風が吹き始める
こんにちは、ナツメグでございます。
こんかいはいよいよ始まる決戦!
最後まで正面からぶつかる彼らの姿に括目をば!
今回も、どうぞ!
「始めてくれ」
「…はい」
衛兵たちは既に障壁を突破することを見越してか、庭園に所狭しと武器を構えて整列している。
王にとって、この障壁が持つ意味など、ほんの体力を消耗させるだけのものでしかないのだろう。
「彼の地に降り立て、主神の御使いよ」
かくして、その作戦にしてやられるわけだが、これでいいし、これ以外に手もない。
「ひと時、ただひと時、神器を我が手に握るその罪を許し給え」
最大最高、魔術師アルシエルの限界の一撃が、穿つ。
「神槍」
凝縮された烈光の槍が、シエルの手に握られる。
全長にしておよそ10メートル、神の槍の名を冠するそれは、破壊の化身となって、爆風を伴いながら放たれた。
見てくれはシンプル、一筋の雷光は、しかしながら想像を絶する破壊力でして、絶対慈空に大穴を開けた。
「シエル!」
「雑兵の相手をするくらいの体力はあります!早く行って!!」
汗を浮かべる彼女。
それを囲むように、三人の勇者が舞い踊った。
「こっちは任せろ」
「ガルザード、その代わりその子ケガさせたら大目玉よ」
「シオンさんは任せたッスからね」
ガルザードとシオン。
二人は互いに顔を見合わせた、それだけで十分だった。
「…シエルもさぞお守りには疲れていたことだろう」
「こんな性格してっから、迷惑かけんのは慣れっこよ」
シエルが、迫り来る兵士の海に、火球を落とす。
威嚇射撃にしては聊か派手だが、道を作るには十分事足りた。
「今です!!行って!!」
抜群に噛み合った阿吽の呼吸、それがなければ不可能という神がかり的なタイミング。
一直線に庭園を走り抜けた二人は、瞬く間に場内に忍び込んだようだった。
「さぁ久方ぶりのチーム戦だぜシエルちゃん!!」
「魔物でなく人が相手なのはいただけませんね!」
「どっちみちぶっ飛ばさないと頭冷やさないわよ!!」
「つまり遠慮は不要ッス!!」
彼らは、かつてガルバンディア中にその名を知らしめた4人の勇者。
一人一人の力こそ全盛期のようには発揮されず、堕ちた伝説とまで囁かれてもいた。
しかし、今宵この戦いを見たものが居たのなら、そのような口を聞こうなどとは、二度と思いはしないだろう。
4人そろったチーム“大嵐”は、誰が呼んだか、その名に恥じない、通った道に草の根一つ残さないような大破壊を見せる。
「さぁ懐かしい陣形だな!」
「4人が固まって円を描きながら…でしたっけ?」
「こんなのウチしかしてないわよ」
「ウチだからできるんスよ!」
その名の由来、破壊の車輪。
オッサンが力で敵の攻撃を弾き飛ばし、一帯をシエルが魔術で制圧、寄った敵は三十路が切り裂き、少年の槍が残りの敵を貫き、新たに迫る敵の目を引き付ける。
ローテーションのように全方向をカバーしながら進む様はまさしく嵐。
そしてその名が表すように、彼らが得意としたのは、集団戦だった。
「吹き飛ばせ!!」
超自然現象に例えるのは決して大げさなことではない。
鬼神の如きそのパワーは、一介の兵士など相手にすらならないだけのもの。
混乱を極める庭園は、たちまちに、たった4人に戦況を支配されたのだった。
「…あんなに強いの?」
「シエルの詠唱の間も攻撃が回るため文字通り隙が無い…強力な制圧攻撃が止まらない、というわけだ」
「兵団長的には?」
「4人としてはかなりの効率だろう、実力がなければ成立しない強引な陣ではあるが」
目を奪われる程の大嵐、しかしこちらも余裕はない。
大階段の陰に息を潜める二人は、上階に上る機会を伺っていた。
「…さすがに兵が多い」
「…まぁ見ときなさい」
見回りの兵が3人1組で目の前を通ろうとしていた。
そこにシオンが堂々と道を塞ぐ。
「な、なんだ貴様!!」
「す、すみません…弁当売りのもので…近くを通ったら突然巻き込まれて、慌てて城に…」
「…ふむ…」
興味深そうにシオンの姿を見つめる兵士たち。
夜の城内、明かりも乏しい空間の中、兵士の掲げたランタンが照らしたのは、
「…あれ、この女」
「もう遅い」
「あ…ああああ、ああ…あ…あ」
にんまりと笑う不良娘の顔だった。
そして彼女に気を取られ、一瞬でも隙を見せた彼らの喉を掴んだのは、ガルザードの灼熱の掌だ。
