139話
カーラインSIDE────
「そんな事言わないでよ。君と僕との間でしょ?」
「……被害者と加害者の間違いだろ……で、そこの男は誰だ?」
不機嫌そうにフレデリックの相手をしていたカイと呼ばれた男は机の上に置いてある書類を片付けながらフレデリックの方を警戒しているように見える。
「彼はカーラインって言うんだ。」
「カーライン?」
俺の名前を聞いて俺を注視したカイが大きく目を見開く。
「カーラインだ。久しぶりだな、カイデン。今はカイデン王と言ったほうがいいか?」
おどけてそう言うと座っていたカイは立上がり俺の方へゆっくりと歩いて近づいてくる。
「なんで今さら出てくるんだ!」
「ぐはぁ!」
久しぶりの再会で感動のハグだと思っていた俺は手を広げて待機していた所全力で顔面を殴られた。……何でだ?
「良いストレートだね!きっと世界が狙えるよ!」
「……アンタは少し黙っててくれ。今はこの馬鹿に聞きたいことがあるんだ。」
そう俺を見下ろしたカイの視線はとんでもなく冷たくまるで汚物を見るような目だった。
「馬鹿って……育ての親に言うことじゃねぇだろ……」
「はぁ、何をしたのかわかってるのか?アンタが貴族を殴ったせいで国からの支援が無くなった孤児院が潰れたんだろうが。そのせいで何人の子供が死んだと思ってるんだ?」
ああ、そうか。そういう事になってるのか。まぁ、その方が都合がいいんだろうな。
俺が何も言わずに聞いているとカイが俺の胸ぐらをつかみ立ち上がらせる。
「答えろ!子供が死ぬことを嫌ったアンタが何故そんな事をした!」
「理由か……アレは表面上は確かにガキどもを育てるための場所では有ったが、実際は違う。使えるガキと使えねぇガキを選別するための場所だ。」
「は?」
思っていた返答と違ったのか俺の返答を聞き固まる。きっとコイツは国から使えるコマとして考えられていたのだろう。
「そんなわけ……」
そこまで言うと思い当たるフシが有ったのか俺から目をそらす。
「俺も初めは気が付かなかった、むしろ不幸なガキが減るって喜んでたくらいだ。だが使えねぇと判断されたガキは表面上は誰かに貰われたことにして殺された。」
「……何故それをアンタが知っている?」
信じたくないものを知ったような表情を浮かべたまま俺の胸ぐらから手を離す。
「簡単だ、その現場を見たからな。貴族が戦場で人を殺しても罪悪感がわかねぇようにその練習としてな。」
忘れもしねぇよ。貴族、王族がガキどもを獲物として追い回し笑いながら殺す……俺は何を信じていたんだろうな。
「確かにあのまま見ないふりをしていりゃあそれ以上のガキが救われたかもしれねぇ。だが俺は目先のガキのほうが大事に感じた。それだけだ。それが反逆の勇者というどうしようもねぇ大馬鹿者の話だ。」
「ふーん、そうなんだ。まぁ、大変だったね?」
カイに黙れと言われ静かに聞いていたはずのフレデリックが興味のなさそうな空気の読めない声を上げる。
「……興味なさそうだな……」
「うん、興味ないよ。でもまぁ、君がそのことについて罪悪感があるのなら君が今まで救うことが出来なかった人以上に人を救えばいいんだよ。」
そう言い放ったフレデリックは俺の気など知らないような楽しそうな笑顔を浮かべていた。そして俺ができる訳がないそう言おうとした瞬間。
「僕等が君が連れてきた人を人間としての幸せを掴めるようにしてみせるよ。だから僕等を信じてみないかな?」
手を俺に向かて差し出すフレデリック。その手を掴もうとしたが伸ばせなかった。こんな俺がこの国に居ても仕方がないような気がして。
「手を掴まないの?」
「……すまん。俺には無理だ。きっと心の何処かであの国と同じ事がおきるんじゃねぇかって思う俺がいる。」
「ふーん、そっか。」
フレデリックが手を降ろす瞬間俺の手はカイによって掴まれ伸ばすことが出来なかったフレデリックの手を掴んでいた。
「ったく、アンタも馬鹿だな。その話を聞いて俺がそんな事を許すと思うか?」
「……ああ、そうだな。カイ、お前なら任せられる。」
俺がそう言うと拾ったときと同じ様な悲しいんだか嬉しいんだかよくわからない無表情のような笑顔を浮かべる。
「アンタも自分を許してやってくれ。アンタのおかげで俺がいる。だから救えなかったものだけを見ないでくれよ。ありがとう先生。」
頬を熱いものが流れる。視界が霞んで眼の前の二人の姿も見えないがもう一つ鼻をすするような音が聞こえる。
「え、気まずいんだけど……泣くのはいいけど僕が出ていってからにしてよ……」
そんな中空気を読まない言葉が俺とカイを見ていたフレデリックが呟く。
フレデリックSIDE────
うーん、何か分身が分身をだしては解除して無駄に情報を共有してくるんだけどそんな空間にアレクとロワを連れていきたくないんだけど……まぁ、いっか。気にしたら負けだよね!
