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出会いに乾杯

なつめぐです、いかがお過ごしでしょうか。


さてさて少し遅れた更新ですが、今回はどうなるでしょうか?

偽王の正体は?



今回も、どーぞ!






「死に場所が欲しいの?」


「いいや違う、完成するんだ、これで」




シオンは眉をひそめた。


受け取った言葉を咀嚼して吟味する。



実に30秒間、ゆっくりと考えた後、






「あたしはアンタ嫌いだわ」


「そうか」






王の指が動く。


興味が失せたと言わんばかりの一撃。

真横から真空の刃がシオンの首を刈り取った。


ゴトっとあっけない音を立て、シオンの頭だったものは玉座の間を情けなく転がる。




「…………」




王の額にビキビキと筋が走る。


子供の姿にはあまりにも似つかわしくない怒気を孕んだ鬼の形相。



そんな顔を見て、せせら笑う男がいた。




「久しぶりだな国王…いや、王様気取りのお山の大将か?」


「手品師に成り下がったなら兵に追わせる必要もなかったな、ガルザードよ」




シエルの身体と頭が霧散する。


風に流される水飛沫のように、空気の中に消えゆく。




「あー怖かった」




ひょっこりとシオンが扉の陰から顔を出す。


冷や汗で襟が湿っている。




「いきなりおっ始めるのはよしてくれないかしらね、アタシは素人なんだから」


「その素人が何をしに来た?」




シオンは、両の頬をバチンと叩いた。


その目にもはや、恐れの色はない。






「戦いを止めに来たに決まってんでしょうが」








庭園はまさしく死屍累々と言える光景が支配していた。


倒れ伏す無数の兵。

杖を折られ力なく地面に獣を投げ出す魔術師たち、剣を砕かれ戦意を失った歩兵たち。



しかし、不思議なことにというか奇跡的にというか、この庭に散った命の数はゼロ。


どんな色よりもこの庭に似合う色と問われたなら答えは赤だろうが、今その色を放つのは、月明かりに照らされた花だけだ。




「はぁ…はぁ…」


「あと…何人かしら…ね」


「……半分ちょっと、…ッスかね…」




彼ら3人は、薄らと勘づいていた。



この庭に最初に加わる赤色は、自分たちになるだろうということを。



堅牢な筈の鎧が砕ける。


剣が折れ、ナイフが弾かれ、剣先を打ち砕かれた槍は物干し竿も同然。




「あぁぁあああ!!」




ただ一つ折れないものがあるとするなら、彼らの意志だけ。




「う゛ぅ…っ…あぁぁ!!!」




武器が無いなら拳でいい。

鎧が破壊されたなら身軽で助かると、彼らは強がってみせる。


失って、壊されて、折られて、けれどたった3人で。




「間に合った!!!」




守り抜いて見せた。






美しきかな生ける花々(アラベスク)!!」






花が、蔓が、草が。


意思を持つかのようにして、兵達の足に絡みつく。



ある者は引きずり倒され、ある者は無理な抵抗に体が追いつかず脚の骨を折る。



地平線さえ見えそうな広大な庭園、そのすべての植物を支配する。


圧倒的な情報量を処理する彼女の脳は今にも焼ききれてしまいそうだ。




「…っフー…フー…」




本来、こんな無茶をするための術ではない。


樹木の一本を思うように動かすのだって、並々ならぬ努力が必要なのだ。




「うう…」




視界が赤く染まる。


血が涙のように溢れ出す。



呻き声が聞こえる、されど足音はない。


目論見通り成功したのだと確信し、安心は意識を薄れさせる。




嵐は、止んだ。




4人は黙って地面に伏した。


誰が生きていて、誰が死んでいるか定かではない。




「…………」




消えかけの視界の中、ぼんやりと城に目をやる。


後は、2人がやってくれる…。




「…………」




シオンさん。



彼女は、こんな世界に縁もゆかりもないのにここまで付いてきてくれた、


一緒に弁当屋で働いてくれた、


自分が気に食わないからと言いながら、本当は誰よりも優しいから一緒に城へと乗り込んでくれた。




「…私も…」




一番大切な人、私のパートナー。




「…………」




『 アンタといれば死なないみたいだし』




「…………」




『 危なくなったらアンタのとこに逃げるわよ』




「立て……」




『シエル』




「立て!信じてくれた人と!一緒にいなくてどうするんですかっ!!」




嵐の後に風が吹くとしたらそれはそよ風か、はたまたつむじ風か。


否。




