第70話 ファビ・イザヨイの陰謀
わたくし、モルンの娘、ドゥオルンのそのまた娘、コルンは現在、鎧の内側に囚われておりました。
サイズの合わない鎧ですので、足がスカスカだったり胸がギチギチだったりしますけれど、ダークエルフという種族は身体頑強、その気になれば一週間連続でも激しい運動が出来まして、ええ、それこそデックアルヴの月祭りの際などは――
〈コルン、ファビん中でもじもじするのやめてくれる……? 鎧内部の湿度、上がってるんだけど〉
「うふふ、失礼いたしました。でも、こうして自分の体を勝手に使われておりますと、妄想くらいしかすることがなく……そうそう、体を勝手に使われると言えば、良い思い出がありまして」
〈ストップストップ。……ごめんね、勝手に使って〉
「いえ。気持ちは……わからなくもありませんから」
そう、わたくし現在、体の自由が利かない状態なのです。
ファビさんをケンゾー様のお部屋まで運ぶ際、台車をガタゴトするよりも〈ファビを着た方が早いよ〉と言われ、なるほどと思って着用したところ、あっさりと体の自由を奪われてしまいました。
そして、いくつかの物資を麻袋に詰め込んで背負い、ティリクの森に足を踏み入れたのでございます。
「年頃の娘が家出するのは、いっそ自然の摂理ですもの」
〈そんな簡単なものじゃないよ〉
「では、どういうものですか?」
〈……〉
ファビさんが黙ってしまいました。
開けた場所の地面に、何か模様を描いております。星のような……。
ファビさんが『次元刀』で切り開き、丸太を転がして均した場所ですので、開けた場所というより開いた場所ですね。魔物も数匹バッタバッタと切り倒して、安全確保も済んでおります。すごい。
〈……うすうす、思ってはいたんだ。ファビに記憶がないのは、《《最初から》》なんだろうな、って〉
ぼそり、とファビさんが呟きました。
〈相棒のクラフトしたアイテムには、性能が記されていない。攻撃力も守備力も属性も、なにもない。ただ、フレーバーテキストだけが設定されている。なら、『英霊宿る竜具足』に宿る英霊って、どこのだれなの?〉
わたくしに対して問いかけた……わけではないでしょうね。
〈相棒は「ファビには地球の知識があるから、地球の英霊なのかもしれない」って言ってた。だけど――よく考えたら、それも変なんだ。超人的なステータスを持つ、この世界の金級冒険者よりも強い地球人なんて、過去の地球にいたわけがない〉
ただ、誰かに話を聞いて貰いたいだけ。だから、わたくしは黙って聞きます。
〈実際に、魂がないことがわかって……答えが出た。ファビはフレーバーテキストの延長線上で生まれた、前世のない英霊で――AIみたいなものでしかないんだ。着ると棒振りが上手になる鎧。ただそれだけなんだ〉
「……ファビさんは、ケンゾー様の大切な娘です。それは、どんな存在であったとしても、変わらない事実だと思いますよ」
〈……うん。ありがとう。でも、ファビはやっぱり“それ以上”が欲しいんだ〉
ファビさんは地面の模様の中心に大鍋をドンと置きました。
〈だから……ごめんね、コルン。今からコルンとファビを生きたまま『魔女釜』で煮込んで融合し、新たな生命になるんだ。そして相棒を襲って子供を作るよ。人格がどうなるのかは不明だけど、たぶんどっちも無事では済まないと思う〉
「うふふ、ちょっと話が変わって参りましたね」
どうしましょう、これ。
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