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あなたには秘密です!  作者: 明石 みなも


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9/30

一回目の茶会

 エメラインへの返事を出した数日後、ノエルは難しい顔をして離宮の庭にいた。


 瑞々しい緑の輝く初夏の庭は爽やかな風が吹き抜け、日差しも眩しく気持ちいい。外で茶会をやるにはうってつけの陽気だ。

 ノエルはガゼボに案内され、そこで人を待っていた。相手は第二王子のヴィンセントである。


「殿下、いらっしゃいませんねぇ」


 今日もノエルに同行したリサがそうぼやいた。かれこれ三十分ほど待っているが、ヴィンセントは姿を現さない。そう、姿は。


「……」


 ノエルの敏感な鼻はヴィンセントの匂いを捉えていたし、耳には息遣いが届いていた。

 ヴィンセントは間違いなく庭に隠れている。ノエルにはその位置まで正確にわかった。


(……やっぱり、私って気持ち悪いわね)


 その事実に庭に出た瞬間気づいたのだ。

 ヴィンセントの匂いが前世の婚約者とまったく同じであるせいで、彼の体臭に対して過敏に反応してしまう。自分の執着にげんなりした。


 ただ、あの頃のような番に対する沸き立つような興奮はなく、その点に安堵する。もう本能に振り回されるのはごめんだ。

 それはともかく、ヴィンセントが何故庭に隠れているのか。


 よくわからないが、これが彼の会う気がないという意思表示ならノエルに異論はない。

 だってノエルは一度手紙で断っているのだ。今日ここへ来たのは父の裏切りがあったからである。


 父ときたら、昨日悪びれもせずに「お茶会断ったんだって? エメライン様がお金持って『説得してくれ』って頼んできたよ。受け取っちゃったから行ってらっしゃい!」と言い出した。


 「賄賂では」と怒るノエルに父は「エメライン様の個人資産から出てるから」と言い訳になっているのかわからない言葉を吐いた。

 ちなみにその金は毎日任務を頑張ってくれている一族みんなへ均等に配られたそうだ。


 父が着服したならともかく、そういう使い方をされたら返金しろとは言えない。それに金は既に高い肉やら新しい服、珍しい武器などに変わっていた。

 ノエルに選択肢はなく、悔しいので父には最高級のヘアオイルとブラシをねだり、ある条件を突きつけて王宮に来たのである。


 今日から週三回、期間は決まっていなかったが、ノエルから一ヶ月のみと提示してここへ通うこととなった。

 つまり、十二回の茶会を終えればエメラインはノエルを諦めてくれるということだ。

 そうして臨んだ初回からヴィンセントは茶会をボイコットしている。中々順調な滑り出しだった。


「はぁ、早く帰りたいですねぇ。お嬢様、喉は渇いておられませんか?」

「まだ全然大丈夫」

「それにしても、これはどういうことでしょうね。前回はこんなことなかったのに……」


 ぼやきが止まらないリサはテーブルに置かれた茶と菓子を見て首を傾げた。今日用意されたのは紅茶とチョコレートケーキだ。


 飲み物なら紅茶やコーヒー。食べ物なら玉ねぎやにんにく、葡萄、そしてチョコレート。

 そこらへんがノエルにとって特に気をつけるべき主な飲食物だ。狼だけではなく、豹や虎などの獣人もそれらを食べてはいけないと言われている。


 獣人はそれぞれ種族によって食べられないものが違う。

 前回ほぼ完璧なものを用意したエメラインがこんな過ちを犯すとは思えなかった。

 キメラの息子を持つ彼女が獣人の食べられないものを知らないとは考えられない。


 だから、こんなことをしたのは何らかの意図があってのことだろう。

 しかし、それもヴィンセントが同じ席に着かなければ、ただのノエルに対する嫌がらせにしかならなかった。

 ちなみに、用意した侍女は今日も近くに控えることなく立ち去っている。


 リサと取り止めのない話をしながら時間を潰していると、知っている匂いを感じた。

 漂って来る離宮の方角に目をやる。今日も一分の隙もないエメラインが姿を現した。

 ノエルとリサしかいないガゼボを見ると美しいのに空恐ろしい笑顔を浮かべる。


「あら、エメライン様ですね? あら? あらあら……」


 エメラインはあくまで優美さを保ったまま、ずかずかと庭の生垣の奥へ姿を消した。


「ヴィンセント! 何をやっているのです!」

「は、母上……」

「そんな物陰からコソコソ婚約者を眺めるなんて変態ですか!? そんなことをしなくともブラックウッド侯爵令嬢はあなたに会いに来ているのですから前に座ったらいいのです!」


