第74話 疾走おじさん
肉叩きによる一撃。
ラティーシャちゃんは吹き飛んだが、しかし、
「ダメージはありません……!」
地面に手をついてくるくる回りながら体勢を戻した。凄い。
〈嘘だね。相棒の異界摂理とは種類が違う。宝物庫の扉をぶっ壊した攻撃だよ? ノーダメなわけない。衝撃は通ってるはずだ〉
ファビが指摘しながら、次のカードを引いた。
〈お次はトングだってさ〉
手の振り抜きと同時に、銀光で出来た巨大なトングが現れる。
それはファビの腕の動きと同期してラティーシャちゃんを挟もうとする。
「わ、わたくしより素早いですわ!」
コルンさんが叫ぶ。
とはいえ、ラティーシャちゃんの反射速度だって、桁違いだ。『次元刀』でトングを迎え撃った。
だが、何でも切り裂くはずの『次元刀』が――切り裂けない。
システムが違うのだ。トングの片側とつばぜり合いをする結果となり、当然、反対側から押し挟まれてしまった。
「ぎゅッ」
と苦しそうな声を漏らしつつ、ラティーシャちゃんは杖を振った。
驚いたことに、ここで彼女が選択したのは、攻撃だった。
『次元砕』がファビに向かって飛んで行くが、難なく回避されてしまう。
〈とはいえ、マントの防護が強くてほとんど無傷か。さすが相棒の一点物。気絶させるのは難しいか〉
軽く言いつつ、ファビが腕を振り払った。連動してトングが動き、ラティーシャちゃんが振り回される。
〈剣士としては悔しいけど、こっちで攻めた方が良いな〉
なんと、そこでファビが『次元刀』を手放した。落下した『次元刀』が地面に落ち、豆腐に針を落とすみたいに、何の抵抗もなく鍔まで埋まった。
そして、右手で三枚目のカードを掴む。
「ファビさん、そのカードはダメですわ!」
〈へえ、オーブンだってさ〉
「ダメですの! それは対象が焼き上がるまで、決して壊れないオーブンに封印してしまう古代魔法ですのよ!? ダメ、ダメ、やめて……!」
コルンさんの制止の声は、もはや金切り声に近かった。
ロングハンドを丸焼きにした、あのオーブン。
あんなの食らったら、例え俺が超強化したラティーシャちゃんでも……!
銀光の四角い箱が組み上がる。その蓋が閉まる直前、トングがラティーシャちゃんをぶん投げた。オーブンの内部へと。
――蓋が閉まる、まさにその瞬間だった。
ラティーシャちゃんが俺を見た。目が合う。
諦めを知らない、力強い瞳が俺を貫いた。唇が動く。
だから、俺は走った。
〈焼き上がるまで壊れない、か。それじゃ、焼けるにせよ焼けないにせよ、出てくるまでは、しばらくはかかるでしょ。その間に……〉
オーブンの方へ、じゃない。
ファビの方へ、だ。
もう、人生で一番かってくらい全力で足を動かす。
走り方が我ながら様になっていて、笑いそうになる。
有り難いことに、効率的で素早い動かし方が、体に染みついているのだ。
ダイビングで地面に突っ込んで、それをひっつかみ、自分に当たらないよう気をつけながらゴロゴロ転がる。
それから――俺なりに――急いで立ち上がり、構えた。
〈……驚いた〉
ファビは、本当に驚いている様子だった。
〈ファビが思ってるよりもずっと、トレーニングの成果が出てるね。ファビの足下から『次元刀』をかっさらっていくなんて。でも……それがあれば、ファビに勝てるとでも?〉
「まあ……無理だよなァ……」
構えながら、オーブンも視界に収める。
組み上げられた銀光の箱は、内側から煌々と炎の輝きを漏らしている。
ラティーシャちゃんが心配だ。だが、彼女は俺を信じていた。だから「『次元刀』を」なんて呟きを俺に残した。
俺もまた、ラティーシャちゃんを信じる。彼女は無事だ。問題ない。
それが『次元刀』で壊せない銀光のオーブンに閉じ込められ、業火で焼かれ続ける状況であっても、古代魔法なんて内側から解析し尽くして、満足げな顔で出てくるに決まっている。
「でも、諦めるつもりはないね。俺は甘ちゃんなんだ」
・ブクマ
・感想
・下の☆☆☆☆☆で評価
・レビュー
・Xで読了ツイート
等々をしていただけると励みになります!




