死刑宣告
(どうだった……どうだった? 思い出せ俺! 今すぐ思い出せ〜!)
円卓の間の補助席にてヴィルは膝の上に置いた手を見つめながら必死に記憶をほじくり返していた。
流石に今はフィオレット王女の顔も見る事は出来ないしアリーナの顔は言わずもがなである。
なんならアリーナが腕を抓ってきた方がまだ安心出来たハズだ。今はあまりの恐ろしさに涙さえ出てきそうな程の絶望感に支配されていた。
「……ヴィルさん? 私と出会う前にそんな事があったんですか?」
国王や大臣達がフィオレット王女の発言に右往左往している最中、アリーナが恐ろしく落ち着いた声で話し掛けてきた。
フィオレット王女と出会ったのは勇者パーティーが結成されるより前、アリーナもエルフィルもミノさんも……当然トマスも居なかった頃の話だ。
馬車移動中に魔物に襲われていたフィオレット王女と友人のミリジアを助けるという遭遇があったのだ。
しかし、いくら王女様を助けたアドバンテージがあったとして、ドラゴンな冒険譚な勇者みたいに立ち寄った宿屋で『ゆうべは おたのしみでしたね』みたいな婚前交渉はしていない……と思いたい。
(えーと……えーと……)
簡単にその時の事を振り返ってみたが、ヴィル自身の記憶では未遂だった様な……そんな朧げな記憶しか無い。
第一、友人のミリジアが居るのにそんな事をしていたら彼女が黙っていないばかりかその後にちゃんと口も利いてくれなさそうな気がする。
ヴィルが潔白なのは彼女の普段の接し方が普通だった事実に賭けるしか無い。
「あ、アリーナ? これは多分齟齬があってだな……本当だ。多分……うん。多分、王女様は怖い記憶とごっちゃになって……その……」
隣からのアリーナの無言の圧力にヴィルの言葉は小さくなっていく。フィオレット王女に婚約を申し出た数十分前の自分をこれほど呪いたいと思った事は無いだろう。
ヴィルが目を泳がせながら隣のフィオレット王女を見ると……
ーニコッ!ー
天使の様な微笑みで返されてしまった。正妻の余裕とでも言うべきか、もはや婚約は翻せない決定事項とされて当然といった雰囲気だ。
「勇者ヴィルヴェルヴィント、君を想う娘の気持ちは分かった」
(俺の気持ちはまだなんですけとぉ!)
国王は自身の考えを纏めたらしく、ヴィルとフィオレット王女を交互に見ながら語り始めている。
今にも婚約を認めると言い出しそうな雰囲気にヴィルが戦々恐々としていると
「フィオレットと一緒になると言う事はこの国すらも背負い責任を果たしていく覚悟を決める事でもある」
国王の言葉には大臣達国の重鎮達がも皆がウンウンと頷いている。一方のフィオレット王女も希望に満ちた眼をキラキラさせて父親の次の言葉を待っている。そして……
「私に成り代わり、我が国内に侵入した帝国軍の軍勢を無事に追い返せたら……娘との婚約を認めよう」
魔王を倒したら娘をやろうみたいなノリで言われてしまった。
魔王と帝国軍、戦うにしても勝手がまるで違う相手なのだから二つ返事で『ハイ』と答える訳にはいかない。
「あ、あの〜……質問良いですか?」
とりあえず今のヴィルには判断材料があまりにも無さすぎた。小さく手を挙げて国王に幾つかの質問を試みる。
「あの、経緯を教えてもらいたいんスけど……」
ヴィルの質問には王国の文官らしい人物が壁に掛けられた王国と周辺国の地図を使っての説明を始めた。
彼の話によると帝国軍は歩兵隊と騎馬隊を中心とした軍団が西より王都を目指して進んできているらしい。また、彼等はフィオレット王女の身柄の引き渡しを求めてきており、略奪も辞さない構えである模様。
また、彼等の軍勢は王国内に潜んでいたゴブリン等の魔物達すら糾合させて向かってきているそうなのだ。
そのさながら魔王軍の様な不可解な集団に王国ではどうするべきか話が纏まらずに居たのだと言う。
フィオレット王女一人の為に軍隊を派遣してくる帝国皇帝も大概だが
(まさかユーマの奴が……?)
帝国に向かったというユーマ・キリサキが何らかの理由で皇帝と結託し王国にやってきた……そう考えれば帝国軍に魔物が合流している理由にはなる。
ユーマのスキル全種族絶対隷属を使えば魔物を意のままに操り、同行させてくるなと朝飯前だろう。
「じゃあ、魔物達は俺が受け持ちます。魔物相手なら俺は慣れてますから」
ヴィルの言葉に国王が頷く。人殺しを忌避して不殺でありたいとかでは無いが、人間の軍隊相手なら人間の軍隊をぶつけるのが安全牌というだけの話である。
どちらかと言えば個人武勇の剣聖であるヴィルが真価を発揮できるのは魔物達相手である。兵科の適切な選択はここでも適用されるのだ。
「では、直ちに我々も軍を動員させましょう。間に合うか分かりませんが諸領にも御布令を出して兵力を抽出させましょう」
方針が決まれば動きは早い。文官達が慌ただしく部屋の外へと駆け出していくいく。
「陣はこちらにしましょう。西の街道にある平原……あそこなら見通しも良いし退路も確保出来る」
更に軍の司令官が地図を頼りに参謀達と作戦を練り始めている。大体の作戦方針を決めてから国王に判断を委ねるという事なのたろう。
一気に慌ただしくなってきた室内の喧騒に
「ヴィルヴェルヴィント様……」
フィオレット王女が心配そうな表情で寄り添ってきた。この調子ならすぐに婚約どうこうという話にはならないだろうが……




