表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/34

俯瞰情景、主観情景



遅れ申した、ナツメグでございます。


いよいよ春の新生活も近づくという訳で忙しくなってきて、投稿ペースに乱れが出てきます。


週2本は確実に投稿したいと思いますが、何卒ご理解頂けますよう。



緊迫の戦闘!今回もどうぞ!






「攻撃の手を止めるなァ!常に火力を集中させろ!!」




半ばヤケクソの様なガルザードの指示が飛ぶ。


二百の兵が蟻のように群がり、一斉に壁を攻撃する様は、とてつもない迫力と恐ろしさを秘めている。




「ガルザード様!傷一つ入りません…ッ!」


「ぐっ…ならば…ッ!兵を三グループに分けろ!」




号令と共に、素早く兵が分かれる。


それはさながら、海が割れるかのようだ。




「短時間に高火力をぶつけてもこれは破れん!継続的に攻撃し、術者の消耗を図る!」




兵の体力や士気の問題もある。


丸一日全力で攻撃できればともかく、昨日の時点でもそれは難しかった。



必ずインターバルを確保し、一定の休息を与えねばならない。




「一時間おきに交代しろ!変化があったら逐一報告をするんだ!行け!!」




壁を壊すことよりも、長期戦に持ち込み本人の魔力を削ることに重きを置く。


これが最善策であると同時に、これしか打開策がないという現実に、アルシエルの強さを思い知らされる。




「だが…今度こそ仕留めてやる…!」




奴さえ倒せるのなら、どんな策だって弄じてみせる。











「…慈空への攻撃が…弱まった…」


「はて…諦めた訳ではなさそうじゃが…」




変化はシエル本人にも伝わる。


そしてそれが何を意味するのか、この作戦の最大の弱点を誰よりも知る、彼女自身だから理解する。




「…魔力を枯らせに来ました…一つ空けられた穴を修復するより、百の傷を常に修復し続ける方が魔力が削れますからね」


「ぬぅ…では…!」


「丸一日かけて頭も冷えたのでしょう、ここからが本番です」




シエルの表情から余裕が消える。


今の彼女には、もはやガルザードを侮るだけの余地はない。



魔力を供給し続けた彼女では、今の時点でも既に、万全のガルザードと闘えば結果がわからない。


それは、彼女に人を傷つけることが出来るとか出来ないとかを抜きにしたとて、だ。




「勝ちます」




しかし、それでもなお、彼女が臆すことはない。


アルシエルは止まらない、アルシエルは退かない。



頂点に立つ者の使命として、避けては通れないものがある。




「絶対に、守ります」


「信じよう」




長もまた、黙って見守り続ける。


この村の行く末を、この決戦の末路を、しかと見届ける。



その記憶が墓の下に埋められる事となっても、悔いはない。




「…祝福あれ」




口篭るように呟かれる小さな祈りが届くのか否か、それを知るのもまた、自分自身なのだから。







戦闘は膠着状態のまま、時だけが流れていく。


常人であれば、この規模の魔術を展開するだけで倒れてもおかしくはない。



だがシエルは、顔を歪めることすらなく、二日間を耐え切ろうとしていた。


それはまさしく化け物と形容されても不思議ではない程の域であり、19歳の少女が行き着くのは奇跡としか言いようがない。




しかしながら、その怪物アルシエルとていずれは力尽きる。



そこまで追い詰めるだけの者がいるならそれもまた化け物であろうか。


果たして、実際化け物だった。






「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」




一際大きな魔法陣が完成する。


雄叫びと共に、地面に描かれたそれは衛生軌道のように立体的に広がり、ガルザードを中心に輝きを放つ。




炎魔の戦槍(イグニートランス)!!」




ガルザードの背後から伸びる炎が束を成し、爆音と共に障壁に突き刺さる。


変化はない。



だが、そこまではガルザードも折り込み済み。




「炎陣!!」




ガルザードの得意とする、攻撃と同時に魔術自体を魔法陣に変化させる、連鎖魔術。


余計な時間を与えることなく高速で二次魔法に繋げる超常的な技術は、アルシエルにも劣らない。




竜の墓標(バハムートグレイブ)!!」




周囲から、大樹のような巨大な岩石の槍が突き出す。


本来相手の足元から不意討ちのような形で利用されるその魔術は、ガルザードの連鎖魔術によって、新たな意味を与えられる。






「連鎖!!火山龍の咆哮(ボルカノン)!!!」






宙空を漂う炎の魔法陣。


その真ん中を突っ切るようにして、岩槍が超スピードで飛空する。



火山弾のような爆熱、龍の角のような鋭さを備えた圧倒的破壊力の塊。


総計にして数十にも上る火山龍の咆哮が、壁に突き刺さる度に大爆発を起こす。




「はぁ...はぁっ...」




手応えは薄い。


これでもまだ足りないというのか。



やがて煙が晴れ、そこにそびえ立つ壁には、




「...!!!」






しかして、僅かな、ほんの小さなヒビが走っていた。






「攻撃を再開しろ!!!」




だが兵団が再び剣を、槍を、杖を向ける頃には、既にヒビは見る影もなく消え去っていた。




「くっ...!だが今の攻撃がかなり響いたはずだ!!敵は魔力を消耗しているぞ!!」




目の前でガルザード自らが起こした事象、そしてそこから伝わる敵の消耗。


兵団の士気は再び上がり、攻撃にも熱が入る。




「...ついに...貴様に追いついたぞ...アルシエル...ッ!!!」




