第73話 観戦おじさんその2
ラティーシャちゃんの戦闘スタイルは複雑ながらもシンプルだ。
左手に『終極魔導演算杖フロンティア』を、左手に『次元刀』を握った変則的な二刀流。優れた魔術の才覚と冒険で培った技能を、俺のプレゼントした武具によってブースト。さらに、その身に纏うのは宇宙要塞みたいな性能の防具だ。
そんな状態なら、戦略は必要ない。
ただただ真正面から高威力の魔法と防御不可避の斬撃で襲いかかればいい――ゴリ押しだ。相手がファビでも、である。
「まだまだ剣術はファビさんに遠く及ばないですが、『次元砕』の手数とリーチを加えれば、立ち回りはボクの方が優位なのです」
虹色に輝く魔弾を連続で放ち、周囲の自然環境を跡形もなく吹き飛ばしながら、しかし、ラティーシャちゃんは至極冷静に言った。
「そして、ファビさん自身には次元系攻撃に対する防御力がない。何らかの超魔術的な防御が働いているのは知っていますが、つい四ヶ月ほど前にテシウスのオスに負けた時よりも、さらに分が悪いのですよ。さっさと降参するのです」
〈言うね、ラティーシャ。ファビの剣術を推し量れていると思ったら大間違いだよ、奥の手がまだ二百個くらいあるからね〉
ファビもまた余裕のある口ぶりだ。
「きゃああああああ! わああああああ!」
ファビの本気モードに付き合わされ、鎧の中から悲鳴を上げ続けるコルンさんが一番大変そうだが……俺の目からは、ファビが押されているように見えた。
大砲じみた『次元砕』の魔弾を避け、あるいは『次元刀』で弾いたりして――次元系の攻撃は反発し合うらしい――距離を詰め、剣術勝負に持ち込んでも、ラティーシャちゃんの着る『超越者の超越套』は俺が一切の縛りをなくして作った逸品だ。
魔術と科学を融合させた、あらゆる攻撃を吸収し魔力に変換する能力を持つ。そういうフレーバーテキストを持つアイテムだから、次元を切り裂く一閃も意味を為さない。
きっちりと防ぎ、『土壁』や『地ならし』を併用して距離を開け、また遠距離から責め立てる。
堅実かつ冷酷無比だ。
「持久戦も無駄なのです。ケンゾーさんが作ったポーションを、アイテムボックスに保管してあるのです。投降して、コルンさんを解放するのです」
淡々とラティーシャちゃんが言う。
こういうお仕事モードのラティーシャちゃんは、本当に強い。白銀級……正太郎君が持ち込んだ【ウィザーズ&ウォーリアーズ】以外の異界摂理に触れた者達。
ファビは【ソードクラフト:刀剣鍛造】のシステムから生み出された異界摂理そのものだが、ラティーシャちゃんの魔術は【ウィザーズ&ウォーリアーズ】由来で、そういう意味では異界摂理を二つ振り回しているようなもの。
意外にも圧倒的な勝負の内容で、決着はそう遠くない――そう思った。
だが。
〈うん。けっこう動いて、体も馴染んできたし。技術はないけど、真似事くらいなら出来るかな〉
何度目かの距離を取られたファビが、小さく呟く。
嫌な予感がした。
ゆるりと――ファビの腕が振られた。
『次元刀』を握らないファビの左手。その竜皮と金具で覆われた指が、宙を泳いだ。それは何の意味もない動作で、フェイントですらなく――ファビらしくない、と一瞬、疑問に思った
一瞬しか考えられなかったのは、それまで振り回されるままに悲鳴を上げていたコルンさんが、不意に声を上げたからだ。
「逃げてくださいッ、ラティーシャさんッ!」
振られた腕をなぞるように、銀色に輝く三枚のカードが、宙に浮かぶ。
〈――なるほど。こういう感じか〉
喉が干上がるような悪寒。
ファビの指が、そのうちの一枚を選び取った。
そう、それは間違いなく――。
〈エロガキジジイのやつでも、相棒のでもない異界摂理だよ〉
――ダークエルフが継承してきた、古代の異界摂理。【マジカルキッチン】だ。
気をつけろと叫ぶ間もなく、巨大な銀色の肉叩きが顕現し、目を見開くラティーシャちゃんの体を横からぶっ叩いて吹き飛ばした。
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