終わりが始まり
皆様、ここまでのお付き合い感謝いたします、ナツメグです。
うねうね曲がりながらの本作でしたが、継続して書けたのは皆様が見てくださったおかげです!
ありがとうございます!
終話 終わりが始まり
皆さんが、これからの彼女達を、心の中の世界で見守ってあげてください。
どうぞ!
シエルの身体を包んでいた黄金のオーラ…可視化されるまでの純度を持った魔力が、消える。
「…アル…シエル」
「動かないでください」
シエルが、大魔術師の頭に手を翳す。
それは決して、相手の健闘に敬意を表したがための治癒などではない。
「ぐっ、あ゛ぁぁ!!」
「脳の一部の機能を制限しました、これで人間のあなたは魔術を使用出来なくなりました」
大魔術師は脂汗を噴き出し、苦しげに悶えている。
封印を解く術はない。
やがて術式の魔力が剥がれ落ちれば再び彼は力を取り戻すだろうが…その後を決めるのは、これから彼が見る世界の姿だ。
「…………」
次元の穴が閉じる。
同時に、庭園の兵士が、揃って力を失っていく。
植物たちに対して抵抗する動きがなくなり、気絶した者もいるようだった。
「…シオンさん」
「終わって…ない、わよね」
「ええ」
まだこれからです、その言葉の持つ重みが、少女達を変えて、世界を変えていく。
一夜で全ての決した壮絶な死闘の一部始終を知るものは少ない。
だが、庭園に倒れ伏した8000の兵、彼らの家族、友人…それらに刻み込まれたものは、確かにあった。
次元魔法はその全てが禁術として指定されることとなり、以後、大陸アルカディアに“異世界”が交わることはなくなった。
その後シエルの指導のもと、王政は廃され、ガルバンディアは大陸で最初の議会制民主主義国家となる。
「これでよかったのかしら」
「シオンさんこそ、帰らなくていいんですか?」
「見届けなきゃならないのは、あの魔術師だけじゃないわよ」
「そうかもしれませんね」
戦いの跡が遺る王城はそのままに、今では議事堂としての役割を果たしている。
あれからほんの1ヶ月、異例の速度で立て直されたガルバンディア国。
慣れない制服に嫌気が差した三馬鹿は、国の仕事を蹴って以前のように冒険者稼業に精を出しながらも、彼らのお節介が邪魔してか、衛兵に毎日訓練を施している。
「腰が入ってねーぞ!」
「それにしても…魔術だけは私たちにはどうしようもないわね…」
「あの男が直々に指導してた魔術兵ッス、心配いらないッスよ」
現議事堂の庭に控えめに主張する小さな墓には、この国の、この世界に求められるものを体現した、一人の男の魂が眠っている。
「こんなになっても兵を鍛えなきゃならん世の中を見て、アイツはどう思うかね」
けれど、世界が彼に追いつくのには、もう暫く時間が必要になりそうだ。
「よぅ、お弁当屋さんのお二人」
「お久しぶりです、その節はお世話になりました」
「まーた来たのね、胡散臭いチビスケ」
営業を再開した一期一会に姿を現したのは、いつかの獣人。
相変わらず飄々として掴み所のない少年は、しかして今日はニカニカと笑っていた。
「なんで来たかは分かってるかね」
「…1ヶ月の間、どうにも歯切れの悪い日々でしたよ」
「教えてもらえるのよね、いい加減に」
ニカニカと笑った少年の口角が、また一つニイッと吊り上がった。
綺麗に片付けられたダイニングのテーブルは、まだ処分せずに残されていたために、今なおこの家では現役続投だ。
いくらかは以前より寂しさを感じるものの、かつての懐かしい面影は今もそのままだ。
「まずは、営業再開おめでとう」
「ありがとうございます」
「どうもね」
くるりと1周首を回して辺りを見回す少年。
引き戸を隔てて店頭のカウンターにすぐ繋がるこの部屋の造りは、生活の一部として夢であった弁当屋を営もうというシエルの意思の現れか。
「さて」
ニヤニヤと笑う少年。
言わずとも予想はついているのだろうと、試すような目をしている。
「名前当てクイズとかしてみるか?」
「おおよそ分かっていますよ、クイズになるんですかね」
「そうか、じゃあ答え合わせってのが適切かねえ」
シオンにはちんぷんかんぷんの話ではあるものの、彼女なりに、『この世界では少年の皮を被った奴は信用ならない』という程度には疑ってかかっていた。
「また魔術師?」
「また戦争を吹っかけようなんて気はないよ、安心安心」
「?」
また、というのは、次元の大魔術師の目論見を指しているのか。
彼は、
「…殺してくれ、って言ってた」