嵐が二度吹かないなんて、決して言い切れない。




シエルは頭の獣耳を隠さない。


獣人であることを恥じたことなど1度たりとてない、その胸には誇りの炎が爛々と輝きながら燃えている。




「!」




何かが背にぶつかった。


振り返って地面を見たなら、そこには三つの小さな金属片。




「…みんなも一緒に、連れていきます」




3人は、黙って親指を立てた。








「して、どうする」


「国の一大事らしく、文化的にディスカッションなんていかがかしらね」


「お喋りは苦手なのだがな」




ガルザードは構えを解かない。


いつ何があってもいいように、その手に握った杖を今一度強く感じる。




「まぁ、田舎娘の他愛ない質問よ」


「聞きたいことが?」


「山のように」




シオンに焦りや動揺はない。


人と人の会話だと割り切って落ち着ける彼女は、本当はこの場の誰よりも強いのかもしれなかった。




「好きな食べ物は?」


「昔から山菜が好きでね、揚げたものがたまらなく好物だ」


「いい趣味してるわね、やっぱり中身はお年を召していらっしゃるのかしら?」




聞きながらでも考えろ。


奴の皮、その内側には何が潜む?



相当な魔術師、おそらくシエルを凌ぐ…それだけは疑いようもないこと。


だが、シエル以上の怪物など、歴史書にも数人載っているかどうか。




「それなりにはな」


「ミステリアスな男はカッコイイって奴かしら?私の世界でもちょっと前によく聞いたわね」


「そうか、お前はアルシエルに呼び寄せられたのだったな」




ガルザードの知る限り、その域に達した魔術師は2人。



1人は、過去の大戦を引き起こした稀代の戦争狂、古き王…バルゼアルクという名の魔術師。


彼は、戦争の後姿を現しはしなかったということと、

彼の城に誰が誰か分からないほどの死体の山が築かれていたということから、戦死したとされている。



そしてもう1人は、




もう 1人 は




「えぇ、ひょっとしてアナタも?」


「…そうだな、遥々異界の王城まで訪ね歩いて来たお嬢さんのために、その問い、答えよう」


「おいシオン、離れ-―」




天井に穴が空いた。


シオンは、



その穴に、見覚えがある。




穴からモノが落ちる。


電気ケトル、携帯電話、電子基盤…あまりにも世界観にそぐわないそれら。



現代と中世が中途半端に混ざったようなこの世界。


その中にあって、やたらと「現代」の色が強いと違和感を覚えたこの部屋。



そういえば、




誰 が 「現代」 を 持 ち こ ん だ ?






「――歴史の勉強が足りなくて失礼したわね」


「致し方あるまい、お前の読んだ歴史書には、恐らく“没年不明”とあったのだろう?」




ガルザードは頬が引き攣るのをハッキリと感じた。


自身もシエルも、やがては魔術指南書などに名前が載るだけの魔術師だと自負しているし、実力に裏打ちされた自信があった。



けど、そんなものは紙屑ほどの意味さえも持たないのだと、シエルよりも更に高い壁が、いや、壁なのか分からないほど高い『何か』が立ちはだかっているのだという圧力。




「誰も“没してなどいない”」


「教科書を作った人に言っておこうかしらね」


「それは大変嬉しい心遣いだ」




偉大なる賢人と出会いを果たした喜びに歓喜の涙を流すべきなのか、或いは――




「ええと、名前はなんと言ったかしら?」


「決まった名前はない、あちこち歩いては姿と名前を変えているからな」


「じゃあ、なんて呼んだらいいかしら」




絶望に打ちひしがれ、ただただ虚しい涙を流すべきなのか。






「気軽に、“次元を渡り歩いた大魔術師様”とでも呼んでくれ」






敵はあまりにも強大で。




「著書に“異界探訪録”という書物がある、是非御見知りおきを」




勝つとか負けるとか、殺すとか殺されるとかじゃなく――




――明日、世界が滅んでいなければいいな、なんて――






「ビビってんじゃないわよガルザード」




――!




「もうちょっと生きてみたいわよ、私も」


「…………」




そうだ。


彼女が、シオンが、一番…






「奇遇だな」




元より死は覚悟の上。


ならばこの命、既に消えたも同然。



死してなお、この世界に何かを残す機会があるとするならば。




「俺もだ」




それは今だ。






「さぁ名も無き大魔術師様、ディスカッションを続けましょう?」

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