
「城東大学……!」
城東大学といえば、この市内で一番偏差値が高い超難関の私立大学だ。
一回目の人生を思い出す。あの頃の俺が行ったのは「城南大学」だった。大して勉強しなくても入れるFランクに近い大学で、リカの成績に合わせて選んだ場所だった。リカでも入れる学部ということで選んだのが経済学部。自分の将来なんて何一つ考えていなかった、愚かな選択だった。
(でも、今の俺は違う。俺が行きたいのは工学部だ)
「城東大学にも、工学部ってあるのかな」
「もちろん、ありますよ! 城東大学の工学部は、特に精密機械や自動化制御の研究で有名なんです。ロボコンにだって毎年参加していて……」
アヤノさんの言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
「そっか……よし、調べてみよう」
俺はスマホを取り出し、図書室にある大学案内パンフレットの棚へと向かった。 誰かに合わされた消化試合の人生じゃない。自分の「好き」を突き詰めるための、本当の受験勉強。
目標が見えた俺の心には、かつてないほど強い情熱が燃え上がっていた。




