理性と本能
岩場にて二人でポトフを食べ始めた二人だったが、近くまで来ているはずのクレアがいつまで経っても来る気配が無かった。
それどころかこっちに向かっていたハズのアッシュ達パーティーはおろか、クロ達三匹の姿すら見えなくなっていた。
「アリーナ? アリーナは将来は……どうやって生きていきたい?」
ヴィルはただ漠然と彼女に将来の夢みたいな感じで尋ねてみた。もしかしたら、自分の将来の道標のヒントが得られるかもしれないという気持ちからだが……
「わ、私は……困っている人達の力になれれば良いと……思ってます」
少し考える様子を見せたアリーナだが、答えはすんなり淀み無く口から出てきた。
「それだと……世界を旅して周るみたいな生活になるんだろうな。世界を旅して人々を救う聖女様か……。何かの伝記にでもなりそうだな」
ヴィルは思った事をそのまま口にするが……
「でも、魔王倒したって言っても一人旅は危なくないか?」
彼の頭の中にはアリーナの語る将来の自分にヴィルが入っているとは考えていなかった。
それは今後数年の話では無く、それこそ将来の夢の話そのものだったからだ。
「あの……ヴィルさんには何かあるんですか? 将来やりたい事みたいな……」
今度はアリーナが同じ質問を返してきた。将来の事を考える為に彼女に質問したくらいなのだから
「わからないんだ。魔王倒す目的果たしちまったから……何をしたら良いのか……」
ノープランである。魔王を倒して姫と結ばれ王国を治めるみたいなハッピーエンドルートに乗っかっている訳では無い以上は、自分で人生を切り開いていかなければならない。
厳密に言えば王女様ENDの芽が無いわけでは無く、ヴィルがハイと言ったらすんなり決定するのは想像に難くない。
「冒険者として……暮らしていくしか思いつかないな。他の仕事はできる気がしないし……」
「それでしたら……ヴィルさんのお仕事に……しばらくご一緒しても良いですか?」
ヴィルの答えにアリーナが食い気味に食いついてきた。
「それだと今までと何も変わらないけどな」
「そうですね。これからも……今まで通りです!」
ヴィルにそう相槌するアリーナはここ数日の不機嫌さが嘘の様な明るい笑顔を見せていた。
そんな和やかな雰囲気のまま、食事の時間はただ流れていき……いつしか就寝の時間になっていた。
「ワンッ!」
「キィッ!」
「クェ~……」
いつの間にか近くに来ていたクロ達三匹からトイレタイムの催促が来た。
「トイレが終わったらきちんとテント入るんだぞ。夜は冷えるからな」
こちらもいつの間にか二人の近くに戻ってきていたクレアである。彼女達が空気を読んでヴィルとアリーナを二人きりにしていた線は無い。
なぜならクレアはアリーナに対し過保護な位にはヴィルに警戒心を抱いているからだ。
下半身に節操のない鬼畜程度の認識しかないヴィルにわざわざ気を使う道理など無いのだ。
「なら俺も一緒に行こう」
先日の帝国によるアリーナの誘拐騒ぎもある為、周りが王国軍だらけという環境でもヴィルはアリーナを一人きりにするつもりは無かった。
いつも通り離れの茂みで用を済ませたヴィル達+クロ達三匹は今夜の寝床となる天幕目指し、王国軍陣地の中を歩いていた。
「ここだな……」
ヴィル達が着いたのは王国軍が用意した二棟の天幕の前だった。
「それじゃヴィルさん、皆さんもおやすみなさい」
そう言って女性用の天幕に入ろうとするアリーナに
「ちょ……ちょっと待ってくれ」
ヴィルが静止の声を上げた。天幕が男女別なのは今に始まった事では無い。
周りが王国軍で犇めいているのも普通に考えたら安全の担保であり説得力でしか無い訳だが……
「アリーナ、一緒に寝てくれ」
言い方。ヴィルは下心丸出しで口走った訳では無い。アリーナを一人きり、さらに言うなら自分が目を離した際に度々彼女は何者かの襲撃を受けていた。
クレアが頼りにならない訳では無いが、自分が呑気に寝ている間にアリーナが襲われる可能性は極力無くしたかったのだ。
「な、な、何を言い出すんですか! こんな時に! 不潔ですよ不潔!」
当然の事ながらアリーナは顔を真っ赤にして否定している。あまりに言葉足らずだったヴィルは
「あ、いや、寝るってのはそういう意味じゃ無くてな……」
しどろもどろになりながら真意を説明するヴィルだが残念ながら彼は前科持ちであり余罪も十分にあると嫌疑を掛けられている身分である。いくらアリーナが心配だから用心の為だと弁解しようとも、
「……本当ですか?」
冷ややかなジト目で疑いを向けられるのも仕方の無い話であった。
しかし、ヴィルと離れていた時に襲われたという経験がある事は他ならぬ彼女自身がよく解っている。
「女神様に誓って何もしないと宣言出来ますか?」
ヴィルを無視して天幕に入らない辺りアリーナにも不安が少なからずあるのかもしれない。
彼に右手を挙げさせ聖典に誓わせる様にヴィルに清廉潔白である事を宣誓させる。
「わ、分かりました。でも、本当に何もしないで下さいね? 絶対ですからね?」
振りでは無いがアリーナは顔を赤くしながらヴィルに念押しする。
「ああ、約束する。俺は入り口を固めるからさ」
そしてヴィルは彼女の後からクロ達三匹と共に天幕へと入って行くのだった。