声帯まで容赦なく溶かしつくした彼らは、声も上げられないまま絶命していった。
「…異界人には強烈な光景か?」
「暗いから大丈夫、私のゲロといい勝負ってとこね」
「そいつはまた酷いランクの闘いだ」
ガルザードは躊躇しないし、遠慮もしない。
自分か相手が死ななければならないなら、どんなに無様な戦い方でもいいから、殺す。
生き残るためには、彼にはシエルのように手加減をすることはできないからだった。
「さぁ、次の階だ」
一つ、玉座に近づいた。
「おい…」
「…気づいてます」
庭園の4人は、ある違和感に苛まれていた。
衛兵の様子が、おかしい。
何がおかしいのか、その正体はつかめない。
しかし、その不気味さゆえに、尚のこと警戒せずにはいられない。
「これは…」
「洗脳の類ッスか?」
見れば、誰も彼もが息を荒げ、獰猛に突進してくる。
戦場の空気がそうさせているとか、そういった雰囲気ではない。
高揚した戦意の生み出した興奮ではない、明らかに理性…あるいは意識そのものさえも吹き飛んでいるように感じざるを得なかった。
そう、まさに、
獣のように。
「―――!!」
「シエルちゃ―――」
「彼らの攻撃を受けようとしないで!全部躱してください!!」
一つ、心当たりがある。
ガルザードが、彼が伝えてくれた、話に従うなら。
「―――禁術です!!」
次の瞬間、オッサン冒険者の背後に一瞬で迫った白銀の影は、文字通り刹那のうちに、その剣を荒々しく振り下ろした。
「!!」」
受けない。
まだ腐りきっていない冒険者としての第6感が命の危機を一瞬のうちに嗅ぎ取った。
「―――んぎっ…!!」
狭い道を通るように、垂直に振り下ろされた剣を、身をよじり、必死の思いで躱す。
剣を振っただけでは起こり得ないような恐ろしい音が鼓膜を叩いた、そう感じたと同時に足元の地面が割れた。
「!!」
剣が地面に突き刺さることだってあるだろう、勢い良く振ったなら地面に亀裂のような跡を残すこともあるだろう。
しかし、バカッと音を立て、掘り返されたかのように地面が割れるなど、聞いたこともない。
剣の達人ならとか、力の伝え方を効率よくしたならとか、技術云々の話ではない。
これは純粋な腕力があってこそなせるもの、それも人間の限界を超えた腕力が。
「…人間に使えばこうもなりますよ…!」
彼女がなぜこの術を禁術に指定したのか。
どうして、獣人でなければこの術は使用してはならないのか。
「…今はどうにかしないと!」
「どうしたらいいの?!」
「時間がたてば精神に異常をきたして倒れます!!昏倒させてください!」
彼女は、人間にこの禁術を使用した、その結果を知りはしない。
開発した時に分かった、この術の性質が。
それ故に気付いた、人間にはこの術はあまりにも危険…否、使い方を誤れば獣人であっても恐ろしいことが起こると。
「(…………)」
だから封印した、それなのに。
「…まさか使いこなす魔術師がいるなんて思わないですって」
まともに攻撃を受けようとしたなら骨の1本や2本は覚悟が必至。
タガの飛んだ屈強な衛兵たちは、人間の域を優に超えている。
「…今だっ」
「―――ッ」
時に不意を突いて奇襲し、時に目を盗んで走り抜ける。
王国の兵団長として戦いを学びぬいたガルザードといえど、潜入の達人ではない…一回一回、すべてが命のやり取りを求めてくる。
「王様はどこにいるわけ?」
「…玉座の間にいるのなら…中央の大階段からもう一つ上らなくてはならない」
目的の場所まではまだ幾分距離がある。
最後まで見つかることなく進めたならいいものの、侵入自体は既に気付かれているためか、場内の兵士の動きも慌ただしい。
庭園の様子はここからでは伺うことは出来ない。
しかし、いずれにしても時間をかけすぎることは、不要な死を生むことに直結する。
「…………」
そんな気持ちから焦ってしまったわけではない、はずだが。
「…誰だ!!」
「―――!!」
「(見つかった―)」
やがて訪れてしまう限界、訪れては欲しくなかった結末。
少女はそれでも拳を握り、青年はそれでも杖を離しはしない。
死を待つだけで終わるつもりはない、ここまで来たのには意味がある、理由がある。
「あれ?」
だが、
「ガルザード様…」
「お前は…」
風はまだ、背中を叩いていた。




