次元越え
遅くなり申した、ナツメグでございます。
本作1万PV突破ありがとうございました!皆様のおかげです!
さてさて、いよいよ現れた敵ですが、果たしてシオンは?シエルは?どう立ち向かうのか?
今回も、どーぞ!
「まだ語る口があるとでも?」
「闘いを嫌っての『アルカディア』じゃなかったかしら?」
「闘いは消えん、その行く先を決めたければ殺すか殺されるか選べ」
地鳴りが轟く。
城ごと大地が震えている。
中空に空いた幾数もの次元穴は、中途半端なこの世界を否定するかのように『異世界』を吐き出し続ける。
「何が目的?」
「さてな、こちらはもう飽きが来ているんだ」
「…!!」
ガルザードがカッと杖で床を突く。
今のシオンは幻影でもなんでもない、生身のシオンだ。
「死ね」
「させるかッ!!」
見たことも無い魔術だった。
黒いエネルギー体のような何かがシオンを囲み、その身を喰らおうと肥大する。
黒球が触れた床は、スコップで地面を掘り返したようにして、あっという間に抉れていく。
ガルザードが結界を間に合わせられたのは奇跡と呼んでもいい。
「ある世界ではこんなものが生まれた」
次元の魔術師が手に取ったのは、次元穴から吐き出された…ガルザードは見たこともない、金属の何か。
「…………」
シオンは知っていた。
シオンは、けれど、揺らがない。
「武器を手にした人間は手放すことが出来ず、殺すための武器なのか身を守るための武器なのかも忘れ、ただ力を求めた」
「そうね」
トリガーを引く。
弾丸がシオンの頭部を襲うが、結界に弾かれる。
「何…だ?!」
「銃とか、鉄砲なんて言う…私たちの世界の武器」
「シオンの…世界の…?!」
ここは、剣と魔法のファンタジーの世界だった。
だが辺りを見れば、見慣れた電子機器や家電、銃火器に工具…
世界が壊れていた。
「あなたは…」
「…世界を守りたいなら殺してみるがいい、殺すことで、殺すことを否定してみろ」
「シオ…ンッ!!」
この男は、
時と世界を渡り歩いたこの魔術師は、
「…見たのね、未来を」
音が、光が、
消え
て
………
「シオンさん?ガルザード?」
「重役出勤だなアルシエル」
答えはない。
ただ、血に濡れた男の腕に包まれて、少女が震えていた。
「…ガルザード…冷たいよ…シエル…」
「…………」
次元の魔術師は笑う。
「力を求めた男の最期がこれとは、珍しいこともあるものだな」
ガルザードは背に、腹に、無数の風穴を開けて、それでも。
「…守ってくれてありがとうございます」
満足げに笑うばかりだった。
その指先は動かず、その顔に変化もない。
ガルザードという人間は、殺すことを躊躇わないと決意をして、それなのに、
「…あたしなんかに付き合って…馬鹿じゃないの…」
シオンを守り抜き、そこに最高の死に場所を見出したのだろうか。
「…………」
シエルが次元の魔術師に顔を向ける。
刹那、
玉座が吹き飛んだ。
塵となって砕け散った玉座と、愉快げに宙を泳ぐ魔術師。
「…今ノが、最初で最後の八つ当たリだ」
「…シエル…?」
彼女の拳からは血が滴る。
床には、誰のものとも知れなくなった血液と、塩っぽい水だけが流れる。
「ガルザードは…人は変わレるって!!証明したンだ!!!」
「ならば貴様は何故、私を殺そうとしている?私を殺すことで戦いを否定できると思うか?」
次元の魔術師は、少し悲しそうに笑う。
何度も見てきた物をまた見せられるような、ガッカリしたような悲しみの表情。
「同じだ、こうして戦いが繰り返される…連鎖だ、繋がっているのだ」
「違ウ」
「何が…!!」
「この世界を歪メたのハお前ダ」
次元の魔術師は訝しげに眉をひそめる。
彼に、苛立ちの色が浮かぶ。
「…私は」
「力は力でナいと抑えられないから、力持つもノを滅ぼス…私もそう考えタことはアる」
「なら…!」
けど!!と力強くシエルが遮る。
彼女の眼光は閃光となり、意志は鋼となる。
「人は変わル!最初から完璧でハ生まれ落ちない!!だから変わる力があるンだ!!」
ゆっくりでも食べ物の恐怖を乗り越えているシオンのように、
過ちに気付いて、自分なりの“何か”を取り戻そうとした、不器用なガルザードのように。
「…貴様に何が理解できるというのだ」
「こっちノセリフだ、人の歴史はブツ切りで見れルものじゃナい」
次元の魔術師が、僅かばかり面食らったような表情をした。
その言葉には、彼の見た全てを否定する力があったからだ。
「争いで人が死ぬコトを肯定はしナい」
でも。
「そこに人が変われル何かを残した、人々の死だケは否定しない!!」
シエルが小さく呪文を呟く。
その魔術は、彼女が生み出した最悪の魔術で、
けれど、その恐怖さえ踏み越えて、先へと。
「人ト獣ノ境ハ消エ、交ワリテ其ヲ“獣人”トス」
力は力でないと抑えられない。
それはある意味真理で、シエルはそれに抗いたくて今までを生きてきた。
「我ガ下ヘト降レ、純粋ナル魔ノ力」
逆らいたくとも逆らえない。
けれど、ほんの少し何かを変えることは出来る。
「血液トナッテ我ガ身トヒトツニナレ」
だとしたら、
その無限に続く力と力のループに終止符を打つのは、最後の力だ。
「降魔」
シエルの身に、魔力が宿る。
ただ、それだけ。
「シエ…ル…?」
「オマエハ殺シナドシナイ!!生キテ“この世界”ヲ見届ケロ!!」
それだけなのに、全てが違う。
彼女が踏み締めた床は踵がめり込むように砕かれ、彼女が触れた物の全てが形を失う。
「…これ…庭園の兵士の…」
「これが真の降魔か…!ククッ、認めようアルシエル!!私にもあの術は使いこなせていなかったようだ!!」
獣人の身体には、魔力が流れる。
それは血液のように循環している―――。
シオンが、いつか聞いた話。
「だから…獣人にしか扱えない…」
ガルザードはかつてこう言った。
獣人だって人間と共生できるというなら、シエルの生み出した、獣人のみに許された破壊の魔術とは何なのか、と。
それは過ちで、それは生まれてはならない魔術。
人が使えば脳に滞留する膨大な魔力にやがて殺され、獣人が使えば破壊の限りを尽くし何も残らない。
だから避けてきた。
「それが答えか!アルシエル!!」
「答エナンカ出テイナイ!!私モ、コノ世界モ!!」
逃げない。
最後に、自分が一番恐れていたものと向き合って、すべての決着をつける。
「次元断絶!!」
「モウイイ」
次元を裂いて閉じた空間は、一秒と持たずに粉砕される。
「時空穴!!」
「モウヤメテ」
全身を飲み込む巨大な異次元の穴は、足を鳴らすようにして踏み砕かれる。
「絶対慈空…!!」
「次元越エナンテ、碌ナモノジャナイ」
壁が生まれる前に、その掌に握り潰される。
「降魔…!!!」
「これで、全部終わりにしましょう」
世界の運命を分かったのは、魔術師同士の戦いらしからぬ、本気の拳だった。