 隠れていたのにあっさり見つかったヴィンセントにエメラインが説教を始めた。彼女の声はよく通るため、こちらにも聴こえている。

 まさか庭にヴィンセントが潜んでいるとは気づいていなかったリサは唖然としていた。


「ほら行きますよ! 女性を待たせてはいけません!」

「痛っ! 引っ張るのはやめて下さい!」

「引っ張らないと動かないじゃありませんか!」


 そんなやり取りのあと、母親に耳を引っ張られるという情け無い姿でヴィンセントは登場した。

 異形の見た目もこうなるとまったく威圧感がない。


「ごきげんよう。ごめんなさいね。ヴィンセントったらあなたが可愛らしいから照れてるみたいなの」

「母上っ!」

「まず挨拶をしなさい。三つの子供でも出来ることですよ」

「……ごきげんよう」


 ニコニコ笑うエメラインと不機嫌極まりないヴィンセントにどう反応すればいいのか困る。

 できればずっと隠れていて欲しかったという本音と、「すっぽかすなら普通に仕事でもしていれば良かったのでは?」という素朴な疑問がないまぜになった複雑な気持ちを隠し、とりあえずノエルも挨拶をしておいた。


「ヴィンセント、座りなさい」

「……」

「座りなさい」


 ヴィンセントはまるきり反抗期のような態度だ。

 それでも渋々母親の言うことに従って、ノエルの対面に座った。エメラインはにこやかな笑顔をノエルに向ける。


「それではあとは二人でゆっくり過ごしてちょうだいね、うふふ」

「……母上、待って下さい」

「あら、その歳になって母親同席なんて幻滅されてよ」

「違います。これはどういうことですか」


 大人しく着席したはずのヴィンセントの声が怒りを滲ませて低く響く。

 何があったかと見ると、ヴィンセントは鋭い眼差しでエメラインを睨んでいた。興奮からか瞳孔が開き、鋭い歯の覗く凶悪な表情だが、エメラインは涼しい顔だ。


「何かしら?」

「何かしらではありません。この茶と菓子はなんです? 嫌がらせですか」

「まぁ、なんのこと? わたくしは何も指示してなくってよ。今日から彼女の歓待はヴィンセントの役目ですもの」


 エメラインはにっこりと笑った。逆にヴィンセントは苦虫を噛み潰したような表情になる。


「別のものを用意してくださ――」

「あら、それはわたくしではなく侍女に頼むことではなくって?」

「それは」

「わたくしはこれで失礼するわね。ごきげんよう、ブラックウッド侯爵令嬢。ゆっくりなさってね」


 口籠る息子を無視してエメラインはノエルに礼をし、そそくさと立ち去る。優美なのに止める隙のない素早さだった。

 見送ってしまったヴィンセントは深いため息を吐く。

 そして、何故か恐る恐る口を開いた。


「……申し訳ないが、少々、待っていてくれないか」

「かしこまりました」


 ノエルが頷くとヴィンセントは立ち上がり、母の後を追って離宮の中へ入っていった。


「……また、待たされるのですか……」

「いいじゃない。私は交流なんてしたくないから待たされる方が都合がいいわ」

「……そういう考え方もありますね」


 うんざりしているリサを宥める。ヴィンセントとの面会時間は二時間と決まっている。

 彼は表に出る以外の政務をかなり負担していて、結構多忙だ。ノエルと会う時間を捻出するのは大変だろう。

 その貴重な時間はもうすぐ半分何もしないまま終わろうとしている。


 そのまま仕事に戻ってくれても構わなかったのだが、ヴィンセントはさほど時間をかけずに戻って来た。

