第65話 レベル看破おじさん
結局、魂鑑定器はファビが望もうが望むまいが作るしかない。
「戦士さん、今の商人の後対応、頼めるかい」
「おう。むしろ、出張ってもらって悪かったね。そいじゃ」
戦士さんが部屋を出て行く。
その後ろ姿を見ながら、考える。
こちらを陥れようとしてくる商人や、利用しようとしてくる貴族達……。そういう人たちに対して、その魂胆を見抜いて対応可能な道具は、実務経験が乏しく政争に疎いイザヨイ領にとっては有用――というか、必要だ。
「スキルツリーは解放されてる。さっと用意できる素材で、ひとまず一個、作ってみようか」
〈……わかった。でも、作るなら、ファビを脱いでからにしてよね〉
「えっ」
〈ふんだ〉
なんてことだ。いつもは着ろ着ろとうるさいファビが、自ら脱ぐように言ってくるなんて……。
俺は迷った末に、
「……脱ぐぞ、ファビ」
言って、鎧に手を掛け、脱いだ。娘が少し、わがままを言っているだけだ。なんなら、親離れという奴なのかもしれない。
……そう思ったが、基本的にずっと着用しているもんだから、脱ぐとこう、俺の方がかなり心許なく感じてしまった。
「……つい脱いだけど、貴賓室に置いていくわけにもいかないよねェ」
「では、わたくしがお部屋まで運んでおきますわ。ああでも、少し重たいですわよね。どこかで台車を――」
と、隣室で控えていたコルンさんが言ってくれた。
ありがたい。そうなんだよな、ファビは重たいんだよ。
〈……待って、コルン。さすがに手間でしょ。ファビを運ぶのに一番いい方法は、着ることだよ〉
この発言もまた、驚きだった。
普段は〈相棒以外に着られるなんて考えたくもない〉なんて言っているくせに、自分から他人に著られようとするなんて。それを知っているから、コルンさんも困惑気味だ。
「よいのですか? ファビ様」
〈ん。加齢臭するかもだけど、それでもいいなら〉
「ぐっふ」
急角度でおじさんを刺してきた。ふぁ、ファビめ……相当拗ねてるな……?
苦々しい顔をしていると、コルンさんが微笑む。
「ええ、かまいませんわ。むしろ好きですよ、成熟した男性の匂いは」
「おっふ」
今度は真逆のベクトルからコルンさんが刺してきた。流し目で。
〈……ほら、相棒は魂を覗き見するプライバシー皆無な道具を作るんでしょ? さっさと行ったら?〉
「ああ、うん。わかったよ。……またあとでな、ファビ。コルンさんも」
●
そして、俺はまた工房へと戻り、
「お戻りになられましたか、ケンゾー殿。……おや、ファビ殿は……」
「ん、ちょっと……な」
怪訝な顔のテシ子に「何も聞かんでくれ」と雰囲気で念じ、アイテム作成に入る。主な材料は四つだ。『人工精霊銀』、『クラフト合金』、『精製魔石』、『石英』。
まず『人工精霊銀』と『クラフト合金』を炉で熱して混ぜ合わせ、叩いて薄い『霊工板金』にしてからフレームを切り取り、成形。形は……細い丸眼鏡でいいか。リムとテンプルに謎言語の呪文の装飾を刻む。細かい作業だが、クラフトレベルカンストのおじさんにはお茶の子さいさいだ。
……なお、どんな呪文を刻めば良いかはわかるのだが、その呪文がどういう意味なのかはまるでわからない。ラティーシャちゃんあたりが興奮しそうな研究材料だな。今度、見せてみよう。
『魔女鍋』で『精製魔石』と『石英』を煮込んで合体させた『神秘硝子』を、これまた板状にしたあと削り出し、成形し、表面を研磨してつるつるに。度はつけない。
さて、出来上がった二つのレンズをフレームにはめ込めば、
「『鑑定術の眼鏡』の完成だ」
出来上がった眼鏡を掛けて、周囲を見てみる。
うん、悪くない。あとは、実際に人物を見てどうなるか、だが――
「どうぞ存分に、ケンゾー殿。嘗め回すように見てくださいませ」
「ありがとう。だがそのワードチョイスはやめてくれ」
テシ子が直立不動で実験台になってくれた。
俺はてっきり、『魂見月鏡』みたいに色が映ると想っていたが、
「おお……」
まるでARみたいに、眼鏡の視界にそれが映し出された。
「テシ子、お前――レベル57らしいぞ」
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