第75話 親おじさん
誰にとってもそうだが、『次元刀』はファビにとってすら驚異だ。
『次元刀』を得たテシウス君が、一時的にファビを――アレは中身が弱かったからだけれども――機能停止に陥れた実績があるように。
この武器ならば、ファビと戦える。
〈ハンデだね。徒手空拳で『次元刀』と戦ってあげるよ、相棒〉
それはつまり、うまくやればファビを止められるということだ。
それがいま、必要な行動だ。
しかし――。
ラティーシャちゃんは言った。
『次元刀』を、と。
戦えと言ったわけじゃない。
そもそも俺は戦いに来たわけじゃない。
……戦っても勝てないしな。ああ、絶対に勝てない。なぜならば。
「いや、戦わないよ。娘に手ェ上げる親がいるわけないだろ」
そういうことだ。
〈ふぅん。じゃあどうするの?〉
「こうする」
俺には、俺だけには、別の選択肢がある。
クラフトメニューを開く。
そして、手に持った『次元刀』を――解体する。
「うわ、5000ポイントにしかならねェや。しけてんなァ……」
世界最強の武器が、きらきらした光の粒子になって、消えていく。
〈何? ファビのことも解体できるぞって言いたいわけ?〉
「まさか。俺達の間に必要なのは、戦いじゃないって示しただけだ」
そうだ。俺達は、ちゃんと話さなきゃいけない。
「話そうぜ、ファビ」
〈話すことなんてないよ、相棒〉
「いいや、俺達は話すべきだ」
〈違うね、ファビ達は話す必要なんてない〉
「ファビ。なあ、ファビ」
〈なんだい、相棒〉
「前世、ないんだな」
ファビの返答が詰まった。ややあって、どこにあるのか分からない口を開く。
〈……何? 新しく作った鑑定の道具で、再確認でもしたの? でも、おあいにく様。そんなの、もうどうでも良いよ〉
「う、嘘ですの!」
唐突に、コルンさんの声が響いた。
ファビとラティーシャの戦闘の挙動に耐えきれず、気絶していたようだが、いつからか、目覚めていたらしい。
〈コルン、うるさい〉
「ファビさんは気にしているんです、自分に魂も前世もないことを! ただのふれーばーてきすと? の延長線上のもので、えーあい? みたいな――」
〈ふん〉
ファビが、豪速で頭を左右に振った。つまり、その内部のコルンさんの脳を。
〈よし、黙った〉
「おまえ、コルンさんにだけはガチ謝りしないと駄目だぞ……」
脳へのダメージが不安だ。あとでポーション飲ませよう。
ともあれ……コルンさんは、いいパスをくれた。
「フレーバーテキストの延長線上、AIみたいなもの、か。そりゃいいじゃねェか、ファビ」
〈……何がいいってのさ〉
「だって、それァ、《《オリジナル》》だってことだぞ。この世にただ一つ、ただ一人、正真正銘の――」
言う。
「――俺の子供だってことだ。前世、嫁も恋人も、親も兄妹も、だれひとり家族がいなかった俺の、たったひとりのな」
言って、笑う。
「俺はファビを信じる――ファビは、ちゃんと反省して、ここで事件を収められる子だってな。口は悪いし、すぐ病むし、メンタル重いし、独占欲強いし、大変な娘だけどさァ。でも、誰よりも優しい、自慢の娘だ」
両手を広げて、待つ。
「俺はもう、何もしないよ。ファビが俺を捕らえて、それでも計画を進めようってんなら……そりゃ、親である俺のせいだ。コルンさんには悪いが、仕方ない。甘んじて受け入れるよ」
ファビは、しばらく黙ってから、小さい声で言った。
〈……ずるいよ。そんなこと言われたら、もう何も出来なくなっちゃうよ〉
言って、手指を振った。
銀色の箱が消え、中からラティーシャちゃんが転がり落ちてくる。パッと見、無傷だ。むくりと起き上がって、こちらを伺う。
「……終わったようなのです。どうなったのです?」
〈ファビの負け。でもずるいよ、相棒は〉
「親ってのは、ずるいもんだ。さ、帰ろう、ファビ」
ファビは、しかし、首を横に振った。
〈でも、ファビは……許されないことをしたよ。けじめは付けないと〉
「そうだな。いけないことした娘には、罰を与えないといけない」
俺は一つ、解決策を思いつきつつあった。
うまくいくかは分からない。だが。
「ところで、ラティーシャちゃん。意見を聞きたい。罰を与えるのにぴったりな武器を、俺達は宝物庫にしまい込んでいただろう。アレ、使えないかな?」
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