侵攻
「フィオレット王女! こちらにおいでですか!」
ーバアアアン!ー
ヴィル達の部屋に勢いよく扉を開けて入ってきたのは城の兵士と思われる完全武装のプレートアーマーを着込んだ男達が五人程。
ノックもなしに無作法に訪れた彼等に王女は
「な、何事ですか? 今はお客様の対応をしております。お話なら後で……」
大事な話の途中だから下がる様に言い掛けたところで
「帝国軍が王国へ侵攻してきたのです! 国王陛下がお呼びです! 直ぐに我々と同行願います!」
王国の兵士から齎されたのは隣の帝国が攻めてきたという王国の一大事だった。
「わ、わかりました。父の所に案内して下さい。この方々もお連れしてよろしいですか?」
フィオレット王女が兵士達にヴィル達も連れて行って良いか尋ねると
「分かりました。さぁ王女、こちらへ」
兵士達は意外とすんなり同行を認めてくれた。そしてヴィル達は半ば状況に流されるままフィオレット王女と共に兵士達に連れられて国王の元に向かう事になるのだった。
兵士に連れられたヴィル達がフィオレット王女と共に訪れたのは、大きなテーブルの置かれた円卓の間の様な大きな部屋だった。
席には国王陛下だけでほ無く、国の官僚や大臣達がそれぞれ席に着いている。また、王国軍の司令官らしき老齢の騎士の姿も見える。
「おお、フィオレットよ。お前も席に着け。これから大事な会議が始まるのだからな」
国王はフィオレット王女を見るなり彼女に席に着く様促す。そこで、後ろにいるヴィル達の存在に気付いたのか
「おお、魔王を倒したという勇者様ではありませぬか」
ーパンパン!ー
「誰ぞ! 勇者様にお席を御用意差し上げろ!」
国王は手を叩いて侍従を呼び、彼等にヴィル達の為の席を用意させる。
即席の臨時席の為かファミレスの補助席みたいな無理矢理感が出てしまったが贅沢は言っていられない。
「あ、ありがとうございます……」
ヴィル達は軽く会釈するとアリーナ、クレアと共に席に着くのだった。
「ク〜ン……」
「キキィ……」
「クェ〜……」
クロ達三匹もアリーナに寄り添い大人しく身を屈めている。
「これはこれは。かつて魔王軍の四天王から王都を救って頂いた勇者様ではございませぬか」
ヴィル達の着席を見ていた国王がヴィル達を見るなり、労いの言葉を掛けてくる。
「おお、そちらの精悍な若者が例の……」
「魔王軍のあの四天王をいとも簡単に討ち取った……」
続いて、王国の文官らしい人々もヴィルを見て口々に感想を漏らしている。
「これは王国の危機に訪れた凝光ではありませぬかな? どうお考えであらせられます国王陛下?」
そう国王に話しかけるのは豪奢なお召し物を着用している大臣か宰相らしい人物だ。
だが、ヴィルの知らないところで無意味にハードルを上げられても困ってしまうのだが。
四天王を倒した辺りの話など今のヴィルにが目覚める遥か以前の話になるので今のヴィルは知る由も無い。
何の話か分からないヴィルは質問したいのを堪えるのに必死だった。しかし、口を開いてもロクな事になりそうもないと察したヴィルは黙って成り行きに任せる選択肢を選ぶのだった。
「あの、お父様? このお集まりは一体……?」
そもそもが、こうした王国の重鎮達が一堂に介している理由がヴィル達は分かっていなかった。
それを解消する為のフィオレット王女の質問はヴィル達にはとてもありがたかった。
「うむ。実は先ほど帝国から使者が見えられてな。フィオレットとの婚約を受け入れなければ、我が国に攻め入ると……」
「これはただの脅しではありません。国境付近に大規模な帝国軍の姿が確認されています」
国王の返答に続いて王国軍の司令官らしい騎士が、現状報告を付け加えてきた。
彼等の話を聞いたフィオレット王女は信じられないといった表情で顔面蒼白となってしまっている。
「ヴィルヴェルヴィント様……」
王女は隣の補助席に座るヴィルに身体を寄せてきた。自分の身柄を軍隊まで用いて要求してきた帝国皇帝に言いしれぬ不安を覚えたのだろう。
ーギュッ!ー
フィオレット王女はヴィルの手を握ってきた。普段なら適切な距離を取ったりと良識的な対応を選ぶヴィルなのだが、今の彼はフィオレット王女に対し率先して婚約を申し出てしまった背景がある。
目論見はどうあれ、ついさっき婚約を申し出た人間が不安に助けを求めてきた少女を無下にしてはあまりにサイコパス過ぎる。
ーギュッー
ヴィルはフィオレット王女の柔らかな手にもう片方の手を乗せて優しく握りかえす。
「フィオレット王女。私が付いています。ご安心下さい」
ヴィルは彼女を心配させまいと、イケメンボイスで優しく囁き微笑で返す。そうすると若干震えていた王女の手は落ち着きを取り戻した様で
「……はい。あの、私達の事を皆様にご報告差し上げても……よろしいでしょうか?」
何かを決心したかの様に切り出してきた。彼女の言う報告とは当然ヴィルとの婚約の話だろう。
確かに隣の帝国がフィオレット王女の身柄の確保に動いてきたのだから、王女としてのお断りの意向を示す為にもここで口外して置かなければ面倒になる事うけあいである。
(いや、待て……本当にこれが最善なのか?)
ヴィルとしては王女との婚約はただの方便であり帝国皇帝の婚約話を断る為の当て馬役のつもりでしかなく、決して本命に躍り出ようなどと覚悟があった訳では無いのだ。




