ゼロ
風邪を患いまして、大きく更新が遅れました…申し訳ない!
いよいよ決戦が近い本作、最後までお付き合いください!
今回も、どうぞ!
「侮ったな」
玉座に鎮座して言う偽王に、しかしながら焦りや動揺といった変化は見られない。
彼を止める術は最初から、彼を殺すということ以外に存在しないためだった。
「できんよ」
それは虚勢ではなく、それは慢心ではなく、第三者の目を通したとしても同じ答えが返ってくるに違いがなかったから。
「来てみろ」
偽王は動かない、偽王は揺るがない。
「シエルちゃん、次元越えをしたあなたなら、本丸にひとっ跳びじゃないの?」
「相手が相手ですし、さすがに対策は怠らないでしょう…」
「シエルの禁術を易々と実験するような奴だ、下手な真似は出来ん」
壁はあまりにも強大、そして未知。
文字通り、何があるかわからないのだ。
「…それより…」
何よりも心配なのは、
「…本当に、シオンさんも来るんですね?」
「ええ」
シオンの存在。
明らかに場違いであることは誰しもが認知しており、しかしながら本人たっての希望だった。
「守らなくていいわ、盾にでもなれればそれでいい」
「でも…」
「じゃあ危なくなったらアンタのとこに逃げるから、余裕あるときだけ助けてくれればいいわ、あとは自分でやる」
自分でやる、とはいうものの、それで納得出来ようはずもない。
しかし。
「…何か、したいの」
その気持ちもまた、ここにいる皆に痛いほどに伝わっていた。
「…死んでも骨は拾わん」
「それくらいの方が気が引き締まるわ」
事実として、今回の戦いでは確実に死者が出る。
だから冒険者の手を借りるわけにもいかないし、逆に参加するからには、助けないことを前提に、まさしく盾、あるいは駒のような扱いをする方が賢い。
闘いとは、不確定な事由を極限まで取り除くものであるがために、規模に比例して、その冷たさも増していくのだ。
ここは現代日本ではない。困っても110番は通じない。自衛隊は来てくれない。
ここにいる人間全員が、数々の戦いを潜り抜けてきた戦士であるが故に、この瞬間、不安、同情、あらゆる余計な感情を切り捨てた。
…はずだった。
「らしくねぇなぁ!じゃぁオッサンは盾を守る盾だな!」
「似合わないこと言うんじゃないわよ、まだ若いのに」
「皆で一発ずつ王を殴るんスよ、みんなで」
シオンも、思わず苦笑いを溢してしまった。
死ぬ覚悟を決めようにも、当分は死ねないらしい。嬉しい悲鳴だ。
「…まったく…ところで兵団長様、作戦は?」
「正面突破」
「乗った」
最後まで自分らしく。
小賢しい作戦が通用する相手ではない、それならすべて打ち砕きながら前進するのみ。
命散ろうとも、自分らしさという馬鹿らしさを爪痕にして、一つ残して消えて見せる。
「ところで、あの役人の方は…」
「…強引に外させた」
「…二人も息子を失うことになったら…お母さんが辛いですもんね」
力になりたいのは彼も同じことだろう。
しかし、彼の身に何かあっては、母親があまりにも不幸だ。
それでは、とガルザードが一つ置き、詳細について話す。
「…城にはシエルが獣人の村で発動したものと同じ障壁が確認されている」
「…それじゃあ」
「ただ、陣は無いと見ていい…俺たちの戦闘を見て同じことをするとは思えない」
「…………」
つまるところ、小細工は通用しない。
障壁の破壊で消耗したところを確実に仕留めにかかるとみてほぼ間違いがない。
できることは限られている。
「障壁の破壊はシエル頼りだ」
「…おそらくその後の戦闘までは持ちませんよ」
「そこからは俺がやる」
偽王を倒すのは、ガルザード一人では難しい。
しかしながら、彼にしかできないことであり、彼自身、どうしてもシエルに代わってやり遂げたいとも感じていた。
「…以上だ、作戦はない、壁に穴が開いたら内部に侵入、機を伺い、場内に入り込む」
「シンプルで俺好みだ」
「複雑なことをできる頭じゃないだろう」
決行は深夜。
本当ならば今すぐにでも逃げ出したい…シオンは吐き出しそうになるほどの緊張感を抱え、それでも最後まで、シエルに添い遂げたかった。
「1時間後に決行する」
夜、ガルザードの声が重くシオンの耳にのしかかる。
今度こそ死ぬかもしれない、何かできるから行くわけでもない。
けれど、この戦いを見届けなければならない、そんな気がした。
「シオンさん」
「シエル」
優しく語り掛けるシエルの姿は、ほんの少し諦めの影を彼女の心に落とす。
こんなことに命を懸ける必要はないのだと、言外にシエルが諭す。
「…行くわよ、私は」
「…………」
しかし、彼女はブレない。
それはカッコいいことなんかじゃないし、命あってのなんとやらというように、シエルが望んだ結果でもない。
しかし、それでも彼女の心に燃える正体も掴めない不思議な使命感が、彼女の体をも突き動かすのだった。
「死なせませんからね」
「頼もしいわ」
こうなったら彼女を止められないのはシエルだって嫌というほど知っていたし、そんな彼女だったから一緒にここまで来ようと思った。
夜霧が辺りを包み込んだ頃、固まった決意に応えるようにして、ガルザードの合図とともに、一つの国を巻き込んだクーデターが始まろうとしていた。
「行こう」
静かに、ただ静かに。
士気を上げる号令も、軍歌も必要ない。
誰もが今宵、死にに行くつもりもなく、かといって先の見通しもなく、何もかも0の状態で歩を進めた。




