陣地
戦場に先に着いたのは王国軍であった。彼等は王都への街道を塞ぐ形で戦力を集中させる布陣をしていた。
これは単純に帝国に対する策略がある訳では無く、前線を広げて各個撃破されない為の防御策でしか無かった。
もし街道を帝国に抑えられてしまったら寡兵に過ぎない王国軍は退路すら失ってしまうからだ。
そんな王国軍陣地の最前列にヴィル達勇者パーティーの姿があった。王国軍の兵士達がそれぞれ剣や槍での戦闘準備を進める中、ヴィルは帝国軍がやってくるであろう東の平原を注視していた。
(これだけ広ければ……魔法剣使うのに味方への巻き込みは気にしなくて大丈夫そうだな)
ヴィルはあくまで冒険者として個人技としての勇者でしかなく、軍隊同士の激突の際には味方にとってもノイズとなってしまいかねない。
異世界では即時やり取り可能な無線機はおろか、王国軍の連絡網である伝令すら割り振られていない。
(いくら、ユーマの奴のスキルがあるとは言っても、帝国軍が魔物達と高度な連携とかはまずしてこないだろうしな)
とは言うものの、多数の魔物達を相手取る以上、これまでとは違った戦い方が求められるのは明白だ。
おまけに強大な魔法でヴィルを援護してくれるミリジアも、的確な狙撃でフォローしてくれるエルフィルも居ないのだ。
(そうなると……)
ヴィルは視線を平原の向こうから少し離れた場所でクロ達三匹と戯れているアリーナに視線を移す。
魔物の規模は分からないが、連携の取れている仲間達が不在な今の状況で彼女を最前列に連れ出して守り切れる自信が無かった。
(…………)
帝国から身柄を狙われているアリーナを手の届く所に置いておけば安心は出来るがそれではヴィルの我儘にしかならず、彼女の安全は保証されない。
クレアやクロ達に護衛して貰うにしろ、彼女達のキャパを超えてしまったらそこで終わりである。
それに彼女には王国軍と一緒に居て貰った方がより安全になるし、アリーナの防御魔法や治癒魔法は王国軍の大勢の兵士達にこそ役立てるべきだ。
「もうっ! 遊びに来てるんじゃないんですからね〜!」
「ワンッ!」
「キャッキャッ!」
「クェ〜!」
アリーナがクロ達三匹と遊んでいる光景は平和な日常そのものだった。この戦いを切り抜けたとして、エルフィルやミリジアをユーマから助け出せたとして……自分は平和な生活に戻れたり出来るのだろうか?
もちろん、ユーマとの何らかの決着は着けなければならないだろうが……創作物でよきある様なスローライフなど自分には送れるのか……?
漠然としか考えられないが、そういった未来がまるで想像出来ないでいた。
今のヴィルでは何があっても手が届かない様な……そんな言葉に表せられない不安感の様な何かが拭えずにいたのだった。
「ヴィルさ〜ん! どうしたんですか? 難しい顔をして……」
そんなヴィルの表情が気になったのかアリーナが三匹と共に駆け寄ってきた。
「あ、ああ……。ここで敵を迎え撃つため訳だからどうしたモンかなってな」
ヴィルは自身の不安感については全く顔に出さずに来たるべき戦いについて話し始める。
「敵が遠くから迫ってくるなら竜巻で吹き飛ばすのが一番かなって……」
風属性の魔法剣を扱えるヴィルには近接戦も遠距離戦も対多数戦闘も何でもござれである。
しかし、そんな彼でも女の子の扱いには苦慮している様でアリーナに『やっぱり最前列は無理だから後ろに下がってくれるか?』と、きり出す踏ん切りは中々つけられないでいた。
「ヴィルさん、光の壁張るのは任せて下さいね? 少しの敵の攻撃なら持ち堪えてみせますから!」
やる気になっている彼女の気を削いでしまう様で申し訳無さが勝ってしまっていた。
そうこうしている内に辺りは日が落ち、平原は賑やかな野営地の様相を呈してきていた。
もし今、目の前に帝国軍が到着していたら、こんな風に温かい食事を用意する事など出来なかっただろう。
しかし、軍がまだ到着して居ないとは言え相手には夜行性のゴブリン含む魔物達を従えている。
魔物達の習性を熟知しているヴィルは相変わらず最前列で地平線と夜空の区別が付かない平原の向こうに注意を払っていた。
「ヴィルさん、お食事貰ってきましたよ? 少し休まれては……?」
アリーナが湯気の沸き立つ木の腕を両手にヴィルの元にやってきた。
「ワン!」
「キキィッ!」
「クエェ〜!」
側にはクロ達三匹と、更に後ろからはクレアと……アッシュ達パーティーの姿も遠目に見える。
「ああ、すまない。敵が来るの分かってると落ち着かなくてな」
アリーナからお椀を受け取りながらヴィルほ彼女の問いに返事をする。
思えば勇者パーティーにて野営での交代での見張りはやっていたものの、かなりの時間はエルフィルが肩代わりをしてくれていた。
それは決して彼女に押し付けていた訳では無く、エルフィル本人から『安心して寝れないから』との申し出があってお言葉に甘えていた経緯だ。
そんな彼女の有り難みが居なくなってボディブローの様に効いてきているのが実感出来た。
陣地から少し離れたここには明かりは無く陣地から照らされる日の明かりだけが頼りだ。
「こちらで座って頂きませんか?」
アリーナが指し示す先には腰を掛けるにちょうど良さそうな岩が鎮座している。
ヴィルは彼女からの提案に従い、二人で小さな岩場に移動するのだった。




