第69話 おバカなおじさん
ティリクの森は、多少開拓しているとはいえ、自然森林だ。
地面は平たくないし、踏み固められてもいない。重たい作業鎧の足は軟らかい土に沈みながら、パワーに任せて前へ。
『魔除けの首飾り』のおかげで魔獣は寄ってこない。仮に寄ってきたとしても、俺とアーマードテシ子がいれば何とかなる。
とはいえ……鱗主のような大物が出てきたら、さすがに探索に影響が出る。うっそうとした早朝の森を、緊張しながら進んでいく。
針の指す方へ向かって十数分。テシ子が足を止めた。
「どした?」
「ご領主様、足跡が」
指さす先を見れば、森の深部へ向かって、足跡が一つ伸びている。軟らかい土の上に残る、ごつい足跡。
テシ子が唸る。
「一つだけ……つまり、賊はファビ殿とコルン殿を担いで、ティリクの森の奥へ向かった、ということですかな」
「ファビ、結構重いぞ。そんなこと可能か?」
「私には無理です。しかし、それこそケンゾー殿のような超越者であれば」
テシ子が意味深な顔で呟いた。
超越者――異界摂理の持ち主。ならば、コルンさんやファビを無力化できた理由も分かる。俺の【ソードクラフト】と同等の力があるのだから。
俺は確信した。
「これはハードな戦いになりそうだねェ」
「いや、ケンゾーさん。何を言っているのですか」
ラティーシャちゃんが、呆れ声で突っ込んできた。
……。
「えっ!? ラティーシャちゃん!?」
慌てて見上げると、中空に『終極魔導演算状フロンティア』に跨がって浮遊しているラティーシャちゃんがいた。そうか、飛んできたのか。であれば、女狩人さん以上の速度が出て当然か。
いよいよもって万能キャラになってきたねェ……。
ラティーシャちゃんは地面に降り立つと、杖の先端でテシ子の頭をコンと叩いた。
「このおバカ。なんで、こんな簡単なこともわからないのですか」
「お、おいおい、ラティーシャちゃん? いきなり暴力はちょっと……」
「ケンゾーさんもなのです! 前日、ファビさんとちょっと喧嘩したのですよね?」
「喧嘩っていうか、まあ、その、そんな感じではあったけど……」
こん、と頭を小突かれる。全然痛くない。達人の手加減である。
目を白黒させていると、ラティーシャちゃんはあきれ果てた顔になる。
「なんで気づかないのです……? 逆に凄いのですよ……」
彼女は盛大にため息を吐いた。
「城内にコルンさんもファビさんもいなくて、ここに足跡が一つしかないなら、答えはシンプルなのです」
一息入れて、言う。
「コルンさんがファビさんを着て、城を出たのです。誘拐犯なんていないのですよ。どちらかの、あるいは双方の意思によって――ファビさんが着用者の身体を操作する能力を持つ以上、少なくともファビさんの意思はあるでしょうね」
えっ? ……どういうことだ?
ラティーシャちゃんがもう一度、俺の頭を軽く叩いた。
「つまり、これは家出なのですよ、ケンゾーさん」
……えっ!?
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