ニタリと溢れた笑みには、少年のような純粋さと、悪魔のような不気味さが混在していた。




「このまま...貴様もろとも目障りな壁を消し去ってやる...!!!」










「なんて考えてるんじゃないでしょうかね」


「だ...大丈夫なのか?!ヒビが入ったのだろう?!」




だが、シエルはまだ崩れない。


汗が一筋頬を流れた程度で、他には何ら変わりのない、依然として平常心を保ったままのシエルだ。




「彼自身にあのまま攻撃され続ければ丸一日と持たなかったでしょうが...」




ガルザードは武器としての魔術を磨くことに余念がない。


その破壊力にはシエルも目を見張るところがあり、先日の一騎打ちの際も、結界が壊れそうだったという彼女の感想は実際彼への皮肉というわけではなかった。



あとほんの少しの威力を乗せられていたら、彼女は危なかった。




「ですが、連続して瞬間的な爆発力の魔力を放出するには、彼はあまりにも未熟です」




未熟。


大陸で彼女に最も近い人間でありながら、尚も彼女にそう言わしめるのは何故か。




「未熟...?」


「連鎖魔術の為の...彼がよく使用する炎の陣は、まだ完成度が低い...魔力の消費を完全には抑えられていません」




魔術で陣を描くというのは並大抵の技術ではない。


驚異的な制御能力を誇るガルザードでさえも、まだ陣に乱れが見える。




「実用こそできても、あれでは...彼が力だけを求めずあらゆる魔術を研究しようとしていたなら、もう一発程は連鎖出来たかも知れませんが」


「つまり...完全な威力も、完全な継続力も無いと?」


「そういうことです」




そして、単純に一つ開けられた穴を修復するだけなら容易いこと。


穴が空くまでにも至っていないというのが、現実ではあるのだが。




「...ただ」


「?」




「(...彼が自暴自棄にでもなったなら...どうなるでしょうね)」




「何かね?」


「...いえ」




その時には満身創痍の魔術師同士、杖で殴り合いでもするか。


いずれにしても、余計なことを考える余裕は無い。






彼女の頬の汗が落ちる頃、また一つの夜が明けた。











やがて朝靄が村を覆い、それを日の光がくぐり抜け村を暖め始める頃。




「アルシエル殿、食事はどうするかね」


「...片手で食べられるものを...簡単なもので」




一見緊張感の希薄なやり取りに見えて、実はそんなことはない。


シエルには文字通り手を離す余裕はもうないし、かと言って食事を摂らなければ、体力、魔力、共に枯渇は免れない。




「...用意しなさい」


「はい」




控えていた村人が動く。


彼らも、昨日、慈空に僅かにヒビが入ったことを知り、動揺している。




「............」




その姿を見て、今一度気を引き締めるシエル。


戦いは三日目に突入した。



ガルザードの兵がいつ退くかは知る所でない為、一瞬も気を抜けない。




「どうぞ」


「ありがとうございます...んむ、んぐ...」




いつだって食べることは人の生活と共にあり、その命を左右してきた。



今回もそれは変わらない。


双方にとって、キーとなるのは食料だった。




「...ん、...すみません、もう少し頂けますか」




一つ食べることで守れる命が一つ増えるなら、いくらでも食おう。












「ハァ...ハァ...」


「シオンちゃん、キツいなら言いなさいよ?」


「...言って村に着くなら言うけどね」


「憎まれ口が叩けるなら平気だな」




平原を疾駆するシオンたちは、殆ど休むことなく走り続け、あと三日としないうちに村に到着する見込みだった。



脚の痛みも、強壮剤による筋肉への作用だけでは誤魔化せなくなってきている。


いくら何でも、冒険者3人とシオンでは基礎の体力が違う。




「...今日は夜は早めに休む、寝るぞ」


「............」


「いやぁー俺も疲れてたし、ありがたいっス!」




無理を押して走ることだけが正しいことではない。


状況がまるで分からない現在、一定の余力を保っておかなければ、いざという時に何もすることが出来ない。




「ありがとう...」


「ちげーよ!俺が疲れてんの!適当な保存食あるからシオンちゃん料理してくれ!」




皆が黙って頷く。


誰も、シオンの為だとは言わない。



今はそれが、彼女を傷つけてしまうと知っていたから。




「...よし、じゃあ走れるだけ走ってからメシよ!」


「結局そうなるんスかー?!」


「馬鹿ね、疲れた分だけご飯は美味しくなるのよ〜?」




冗談を言える程には、彼等もまだ元気を持て余している。


どんな疲れも、笑顔一つで回復できる。



支え合うとは、こういう事なのだろう。




「走れ走れ走れー!シエルんとこまでー!!!」


「「「オォーッ!!」」」




時間を忘れ、無我夢中で走り続ける彼等には、これから何が起こるのか知る由もない。


しかし、それを知らないから悲観的になるのではなく、それを知らないからこそ前向きに、前のめりに、出来ることだけに一意専心。




“三馬鹿”なんて呼んでいたけれど、それは何も悪いことなんかじゃない。


馬鹿でも何でもいい、やれることだけをやれ。




「カッコいいじゃん、冒険者 」






三日目、戦況は二日目の変化以降停滞。


兵団の食料物資、残り32%。

兵の体力の問題からやや消費増。


士気、疲労から僅かばかり低下も、問題無し。



戦闘期限、推定残り二日弱。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