何かを企むような笑顔を浮かべたフレデリックがくるりと振り返りロワを持ち上げる。
「よし!行こうか!時間がもったいないしね!」
「うん、そうだね。」
あたりが暗くフレデリックの顔が見えなかったアレクシスはそのまま了承しフレデリックを先頭に歩き出す。
そのまま問題の部屋の前まで歩いていくと中から扉が勢いよく開き中からフレデリックの分身が出てくる。
「遅いよ!この空間にいる気まずさがわかる?!」
「あはは、嫌だよね。ドンマイ!」
いきなりフレデリックの分身が怒って出てきてぽかんとしているアレクシスとは対象的に自身の分身を楽しそうに煽るフレデリック。
「ドンマイじゃないよ!……はぁ、後は任せるよ?」
「任せといて。」
分身が消え部屋の中の光景を見たアレクシスが頭を抱える。
「……この状態で紹介する気かい?」
「うん。」
アレクシスが指を指した先にはカイとカーラインが泣きながら自分達の昔話に話に花を咲かせるしている。
「もう一度聞くね?本当にこの状態で紹介する気かい?」
「うん。」
「……馬鹿なんですかにゃ?」
「いや、話は後にしてもらうから大丈夫!」
中で話している2人に近づいていくフレデリック。
「はい。話は後にしてくれる?」
「……今、いい所何だが……」
「もう少し待ってくれ。まだ話したりねぇ。」
「いや、無理かな?だって子供達連れてきてないよ?」
ハッとするカーライン。それをジト目で睨むフレデリック。その状況を冷静に眺めているアレクシス。
……この人子供のこと大切なんだよね?普通忘れるかな?はぁ、これに任せるのは少し怖いね。
「そうだったな。1度戻らねぇとな。フレデリック、頼むわ。」
「……何で君が仕切ってるのさ……まぁ、いいよ。っとその前に『イリス』、『ジェイド』」
フレデリックが名前を呼ぶと2匹の猫がフレデリックの前に現れる。
「はぁ……いきなり何にゃ?ああ、被害者が増えたにゃ。」
「何のようですかにゃ?ああ、新しい妹(?)ですかにゃ?」
呼ばれた2匹はフレデリックに抱えられたロワを見る。
「うん。ロワって言うんだ。任せるよ?」
「ロワですにゃ。新しいってことは何匹(?)かいる感じですかにゃ?」
フレデリックがロワを降ろすとイリスとジェイドの間に挟まる。
「とりあえず僕は1度カーラインを連れて戻るから。ライラ達に紹介しといてね。」
そう言うと返事を聞く前にカーラインとともに空間魔法でカーラインが住んでいた場所へ飛ぶ。
「あー、やっちまった……アイツらよく飯を作れたな。」
「そうだね。片付け大変そうだね……」
カーラインが出ていく前は綺麗だった台所は乾燥野菜野菜の破片、洗っていない皿によって既にグチャグチャになっている。
焦げた臭いのするスープと堅パンがテーブルに乗せられている。カーラインが優しい表情を浮かべその食事に手を伸ばす。
「ガキ共がせっかく作ったんだ食ってもいいか?」
「いいよ。流石に駄目とは言えないよ。」
フレデリックの返答を聞くと食べ始める。味は良くないのか少し眉をひそめる。流し込むように食べきると食事を終えるまで待っていたフレデリックが話を切り出す。
「さて、カーライン、君には少しやってほしい事があるって言ったよね?」
「……確かに言ったな。ガキを攫ってあの国に連れてくれば良いんだろ?」
「まぁ、それもお願いしたいことの1つでは有るんだけど本当に君にお願いしたいことは別にあるんだ。僕のもう一つの目的の為にね。」




