迎撃軍
「それでは我軍は帝国軍を迎え撃つため、出立する! 勇者ヴィルヴェルヴィントよ。お主にも同行して貰う。フィオレット、お前にも済まないが同行をして貰う」
ヴィル達がそれぞれの修羅場にアップアップしていた間に国王達は対帝国に対する作戦プランを組み立ててしまったらしい。
ヴィルは前述通り対魔物専用のキリングマシーンとなって敵を打ち破る役目が与えられた。これは現在の勇者パーティーであるアリーナとクレアとクロ達三匹も勘定に入れられていた。
また、フィオレット王女は最悪の場合の万が一の交渉材料として前線に同行する運びとなった。
王女を前線に連れていくのもどうかと思うが、手隙になる王都に残すのも誘拐を考えればそれはそれで危険だろう。
ヴィル達は知る由も無いが、王国の冒険者ギルドには臨時の傭兵募集が張り出され戦力の補填が試みられていた。
「ヴィルさん、防御と治癒なら任せて下さいね。きちんと務めは果たしてみせますから」
慌ただしく王都を出発したヴィル達は王国軍が用意した荷馬車で、帝国軍との会敵地点として設定された東の平原へと向かっていた。
馬車に揺られながらヴィルに話し掛けてきたのは、つい先日まで不機嫌にしていたアリーナだ。
だが、この数日間に何度も繰り返されたヴィルによる必死の弁解に根負けしてしまったに近い。
実際のところ、今のヴィル自身にとってはミリジアとの情事の有無やその信憑性など身に覚えの無い濡れ衣である。
また、以前のヴィルヴェルヴィントであるならともかく、ここ数ヶ月のヴィルは誠実で品行方正な活動をしてきた。
それらの地道な彼の積み重ねがアリーナのヴィルに対する株の大暴落を食い止めていたのだった。
「ああ……。アリーナ、すまないんだが……」
ヴィルはアリーナの言葉への返答に口籠る様にして話す事を躊躇ってはいる。
口ぶりからアリーナの意見をそのまま了承さするつもりは無いのだろうが、その返事に彼女が反発するのを見越しているのだろう。
「アリーナには……クレアさんと一緒に王女様の護衛を務めて欲しいんだ」
少しの沈黙が流れた後でヴィルが重い口を開いた。彼の言葉にアリーナは
「どうして……ですか? 私が一緒に行くの……嫌ですか?」
これまでの旅では殆どの冒険を共に行動してきた彼女にとって、土壇場での別行動の提案は到底受け入れられるものでは無かった。
「違うんだ。俺だってアリーナが近くに居てくれた方が安心だ。でも……」
ヴィルの言葉にアリーナは『それなら……』と自分の想いを伝えようとしたが、ヴィルはそれを遮り
「今回はメンバーが少ない。俺とクレアさんの二人だけじゃカバーしきれないかもしれない」
これから、ヴィル達が相手をするのは王国内にから集まってきたであろう魔物の大群となる。
勇者パーティーとして普段から遭遇してきた魔物達とは一度に戦う数の規模がまるで違うものとなってきてしまう。
それでもいつものパーティー編成であれば人数と運用次第でアリーナを連れていけるかもしれない。
しかし、今のパーティーメンバーは三人、クロ達も役に立ってくれるだろうが、それでもメンバー数が足りなかった。
「それに、王女様の所ならきっと冒険者の腕の立つやつが護衛として付くだろうし……」
冒険者は基本的に戦士職の層が厚く、魔術師や神官の援護職は絶対数が少ない。
それを勘案して、ヴィルは聖女であるアリーナを王女様の護衛として残し、冒険者の雑多な戦士達の継戦能力を強化したい思惑がある様だ。
もちろん、危険な最前線にアリーナを連れていきたくない本音もあるだろう。ヴィルの話を黙って聞いていたアリーナだったが、膝の上で両手をギュッと握り締め
「わ、私は……私の気持ちは聞いてくれないんですか?」
自らの心情を語り始めた。
「私も……ヴィルさんが心配なんです! もし離れている間に何かあったらって……私はヴィルさんの側に居たい……足手まといにはなりません! 私も一緒に行かせて下さい!」
最初は小さく呟く様な声だったが、想いに呼応したのか、アリーナはいつしか大きな声でヴィルに懇願する様に叫んでいた。
「それに……ほら! 私にはヴィルさんがくれたお守りがありますから!」
そう言ってアリーナが見せてきた指にはドワーフ製のプロテクトリングが嵌められていた。
(…………)
そのプロテクトリングは打撃や射撃等の直接的な危害には反応するが、攫われたり捕まったりの忍び寄りには反応しないのかもしれない。
仮にクレアやクロ達には完全警護を任せたとして……魔物の大群相手に何処まで持ちこたえられるか……。ひとしきり考え込んだヴィルは
「仕方ない……。だが、実際に敵の数を見て無理そうだったら王女様のトコに下がってくれるか?」
敵の数も戦法も分からない以上、実際に見てみるまでは戦いの趨勢は分からない。もしかしたら、魔物の数もアリーナ達を気に掛けながら戦える規模かもしれない。
「はい!」
ヴィルの言葉にアリーナは安堵した様な希望に満ちた明るい返事で返してきた。
しかし、判断の先送りとも言えるヴィルの優柔不断な態度が、自らの判断の甘さを思い知る事になるとはこの時はまだ知る由も無かったのだった。