 何やら難しい面持ちでノエルの前に立ち、恭しく手を差し出した。


「……今が見頃の花がある。案内をしよう」

「まあ、ありがとうございます」


 一体どうして気が変わったのかわからないが、ヴィンセントは真面目にノエルと交流するつもりらしい。突然の変心の意図を探るため、ノエルは素直に従った。

 差し出された手は初対面の時とは違い、黒い手袋に包まれていた。

 さらりとした手触りの布を隔てて、細かな震えとほんのりとした冷たさがノエルの手に伝わる。


(……緊張してる?)


 咄嗟に顔を盗み見るが、表情に変化はない。ゆったりとしたエスコートも余裕を感じさせた。

 すん、と気づかれないように鼻をひくつかせる。少し汗の匂いが強くなった気がしたが、それだけだ。


(家族以外の人との交流があんまりないみたいだから、そのせいかな?)


 ノエルは気づかれないようにヴィンセントを観察した。

 エスコートこそ慣れてはいるものの、視線は泳ぎ、なるべくノエルと距離を保とうとする様子は警戒する猫のようだ。


 ふと、前世の婚約者のことを思い出した。彼はノエルに会う時はいつも自然体で、女性の扱いにも慣れた様子だった。今のヴィンセントとは正反対である。


「…………その」

「なんでしょう?」

「……………………ここから先が今花盛りの庭園だ」

「まぁ、素晴らしいですね」


 案内された開けた庭には大小様々な形の花壇に季節の花が寄せ植えにされていた。開花時期も様々だろうにどれも満開で、正に今が盛りである。


 本当に素晴らしい庭園で、ノエルはゆったりと花を愛でたかった。しかし、ヴィンセントが何やらそわそわしているせいで、落ち着いて見ていられない。


「…………あの」

「はい?」

「…………………………先程は配慮のないものを出してしまって申し訳なかった」

「お気になさらず。よくあることです」


 そんな謝罪を受けたが、話し出すまでの長い沈黙から、どうも本当に言いたいことは別にあるのではないかとノエルは思った。

 ヴィンセントは相変わらず落ち着きなく視線を彷徨わせて、口元をもぞもぞさせている。


(『もう来るな』とでも言いたいのかな)


 今までのヴィンセントの態度から本音を予想した。本当にそう言われたら、婚約者になる気もないし、ノエルとしては喜んで二度と来ない。しかし。


(……お金、貰っちゃってるからなー)


 ノエルがここに来ているのはエメラインとの約束のせいだ。ヴィンセントにいくら「来るな」と言われても、それに従う訳にはいかない。


「…………そ、そろそろ戻ろう」

「はい」


 庭園を一回りしたところで、ヴィンセントはそう言った。

 結局、言いたいことを言えなかったせいか、ヴィンセントは微妙な顔をしている。


 ノエルも季節の花が楽しめず、微妙な気持ちだった。

 しかし、正直に「楽しくないです」と言う訳にもいかず、粛々とエスコートに従う。

 元いたガゼボが見えて来たあたりで急にヴィンセントが立ち止まった。ノエルもつんのめりそうになりながら止まる。


「で、殿下?」

「すまない、もう少し庭を散策してもいいだろうか」

「は、はぁ……」


 戻ると言ったのはヴィンセントなのに何故また散策に行くのか、思わずガゼボと彼の顔を見比べた。

 ガゼボにはリサの他にもう一人、新しい人物が待ち構えていた。

 すらりと背が高く、涼しげな顔立ちをした赤毛の青年である。服装から従者などではなく、文官らしいと見てとれた。


(殿下の秘書官かな?)