「…ん、あぁ…けれどただの死にたがりってわけじゃない、そうだろう?」
「うん」
『これで、完成する』
死によって完成するものなんてあってたまるものか…一度はそう反骨心を抱いて啖呵を切ったものの、彼の目的は最後まで読めなかった。
分かるのは、
「…嫌な未来、見たみたいだった」
「…だろうね」
それだけ。
彼が見た未来は恐らく、戦いの果て、その更に果て…何も残らなくなった世界。
世界を見た。次元を超えた。時を渡った。
その先に、何もかもが不毛となった“結末”を知った。
「馬鹿な男だ」
「…ホントにね」
少年が溜息を一つ。
その仕草はやっぱり、どうしてもその姿には似合いはしなかった。
「…彼は、死ぬことでオチになる、木っ端な小説を書いたのさ」
「…なんでそんな」
「獣人であり、一騎当千の魔術師…それが王を倒したとなれば、戦乱の種には充分すぎるだろ?」
「それじゃあ…」
シエルがコクンと頷く。
「…最初から試すつもりだったんです…自らが死んだ後の人を、獣人を」
「ま、そうは言っても君らが負けてたら今頃大陸は消えてなくなってたろうさ」
最初から全てを滅ぼす気でいた。
それは本気だった、だからこそ、こちらも本気でかかった。
けど。
「ヤツが死ねば、君らは王がちょっかいを出してた隣国の人間だと疑われただろう…そして不毛な争いはやがて加速して、強すぎる力と魔法により、彼の見た未来へ収束する」
「で、やり直し…数世紀以上の規模で、人類から争いを消そうとしたの?」
「頭の悪い奴だろう?人間がまたゼロからやり直せばいつか変わるかもなんて考えてやがるのさ…ゼロに百を与えたのは自分のくせによう」
彼もまた、別の道から世界を変えたかった不器用な男だった。
ただ、結末を先に見てしまったのでは、どんなに努力したくても、抗えない壁を感じてしまうことだろう。
「これから、“異世界”を排したこの世界がどう歩むか…道を間違えれば、同じような奴がきっと来るぜ」
「それが私になるかあなたになるか、分かりませんね」
「笑えないぜアルシエル、アンタが一番頑張らないといけないんだろうよぅ」
魔術師のジョークは世界規模の危機を孕んでいて、それが実現できるのだからタチが悪い。
「大丈夫でしょう、真実は既に公開していますし、次元魔法がなぜ封印されたのか考えるというのも…これからの世代は有望ですよ」
窓をチラリと見ると、いつかの学校の子供たちが散歩していた。
手を振る彼らの顔は、希望に溢れていた。
そして空いた片方の手は、人間と獣人を繋ぐ架け橋だ。
「君たちなら大丈夫かもな」
「あなたも、私たちの作る未来が見たくて来たんでしょう?」
「???」
さてと、と席を立つ少年。
相変わらず不思議な笑顔を浮かべたまま。
「使命は、無事果たせましたか?」
「満足だ」
「???」
シオンの頭上には疑問符がふわふわ。
けど、最後の言葉だけは、彼女がこの先何年経っても忘れることの出来ないものになる。
「大昔の尻拭いしてくれてありがとうな…後は頑張れ、人間を、獣人を信じさせてくれ」
「さようなら、バルゼアルク」
すぐには思い出せなかった。
どこかで聞いた名前、どこかで見た名前。
「バルゼアルク…?」
やがて喉のつっかえが取れたように彼の名前を思い出した時、彼女は知るだろう。
世界を変えたくて失敗をする間抜けが、世の中にはまだいたということ。
そして、彼が全ての始まりであり、全てを終わらせるために来たのだということを。
「???」
いくつかの夜が過ぎて、今夜は満月だ。
丸く浮かんだ月は、いつかの夜のように庭園を明るく照らし出している。
綺麗な満月というのは陽光をも凌ぐほど明るいとも言うが、しかして本当にそう感じるほどに清々しい夜だ。
「寒いわね…」
手の中の荷物を冷やすのはシオンのポリシーに反する。
お腹でそれを抱えるようにして、旧王城の地下へと駆け下りていく。
「お、っとと、さすがに地下は暗いわよね」
コツンコツンと靴の音が鳴る。
静かな地下牢は、本来なら利用する予定のないはずの場所で、けれどもシエルたっての希望でここに一人の男を幽閉している。
「お元気?」
「生き地獄だ」
「舌切っても死ねなかったでしょう?痛いだけだからやめときなさい」
1ヶ月で改心するなんて虫のいい話は端から期待してはいない。
だが、あれからのシエルとシオンを見ていて、何も感じていないわけではないようだった。
「…簡単に行くと思っているのか」
