第63話 アーティファクト修復おじさん
スキルツリーを開放したことで、『魂見月鏡』の仕組みはおおよそ判断できた。
作業台の上に手鏡を置く。鏡面のかなりの部分が紛失しているが、まあ、なんとかなる。
「この道具は、ある種の観測装置みたいだねェ。レンズのようなもんだ。鏡に映した相手の魂がどんな色か判別する。まずはオリジナルを修理するところからやろうか」
ダークエルフの秘宝だったわけだし。
オリジナルはオリジナルとして補修してコルンさんに返すべきだろう。
まずは鏡の裏面に付着した銀を削り落としてガラス片に分別。銀は別で保管しておく。
それからお馴染みとなりつつある『精製魔石』、採掘してもらっておいた石英、そして割れた鏡の欠片と共に『魔女釜』に突っ込み、煮込んでおく。
「鏡って、ものすごく単純に説明すると、ガラス板に薄く銀を塗ったものなんだよねェ。で、この神器も構造は似たようなものなんだけど、全体に神力が付与されているみたい」
「あら! では、星生みの女神様から与えられたという伝説は……!」
「本当なんじゃないかなと思います。……ただまあ、魔力とクラフトエナジーが相互に変換出来るように、神力も変換可能みたいだねェ」
〈つまり、魔力から神力に両替できるってこと?〉
そゆこと。
この世界の仕組みのひとつなんだろうな、別ゲームのエネルギーを両替できるようになっているの。そういうシステムにしてくれた女神様に感謝だ。
……女神様が本当にいるのか、あるいは別ゲームからもたらされた存在なのかは、わからないけど。
「なので、元のパーツも可能な限り再利用しつつ、魔力を付与した素材で精一杯きれいに補修すれば、自然と馴染んで元の力を取り戻すはず」
〈その理屈だと、テセウスの船みたいに補修しまくって最終的にオリジナルのパーツがなくなっても、オリジナルの効果を発揮できることにならない?〉
「おじさん、哲学の話は苦手でねェ……」
鏡手鏡の枠と持ち手は銅製なので、きれいに掃除して補修剤入れて磨くだけでいい。まずは枠と持ち手の装飾をミリ単位で計測。あとで仕上げの際、元通りに出来るよう、羊皮紙にデザインを残しておく。
「さすがケンゾー殿、図面が正確ですな」
「クラフトレベルがカンストしてるからねェ……」
付随する技能も、当然のように達人級だ。
埃や汚れを除去し、サビを落としていく。深く食い込んだサビについては、もう削り落とすしかないな……。そうやってサビを落とし終わったら、傷に補修剤を垂らして埋めていく。補修剤は『精製魔石』と銅をクラフト炉で溶かし合わせて作ったものだ。
で、厚めに盛った補修剤を、今度は丁寧に削って違和感がないようなめらかにする。『大鍛冶城』に保管されていた金属やすりからスタート。大幅に欠けてしまっている部分は、デザイン通りの装飾を別で作り、接着して修復。
やすりを徐々に目の細かいものに換え、紙やすりも使って磨き、最後は布で拭き上げてツルツルに仕上げ、さび止めの油を塗り込む。
そうこうしている間に『魔女釜』でドロドロに溶けた状態で『魔女硝子』が完成していたので、整形して丸い板状に。そこに『月霊銀』を薄く塗布する。そぎ落とした銀に、先日作った『人工精霊銀』を少量追加して、クラフト炉で煮込んでおいたのだ。
テシ子が目を丸くした。
「ケンゾー殿、その銀は……!」
「ああ、テシ子の精霊銀を加工したときに、ツリーを解放したからねェ。妖精の鱗粉とか、そういうタイプの素材があれば、本物が作れるっぽいんだけど……」
鱗粉を何の粉末で代用したかというと、スライム君の分泌液である。彼らもまた精霊の一種らしいからねェ……。
さて、完成した鏡を枠にはめ込み、最後にもう一度きれいに拭き上げて、修復完了だ。
ぴかぴかの鏡面に、おじさんの冴えない顔が映っている。うんうん、新品同様とは言わないが、かなり良い具合に修復できて――と、
「おじさんの胸のあたりが、なんか光ってるねェ……」
〈黄色……これが相棒の魂の色?〉
ファビを透過して、おじさんの魂の色が見えているらしい。
コルンさんがおじさんに顔を寄せて、鏡を覗き込んだ。おお、顔が近い……。そして、むにゅん、とおっぱいがおじさんの二の腕で潰れているが、ファビの甲冑があるため何も感じない。無念。
「黄色は善性と理性の色です。嘘を好まず、親愛と敬意を忘れない、そういう方の色ですね。――ええ、ダークエルフのしきたりでは、合格の色です」
俺の隣で映り込むコルンさんは、胸のあたりで淡いピンク色の光が輝いている。
「へえ、コルンさんはピンクなんですねェ。どういう意味ですか?」
「桃色は愛欲と繁殖欲の色です」
聞くんじゃなかったなァ……。
「肉体の交わりを好み、子を為し、種を繁殖させていく欲求が強い、そういう色です。ダークエルフはだいたいこの色ですね。ケンゾー様、女にここまで言わせたのですから……おわかりですよね、合格のケンゾー様……?」
聞くんじゃなかったなァ……!
「はっはっは、まあ合格かどうかはさておいて、これはコルンさんに――ダークエルフに返却します」
「あら、やっぱり、つれないお方ですね」
言いつつ、コルンさんは嬉しそうに手鏡を受け取ってくれた。
「ありがとうございます、ケンゾー様。ダークエルフの秘宝が我が手元にあり、ダークエルフがこうしてティリクの森にいるのですから、我々はまだ滅んでいないと確信できます。ええ、本当に――ありがとうございます」
深く頭を下げるコルンさん。きっと、いろいろな思いがあるのだろう。
……ちなみにテシ子を映してみたところ、真ん中に少しだけ白い部分のあるピンク色だった。「強い矜持と自尊心を持つ色……が、周囲から桃色に浸食されて、ほぼ桃色ですね。うふふ、お仲間です」だそうだ。もう何も言うまい。
ともあれ。
「これ、過去を見ることも出来るんですよね?」
「はい。この魂の色の変化や光り方、明滅の頻度などから、過去を類推することも可能だとか。熟練の長老ならば、生まれた時から現在までの経験を詳細に言い当てると。ただ、わたくしにはそこまでの識別眼がなく……」
「うーん。まあ白だけで二百色あるらしいしねェ……」
あんまり詳しくないけど、RGBカラーコードってのだと確か、256の三乗だけ色が存在するはずだ。つまり、計算すると……あー。
なんかすごいいっぱい色があるわけだ。そこに光り方まで絡んでくるなら、まあ、ほぼ無限だよなァ……。
となると、やっぱり……。
「ファビのために、過去の記憶や状態を見られる道具を作るとするか!」
〈いや、ファビはいいよ。……うん、もう大体わかったし〉
「ええ……?」
少し固い声で、ファビが言った。困惑する俺に、ファビは言葉を続ける。
〈……相棒。それからポンコツ二人も。気づかなかったみたいだけどさ。その鏡に、相棒に着られているファビの色は映らなかった。――これがどういう意味か、わからない?〉
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