 いくつか政務を任されている以上、ヴィンセントにも補佐がつく。

 本当に秘書官なら主人の留守中は執務室にいるものだが、何か緊急の仕事が入ってヴィンセントを呼びに来た、という感じではなさそうだ。

 それならあんな場所に待機せずに、すぐヴィンセントに声を掛ける。理由(わけ)あってあそこにいるらしい。


 ガゼボのテーブルには新しいティーセットと菓子皿が用意されていた。

 席を外しているうちに侍女が来たようだが、その姿は見えなかった。また給仕をリサに任せて立ち去ったのだ。

 ――王子が口にするものなのに。


 わかっていたことだが、ヴィンセントは明らかに使用人に避けられている。『化け物王子』と恐れているのだろう。

 そして、ヴィンセントもまた他人を避けている。


 新しい飲み物と菓子の準備の間、その場を離れたり、自分の秘書官らしい青年がいるガゼボから逃げようとするあたり相当他人が苦手なようだ。

 ノエルはピタリと足を止めた。踵を返そうとしていたヴィンセントも釣られて動けなくなる。


「殿下、申し訳ありませんが、私足が痛くて」

「そ、それは……」

「休ませていただきたいです」

「わか、った」


 なるべく弱々しく見える表情を作ったノエルに、ヴィンセントは目を泳がせて渋々頷いた。

 実際、慣れない踵の高い靴を履いているので本当に足が痛い。ただ、まだ歩けないというほどではなかった。


 あの文官の青年を避けて散策に出てもいいのだが、彼からは穏やかながら梃子でも動くまいという強い意志を感じる。

 あの青年と顔を合わせないために、これからヴィンセントに付き合って一時間近く庭を歩き回るのはごめんだった。


 ヴィンセントは文官の青年と目を合わせないようにノエルを誘導したが、彼の方が一枚上手であった。

 流れるように滑らかな動作で二人の前に滑り込むと、行く手を遮り、一礼した。


「失礼致します。わたくしは殿下の秘書官をしております、アッカーソン公爵家の三男、パーシヴァルと申します。以後お見知りおきを」


 彼はにこやかにそう名乗った。大変人好きする笑顔である。

 ノエルは彼の身分にびくついた。

 アッカーソン公爵家はエメラインの実家だ。現在公爵の位にあるのは彼女の兄であり、その息子の彼はヴィンセントの従兄弟にあたる。


 アッカーソン公爵家は王族の外戚となっているが、国政からは距離を置いている。

 不正の温床になるため、妃の親族が国の要職に就くのはよろしくないという考え方を持っているからだ。


 公爵本人は一年のほとんどを領地で過ごし、領主として辣腕を奮っている。

 確かノエルの記憶が正しければ、長男は父親の補佐を、次男は辺境で騎士をやっているはずだ。

 傍流の者たちは何人か王宮に残っているらしいが、まさか第二王子の側近に直系の令息がおさまっているとは思わなかった。


「ご丁寧にありがとうございます。私はブラックウッド侯爵家の長女、ノエルでございます」


 正直言って、ヴィンセントに対してよりも緊張しながら挨拶をした。今のところヴィンセントとの邂逅はいつも突然で、緊張する隙を与えてくれない。


「どうぞお寛ぎ下さい。今準備をいたしますので」


 パーシヴァルは貴公子らしい優雅な物腰で横へ避けて、ノエルはやっと椅子へ腰を下ろした。

 椅子を引いてくれたヴィンセントもさっさと自分の席に着く。ガゼボに着いてから一言も発しない彼の眉間には深い皺が刻まれていた。


 その様子が少し気になったが、パーシヴァルが給仕を始めてそれどころではなくなった。

 ヴィンセントはともかく、身分が下のノエルが世話をされていい相手ではない。

 背後にいるリサがオロオロしていることが雰囲気で感じ取れた。


「こちらのハーブティーは殿下がお好みのものです。茶菓子はショートブレッドでございます」

「あ、ありがとうございます……」


 手際良く給仕をしたパーシヴァルに礼を言うと爽やかな笑顔が返って来た。

 パーシヴァルはヴィンセントにも笑いかけたが、目を逸らされ、まるっと無視されている。


 関係ないのにハラハラするノエルを他所に、パーシヴァルは気にした様子もなく、ヴィンセントの背後へ移動した。

