急転直下
「フィオレット王女……様? あの、とりあえずこれからどうされたいのか教えて頂けますか? で、出来ればそちらのソファーに座って頂いて……」
ヴィルはフィオレット王女にそう問いかけてみたが、彼女はヴィルの胸の中から動こうとしない。
まるでお気に入りの定位置から動かない飼い猫の様な素振りにヴィルは
ーガシッー
フィオレット王女の両肩に手を置き、彼女を優しく引き剥がすと
「フィオレット王女、立ち話も何です。お話はそちらでお伺いします」
ヴィルはここぞとばかりのイケメンボイスでフィオレット王女に優しく語り掛ける。
すると王女はようやく落ち着いたのか、ヴィルを見つめたままコクコクと頷いた。
「フィオレット王女。さぁ、そちらへ」
ヴィルはそんな彼女の肩に手を置いたまま、フィオレット王女に寄り添いながら彼女をソファーに座らせる。
ーギュッ!ー
「あだっ!」
王女を座らせてようやくホッと出来たヴィルの左腕に鋭い痛みが走った。何事かと彼が自身の左腕を見ると
「……ヴィルさん。王女様相手に距離が近過ぎません?」
そこには不機嫌さを隠そうともしていないジト目のままのアリーナがヴィルの腕を抓っていた。
「あ、あの、これは……王女様が相当まいられてるみたいだからな。落ち着いて安心して貰わないと駄目だろ?」
しどろもどろになりながら答えるヴィルに対しアリーナは
「……締まりない顔されていたみたいですけど」
プイッとそっぽを向いてしまった。間違いなくアリーナは怒っている様だ。
「フィオレット王女……様? お、落ち着かれましたか?」
ヴィルが気まずさを感じながらも王女の隣に寄り添いながら彼女に様子を尋ねると
「勇者ヴィルヴェルヴィント様……。以前よりお優しくなられたのは魔王を倒されたからですか?」
王女は以前に接していたヴィルヴェルヴィントと今のヴィルか違う事を感じ取っているらしい。
「え? そ、そんな事はありませんよ。女性に優しくというのは勇者でなくとも当たり前の事ですから」
ヴィルヴェルヴィントしてのキャラの整合性を取る事など何も考えていないヴィルとしては、自身がキャラを変える事についての歴史への影響など何も考えていなかった。
勇者とは言え粗暴な所もあった以前のヴィルヴェルヴィントが初めて自分に見せた優しさと気遣いというのは、頼る者が近くに居なかったフィオレット王女にもしっかり刺さってしまっている様だ。
「ヴィルヴェルヴィント様……。私は一国の王女であり我儘を言える立場では無いのは分かっています。ですが……お慕いしている方に想いを打ち明ける事も出来ずに嫁ぐ事は……。どうか……私を助けて頂けませんか……?」
消え入りそうなか細い声で想いを語るフィオレット王女の姿はヴィルでなくとも正常な男子なら庇護欲を掻き立てられ簡単に心を動かされていただろう。
「分かりました。私にお任せ下さい」
一応の健康な成人男子であるヴィルにノープランで即答させてしまうには十分だった。そんな彼に
「な、何か方法があるんですか?」
少し驚いた様子のアリーナが尋ねてきた。
「こうなったら先約が居た事にするしか無いだろ? フィオレット王女、私と婚約して下さい。そうすれば……」
いともあっさり王女にプロポーズしてしまったヴィルの行動は
「は、はい……。私で宜しければ……」
姫を救いに来た騎士の如く、すっかり王女を本気にさせてしまっていた。
「お、王女様? これはあくまで帝国の皇帝へのハッタリで……これなら相手も諦めるかな?と……」
ヴィルは今更に自分の考えを語るが……
「ヴィルさん! これはどういう事ですか! いきなり婚約するなんて……!」
と、寝耳に水なアリーナを本気で怒らせてしまうのも
「勇者ヴィルヴェルヴィント様……。私はこれまで貴方をお慕いしておりました。良からぬ噂に父は良い顔をされませんでしたが……」
すっかり婚約を本気してしまったフィオレット王女に真意を伝えるのも、完全にタイミングを外してしまっていた。
ヴィルの娼館通いはフィオレット王女の知るところではあるらしいが、それを加算してもマイナスにならない位には王女のヴィルへの高感度は高いらしい。
「あ〜フィオレット王女……様? 今はとりあえず帝国の皇帝にお断りの連絡を……」
ヴィルが話を逸らそうと現実的な行動を提案するが
ーパン!ー
「ああ、そうでしたわ! 先日、帝国への使いにヴィルヴェルヴィント様とは別の勇者様にお願いしたんでしたわ!」
ヴィルからの婚約の提案に舞い上がっていたのか、フィオレット王女は今頃先に帝国への使いに出したユーマ・キリサキの事に触れ始めた。
王女様から直接ユーマの事を聞いた事でヴィルはようやく彼等の居場所を知る事が出来たのだった。
(ユーマのヤツ、勇者を名乗ってエルフィル達を連れ回してんのか……)
元勇者パーティーの安否が気がかりなヴィルとしては、フィオレット王女の件も含めて帝国に行くしか無いような気がしてきていた。
「フィオレット王女様、私はこれより……」
ヴィルが王女にこれからの行動指針を告げようとしたその時、部屋の外が騒がしい様な物音と乱雑な足音が響いてきたのだった。