「アンタみたいに短絡思考で戦争けしかけるよりはね」
「…………」
やり方はもっとあったはずだ。
出来ることも多かったはずだ。
「頭が硬かったのよアンタは」
「…そうかもしれんな」
「私の世界見たでしょう」
元大魔術師が、ピクリと反応した。
「どう思った?」
「…平和を知らない人間しかいなかったよ」
「…なるほどね」
誰も、本当の平和なんて知らない。
それはどこの世界でもそうだし、どこの次元でもそうなのだろう。
「あたしも当然、平和とか戦争とか知らないけどさ」
「…………」
「例えばお隣さんの国と仲良くなるきっかけが出来たら、ちょっとはそういうのに近づけるでしょ」
そういった姿も、シオンの世界ではほんの少しだけあったかもしれない。
世界は、どこで繋がっているかわからないのだ。
「国と国がつながるには、人と人がつながらないといけないでしょ」
「…そうだな」
「だから」
お腹に抑えていたものを取り出す。
ほんのり温かくて、冷えた手と、心を溶かす。
「一緒にご飯食べましょうよ」
「…………」
「人と人がつながるのが、ここでしょ」
受け出し口に弁当箱を差し出す。
ゆっくりと、手が伸びる。
「ほら」
「…………」
じんわりと、温もりが伝わる。
食材の、命の温もり…シオンの伝えた、温もり…そして、心の温もり。
「…中身は」
「山菜と海鮮の天ぷら弁当」
「わかってるじゃないか」
大魔術師が、初めて素直に笑った気がした。
ほんの少し口角が上がったように見えただけで、気のせいかもしれない。
けど、そうだとしても、なんだかその顔を見れたのが、たまらなく嬉しかった。
「手を合わせて」
「……わかったよ」
「「いただきます」」
白く立ち上る湯気が、暗闇でもわずかに見て取れる。
じっとりとタレが染み込んだ天ぷらは、サクサクとした食感とじゅわっとした食感が共存し、口の中で熱と共に踊る。
「どう?」
「…………」
「オッケー、最高の返事」
黙ってガツガツと食べる彼には、とても大魔術師の面影は見られない。
それが何だかおかしくて、ちょっと頬を緩ませながら、シオンも弁当を頬張る。
食べることを怖がっていた彼女は、もういない。
「…本当はお前が一番最初に“変わって”いたのかもしれんな」
「どんなに小さくても変化は変化だからね」
シオンの視界の中、暗闇に光るものが見えた。
今はそれが何なのか、詮索はしない。
笑っていても泣いていても、美味しいものの前に、人は平等だ。
「誰かと食べるご飯って、おいしいね」
「…あぁ」
「…優しいですね、シオンさんは」
「喜んで弁当作るの手伝ったくせに」
玉座の間は外壁が吹き飛んでおり、夜風が吹き込むものの、この国で一番高い場所から見下ろす世界は美しい。
人々は夜でも活発に外を歩き、首都を一層盛り上げる。
「アリンコみたいって思う?」
「いいえ、人は人です」
「きっとそういう気持ちを忘れないことなんでしょうね」
戦争。
何か一つタガが外れると、人は人を人として見れなくなる。
けれど、話せば言葉が伝わり、食卓を囲めば笑って共に飯をつつく。
戦いの根絶に必要なのは、力で抑えることよりも、“過去の過ち”という教科書よりも、まず、“人”を知ること。
「いっぱい勉強になる世界ね」
「えぇ、わざわざ他所の世界に行くことなんてありません、ここはここです」
「あぁ、まったくもってそう思うよ、俺も」
脳に響くような、不思議な声が聞こえた。
辺りをぶんぶんと首を回して見てみても、誰もいない。
「…あ」
…なんてことは、ない。
「忘れちゃったんですか?」
「まさか」
この城には、今も、もう一人大切な仲間がいる。
「ありがとね」
「ありがとう」
今夜は満月。
月下に立つ3人が、彼らの国が、そしてやがて世界が。
ほんの小さな何かを生むと信じて。
「さぁ、帰って仕込みしましょうか」
「はい!」
お弁当屋さんでも、世界を救える。
ご覧いただきありがとうございます、行き当たりばったりで書いていたものですので、構成もグダグダですし、風呂敷の畳み方もイマイチでしたね。
さて次回作ですが、全くの未定です。
なんとなくまたバトルを盛り込みたいとは思うんですけど、ここで異世界ファンタジーを書くのってポケモンでガルーラを使うのと似た感覚を覚えて…ちょっとまたひねくれた作品書くかも知れませんね?
いつかまた私を見たなら、ちょちょいとページを開いたり、お声掛けいただければと!
皆様、これまで本当にありがとうございました!
また会いましょう!




