過去の勇者
「確認が取れるまでここを通す訳にはいかん! 少しここで待て!」
魔王討伐を果たした勇者として、さも当然といった態度で王城までやってきたヴィル達勇者パーティー一行だったが、思わぬ形で足止めを食らっていた。
「いや、こうして王女様の手紙もあるんだしよ。これじゃ駄目なのか?」
ヴィルは以前送られてきたフィオレット王女直筆の手紙を王城の門番に見せるが
「お前が本当に勇者だと確認が取れんのだ。だから、ここを通す訳にはいかん」
ここでもヴィルの冒険者証が無効化されている弊害が出ていた。ヴィルが手首の冒険者証で名前やステータスのホログラムを見せても門番は頑としてヴィル達を通さなかった。
「少年、ここはいつもそうなのか?」
正門での思わぬ足止めにクレアがヴィルに問い質す。厳密に言えば彼女は勇者パーティーの一員では無いのだが、何故か当たり前の様にそこに居る。そんな彼女の問いにヴィルは
「ミリジアか居た時は顔パスだったんスよ。あいつ、王女様と友達だったそうっスなら……」
昔を思い出しながらヴィルは説明する。思い出しながらと言っても当時は本来のヴィルヴェルヴィントが主人格だったせいか今のヴィルは朧げにしか覚えていない。
その時、城の中から慌てた様子の兵士がヴィル達のところまで駆けつけてきた。そして
「自称勇者のヴィルヴェルヴィント。王女様からお通ししろとの許可が出された。ついて来い!」
彼は息を切らせながらヴィル達に城の中へ入る様に指示してきた。
ヴィル達三人とクロ達三匹は兵士に先導されるがままに王城の廊下を歩いていた。
(さすが異世界、お城ってこんな感じなんだな……)
異世界の王城など初めて訪れた感覚のヴィルは物珍しげに辺りを見回しながら歩く。
前世が現世の日本人なだけにファンタジー丸出しな王城はヴィルに非現実感を起こさせていた。
そう、それはまるで夢の国と呼ばれる首都のレジャーランドやバブル期に地方に乱立したレジャー施設に等しい。
石畳の床の上を延々と赤絨毯が続いていくなど、観光地でなければ中々お目に掛かる事など無い。
「少年、物見遊山で来た訳じゃないのだろう? キョロキョロするな」
オノボリさん丸出しなヴィルの挙動に一番後ろを歩くクレアからツッコミが入れられた。
「あ、悪い悪ぃ」
頭を掻きながら後ろのクレアに頭を下げるヴィルは
「…………」
若干恥ずかしそうにしながらも、優しく微笑んでくれるアリーナの顔が目に入った。
(すっかり元気を取り戻せたみたいだな……良かった)
ヴィルはアリーナに笑顔で返しながら前を行く兵士の後に続く。
「こちらです。どうぞ、フィオレット王女がお待ちです」
兵士に案内されたのは王城にある一部屋だった。見た目、王女様の私室である様な厳かな雰囲気も無い。
ーコンコンー
「あ〜……、勇者パーティーのヴィルヴェルヴィントです。失礼します」
ヴィルがドアをノックして中を確認すると
「はい。ど、どうぞ」
中から少し戸惑った様な上品で品のある少女の返事が聞こえてきた。
ーガチャー
「し、失礼します」
恐縮しながら入室するヴィルを待っていたのは、部屋の真ん中にソファーとテーブルが置かれた応接室の様な客間で落ち着かない様子で座っていたピンクドレス姿の金髪のフィオレット王女だった。
「ああ、本当に勇者ヴィルヴェルヴィント様ですのね! 貴方が魔王との戦いで命を落とされたと聞いていたのですが私には信じられませんでした!」
フィオレット王女は立ち上がるとそのままヴィルに駆け寄ってきた。
「あ、あの……」
あまり面識の無い……しかも、今に至る関係性も朧げな相手にヴィルは固まっている。
ードサッー
フィオレット王女はヴィルにしなだれる様にして身体を預けてきた。
「私は先日、隣のベルンシュバイツ帝国の皇帝陛下より婚姻を打診されてしまったのです」
フィオレット王女は自身に降りかかっている困難について語り始めた。
隣の帝国とフィオレット王女の王国とでは国力が違い過ぎて両国の安定を考えれば婚姻を受け入れるのが是なのだ。
しかし、帝国の現工程は三十代半ば、ヴィルと同年代のフィオレット王女からすれば明確にオジサンでしか無い。
そこで縁談を断りを皇帝に伝えるべく自称魔王殺しの勇者であるユーマにお願いして帝国に遣わせた訳だが……どういう訳か、便りが何も無い。
親友でもあるミリジアが一緒なのだから何かあれば知らせてくるはずなのだが……ひと月ほど経っているのに、何も連絡が無くヤキモキしていた所にヴィルがやってきたという構図らしい。
「あ、あの……お話は分かりましたので、とりあえずこれからどうされたいのか落ち着いてお話を伺わせて頂きたいのですが……」
部屋の中をキョロキョロするヴィルはフィオレット王女になんとかソファーに移動して貰いたく、それとなく移動を促す。
もたれ掛かってきているフィオレット王女との距離は零である。彼女から感じられる仄かな香水の甘い香りが鼻を擽る。
ドレス越しに感じられる王女の細く儚い身体つきとは対照的な大きな胸の感触にヴィルが戸惑って視線を部屋のあちこちに向けていると
「…………」
ジト目でヴィルを睨むように見ているアリーナと目が合ってしまった。
「こ、これは……何でも無いんだ。え〜と……」
頭が真っ白になりながら弁明するヴィルだが、テンパっていて気の利いた言葉は何も出てこなかった。