 訪れた沈黙に、ノエルはどうしたらいいかわからず、とりあえずハーブティーに口をつける。


「……とても、おいしいです。お手数をおかけして申し訳ありません、殿下」

「いや……。あれはこちらの不手際だったし、そもそもぼくも食べられないものばかりだった」

「ああ、そうですよね」


 ノエルは会話の糸口を掴んで、ホッとしながら改めてヴィンセントの姿を眺めた。

 山羊の角に、烏に似た鳥の羽が生えた耳、皮膚を覆う竜の鱗。

 これだけ複数の動物の特徴を備えたヴィンセントはきっとノエルよりもずっと食べられるものが少ない。


 身長の割に細身の体をしているが、それも安全に食べられる食品が限られていることが原因かもしれない。

 この茶や菓子もノエルよりヴィンセントに合わせたものだろう。


「……君は」

「はい?」

「君は、ぼくが気持ち悪くないのか」


 唐突な質問にノエルは押し黙った。


(どう答えるのが正解?)


 気持ち悪い、と言えば確実にヴィンセントに嫌われるはずだ。

 今後良好な関係を築く気はないノエルにはそちらのほうが都合がいい。


 しかし、その場合エメラインの不興を買うことになる。

 仲がいいらしい父とエメラインの間にヒビを入れるようなことはしたくなかった。

 答えあぐねていると、ヴィンセントが「すまない」と謝ってくる。


「答え難い質問をしてしまった」

「いえ、その……」

「聞かなかったことにしてくれ」


 そう言ったきりヴィンセントは黙り込む。

 会話が途切れて気まずい空気が流れる。それからはどんな話題を選ぶか悩むばかりで何も話せず、時々食器が擦れる音だけが響いていた。

 時間になるとヴィンセントは立ち上がって、ノエルを見下ろした。


「……わかっただろう。ぼくはこのようにつまらない男だ。無理して会いに来る必要はない」


 そっけない拒絶の言葉は多分ずっと彼が言いたかったことだ。ノエルは曖昧に微笑むほかなかった。


「約束ですので、また明後日参ります。会うか会わないかは殿下がお決め下さい」


 エメラインとの約束はどうあっても反故(ほご)にはできない。だからあと十一回はここへ絶対通うつもりだ。

 ノエルはヴィンセントに選択権を委ねた。


 ヴィンセントは微かに眉を顰め、顔を背けて歩き出す。

 控えていたパーシヴァルは丁寧にノエルに一礼してからその背を追った。結局ヴィンセントは最後までパーシヴァルを無視していた。


 ヴィンセントの姿が離宮の中に消えたところでやっと、肩の力を抜く。ずっしりと疲労が押し寄せた。

 背後のリサも深いため息を吐いている。


「何というか、どっと疲れました……」

「私もよ。慣れないことをするもんじゃないわね」

「それにしても、殿下のあの態度は……。前途多難ですねぇ」

「そっちの方がいいじゃない」

「いいんですか、それで。見た目はともかく、中身はなかなか良さそうですよ」

「そうかしら? いえ、それ以前に私に王子妃が務まると?」

「……無理ですね」


 リサはあっさりと結論付けてため息を吐いた。

 忌憚なさすぎる意見に笑みが零れる。たとえヴィンセントが担当しているのが内政のみでも、王子の妻が何もしない訳にはいかない。

 ノエルに社交が無理、というより無理をして社交に励むほどの情熱をヴィンセントへ抱けなかった。


(彼はあまりあの人には似ていなかった)


 そのことにノエルは深く安堵するとともに一抹の寂しさを覚える。

 匂いも顔立ちも似ている彼もまたノエルと同じ生まれ変わりだと、どこか期待していた自分に気づく。


(そんな偶然、あるはずがない……)


 前世の記憶を持って生まれ変わったノエルが稀な存在なのだ。

 婚約者だったヴィンセントまで生まれ変わるなんて奇跡、起こるはずがなかった。

 だが、ヴィンセントが生まれ変わりではない可能性が高くなったのは朗報だ。


 だが、これから一ヵ月、沈黙が支配する茶会に通わねばならないと思うと流石に憂鬱になった。

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